通り過ぎただけ
何人かの友人と数台の車で乗り合わせ、ペルセウス流星群を見てきた帰り。
僕は、その中の一台で家の近くまで送ってもらった。もう少し見ていたいと言っていた子達もいたが、世間は盆休みでも何人かは明日も仕事って事で1時過ぎには解散となった。
大通りで車を降ろしてもらう。
「ありがと~」
「車、気をつけてな~」
「そっちこそ、気をつけろよ~」
軽口を交わしてドアが閉まる。車のテールランプが遠ざかり、やがて角を曲がって見えなくなると、急に辺りは静かになった。
信号も既に、赤と黄色の点滅に変わっている。昼間はそれなりに交通量のある道も、今はひっそりとしている。深夜の住宅街は静寂に包まれていた。家々の明かりもほどんど消え、等間隔に並ぶ街灯だけぽつぽつと道を照らす。
そのとき、不意に音がした。
ぎい、・・・ぎい。
規則的な、金属の軋むような音。
・・・なんだ?
足を止めるほどではないが、耳の奥に引っかかる。少し考えて思い当たる。一瞬何の音かわからなかったが、ブランコか。
歩きながら、自然とその方向へ意識が引かれていく。そこからしばらく歩くと、確かに公園はある。ブランコも勿論ある。
そう思い至って、ようやく音の正体に納得する。けれど納得と同時に、別の引っかかりが残った。こんな時間に誰かいるのか。
まあ・・・誰かいても、おかしくはないか。
自分にそう言い聞かせて、足を進める。何しろ、僕自身も最終バスも疾うに終わったこんな時間にこんな場所を歩いている側なのだ。苦笑する。自宅はその公園の横の道を通って、まだ先にある。別の道からも帰れるが、もう一度大通りまで戻る必要がある。正直面倒だ。
やがて、公園が視界に入る。
しばらく警戒しながら歩くと、遠目にブランコに乗る後姿が見えた。男の子か? 小学校高学年か。中学生か。あるいはもう少し上か。深夜のこんな時間、公園にいるなんて大学生かもしれない。
ゆらり、ゆらりと、一定のリズムで揺れている。
足がちゃんとついている事を確認し、安心する。が、西洋の幽霊って日本と違って足がちゃんとあるんだったか・・・余計な知識が浮かぶ。
今度は声が聞こえた。それも複数。何を言っているのかははっきり聞き取れないが、楽しそうに遊んでいるような。
公園の端に差し掛かる。ブランコには男の子が乗っている姿が見えたまま。
ボールを蹴る音も聞こえてきた。
ちらりと公園を見る。公園の広場は道の向こう側の方だ。街灯は点いているが、光の届かないところも多く、細かな様子まではわからない。ただ声だけが、途切れ途切れに聞こえてくる。
「そこ、パス!」
「え、・・・って~!」
「鬼ごっ・・・、・・・走れ!」
「ちょっと待ってよ、・・・っ!」
「よーし、ゴールだ!」
子供達の声。
笑い声と、駆ける足音。ボールが地面を転がる気配。
それらが、夜の静けさの中で、やけに輪郭を持って響く。
ブランコの軋む音が、その合間に規則的に混ざる。
ぎい、・・・ぎい。
ブランコに乗っている男の子がふと広場の方を向いた気がした。
ただそれだけの動き。
けれど、なぜか目が離せなかった。
・・・見てるのか?
誰を、というわけでもなく、そんな考えが浮かぶ。
風に揺れる葉のざわめき、そしてブランコの微かな軋む音。全てが重なり、夜の静けさが妙に濃く、深く、圧迫してくる。
夜風が頬を撫で、遠くで犬が吠える。
僕はそのまま、公園の脇を通り過ぎる。
ブランコは相変わらず、同じリズムで揺れていた。
子供達の声も、まだ続いている。
けれど振り返ることはせず、そのまま歩いた。
さっきまで見ていた流星群よりも、なぜか強く、そのブランコを揺らす小さな影がしばらく僕の脳裏から離れなかった。
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