揺らぐ仮面③
晩餐会が終わり、二人は公爵邸の客間へと戻った。
婚約発表から続く一連の社交行事もひと段落し、ようやく気を抜ける時間だった。エリアスは部屋の片隅に置かれた椅子に静かに腰を下ろし、深く息を吐く。
「疲れました……。」
エリアスは髪をかき上げながら、ため息混じりに呟いた。
「まあ、当然ですね。私も少々疲れました。」
アンドレはそう言いながら、上着のボタンを外し、軽く首を回した。
晩餐会ではずっと『理想の夫』として振る舞っていたが、こうして二人きりになると、ようやく肩の力を抜くことができる。
「それにしても、貴族たちの視線が痛かったですね。」
「ええ……。」
エリアスは小さく笑った。
「でも、あなたは堂々としていましたわ。完璧な夫でしたこと。」
少し、嫉妬と嫌味を込めた声で言うとアンドレはなんともないという表情だった。
「当然です。契約結婚とはいえ、貴族たちに疑われるわけにはいきませんから。」
アンドレはそう言って微笑んだが、エリアスはどこか複雑な気持ちになった。
(彼は『理想の夫』として生きることに何の迷いもないように見える)
一方、自分はどうだろう。
ずっと「エイラ」として振る舞ってきたはずなのに、最近になって違和感を覚えるようになっていた。
特に──アンドレと一緒にいる時、その感情はより強くなる。
「……どうしました?」
アンドレが不思議そうにエリアスを見つめた。
「なにか考え事でも?」
「……いえ、少しだけ。」
エリアスは曖昧に微笑んだ。
「あなたって、本当に堂々としていますわね。」
「そう見えますか?」
「ええ。『夫』として振る舞うことに、何の迷いもないように見えますもの。」
「それは、あなたも同じでしょう?」
「……そうかしら?」
エリアスはふと、アンドレの顔をじっと見つめた。
(彼は本当に自分の姿を偽っているのだろうか?それとも、ただ演じているうちに本物になっているだけなのだろうか?)
アンドレの瞳の奥を探るように見つめるが、その表情はいつも通り冷静だった。
まるで、仮面をつけたままのように。
「……あなたは、自分が仮面を被っていると自覚しているの?」
「……何を言いたいのです?」
「いえ。ただの独り言ですわ。」
ルシアンはそう言いながら、そっと視線を逸らした。
この関係は、契約で結ばれたもの。
本物の夫婦ではない。
けれども──
(この気持ちは、なんだろうか……?)
エリアスは胸の奥で渦巻く感情を押し込めながら、そっと目を閉じた。
お互いの『仮面』の裏にある本当の姿。揺らぎ始めた関係の中で、次第に相手の秘密に近づいていく──。
第2章 見せかけの夫婦、終了です。
コメント、リアクション、評価ありがとうございます。
第3章 秘密の崩壊、楽しんでもらいたいです!




