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契約結婚と仮面舞踏会  作者: 槙月まき
契約結婚の提案
9/91

秘密の対話

 ワルツの旋律が舞踏会の夜を彩る。


 シャンデリアの灯りが煌めく広間に、優雅な旋律が響き渡る。貴族たちの華やかな衣装が揺れ、大理石の床に映る影が円を描くように踊っている。


 アンドレは手を差し出し、エリアスの指先にそっと触れた。細くしなやかな彼の手が、迷いなく彼女の指を包み込む。


「よろしくて?」


「ええ、お手柔らかに。」


 微笑みを交わした瞬間、二人の足が自然に動き始めた。


 音楽の流れに乗るように一歩を踏み出していく。


 アンドレの動きは迷いがない。足の運びは滑らかで、腕の力は確かだが決して強引ではない。

 ほんの僅かな手の動きでリズムを伝え、目線一つで次の動きを予告する。


 彼に導かれるまま、エリアスはまるで風に乗る花びらのように可憐に舞う。


「大丈夫、私を信じて。」


 彼の囁きとともに、軽やかにエリアスをリードをする。


 エリアスは彼のリードを受け入れながら、まるで想いをともにするように寄り添い、流れるようなステップを刻む。


 彼の腕がそっと彼女の腰を支えた。ほんのわずかに力がこもる。回転すると、エリアスの金の髪がふわりと宙を舞った。


 エリアスの仮面の中に隠されたものがざわめいた。


「ずいぶんと踊り慣れていらっしゃるのね。」


 エリアス──「エイラ」は、軽やかに足を運びながら、仮面の中の隠されたものの正体を気付かないようにしまい、微笑んだ。


 これまで多くはなくとも、それなりの数の男性にダンスに誘われ踊ってきた。これまで上手だなと思った男性はいたが、ここまで踊りやすいと感じ安心できるのは初めてだった。


「貴族のたしなみとして、ね。それに、あなたこそ。」


 アンドレは余裕のある笑みを見せながらリードする。


「まあ、女性として社交界に出る以上、これくらいは当然ですわ。」


 エリアスはさらりと答えたが、その言葉にはどこか虚しさが滲んでいた。


 アンドレは、それがほんの一瞬であるにもかかわらず、見逃さなかった。


「……あなたも、いろいろと大変な立場のようですね。」


 エリアスは微かに目を見開いた後、すぐに微笑みを取り繕った。


「まあ、貴族としての責務は、誰しも大変なものですわ。」


「確かに。それに、結婚となると尚更でしょう。」


 アンドレが何気なく言ったその一言に、エリアスの指がわずかに震えた。


「……結婚、ですか。」


 エリアスの声音はどこか張り詰めていた。


「ええ。あなたほどの令嬢なら、すぐにでも相手が見つかるでしょう?」


 アンドレは冗談めかした口調だったが、エリアスの表情はわずかに曇った。


「……父が、そろそろ婚約を決めると言っていますの。」


「そうですか。実は、私も同じような状況でしてね。」


 その言葉に、エリアスは驚いたようにアンドレを見た。


「あなたも?」


「ええ。家のために結婚しろと。しかし……私には、簡単に受け入れられるものではない。」


 アンドレはほんの一瞬、悲しそうな眼差しを見せてから、皮肉げな微笑みを浮かべた。


「私もですわ。」


 エリアスは、どこか遠くを見るような瞳で呟いた。


 お互い、家のために生きてきた貴族の子息。


 そして、結婚によってその役割を決定づけられようとしている。


 しかし──

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