仮面の向こう側
「私は、あなたともっと本当の夫婦になりたいと思っているかもしれないです。」
初めこそ勢いよく話し始めたアンドレだったが次第にその声は弱々しくなっていた。
「……っ!」
エイラは驚いたように目を見開いた。
アンドレ自身も、今の言葉が自分の本心なのかどうか分からなかった。
だが、心の奥でずっと燻っていた感情が、少しずつ形を成していくのを感じていた。
「私は、あなたと秘密を共有し、一緒にこれからも支えていきたいと考えています。」
「……どうして?」
「あなたを……知りたい、心から惹かれているからです。」
その瞬間、エイラの顔から血の気が引いた。
「……っ。」
「おい、どうした!?」
アンドレが焦り、手を伸ばしたとき、エイラの体がぐらりと揺れ、そのまま崩れるように倒れた。
「エイラ!」
慌てて抱きとめると、彼女の体はひどく冷たかった。
(そんなに、私の言葉が嫌だったのか……)
苦しげに眉を寄せながら、アンドレはエイラを抱え上げ、自室へと運んだ。
エイラの寝台の横で、アンドレは固く唇を結んだ。
何度、呼びかけても応答はない。
医者も呼んだ。しかし、「ただ体調が優れず寝ているだけ」という。
アンドレは寝台の横でエイラが目覚めるのをただ待っていた。
そのとき、エイラ付きの侍女が部屋に入ってきた。
侍女はアンドレに持っていた薬瓶を渡した。中には小さな錠剤が入っている。
「これは?」
「エイラ様が幼少期からずっと飲んでおられる薬でございます。」
「……なんの薬だ?」
「詳しくは存じませんが……エイラ様は、これを飲まなければいけないと仰っていました。」
アンドレは瓶の中の錠剤を睨みつけた。
「これが……こいつの身体を蝕んでいるんじゃないのか?」
怒りとも焦りともつかない感情が胸を締めつける。
その時──
「……それを飲ませてください……。」
弱々しい声がした。
振り向くと、エイラがかすかに目を開け、アンドレを見つめていた。
「エイラ……。」
「……この薬が……ないと……私は……。」
「エイラとして生きられない、か?」
アンドレの声が低く響いた。その声には怒りが含まれている。
エイラは苦しげに目を伏せた。
「もう飲むな。」
「……っ!」
「私はあなたが何者であるかはわからない。何の疑問も持っていない。だから、こんなものに頼らず君自身で生きてほしい。」
エイラの瞳が、大きく揺れた。
アンドレは静かに、だが強く告げる。
「あなたが何者であろうと、私はあなたを守る騎士となります。」
暖炉の火が静かに揺れる中、二人の間の仮面は、ゆっくりと崩れ始めていた。
ついにエリアスの秘密を知るアンドレ。二人が下す決断とは──。




