魔祓いの夜
「黒門!」
「ウォーターブレイク!」
森の中、私たちの声と、魔物たちの叫び声が響く。
本音大会の次の日、私たちは本格的な修行をすることにした。
幸い、イェルよりもよっぽど試すための魔物はいる。
そのどれもが銅以上…正直、大分キツイ…!
「ガルアアアアアア!!」
「コンバージェンスウインドカッター!」
「キャウッ」
風の刃が襲ってきた青色の狼の腹をうねるようにえぐっていって、見事に腹に穴が空いた。
でも正直、戦闘中に1秒でも詠唱に使われるのが痛い…!
ゴルさんみたいに魔導書があれば…!
「何見てんだ!魔導書は俺のだからなぁ!?」
「ハァイ!」
次は…?
向こうから青色の狼が何匹か、連携しながら襲ってくるのが見える。
1匹は右から、1匹は左から…
「なら!」
黒門を大きく下に敷いて、上空にもう一つ作る。
私も含めて3体とも、上空に放られる。
「これなら近づけないもんね!ファイア!」
「ガッアアア!?」
「ガルアアアアアア!!」
2体ともが炎に包まれながら地面に落ちていく。
とりあえず、上空から戦況を見ようかな…
今回の依頼は銀等級の魔物である青色狼…『ムーンウルフ』の討伐。
群れを成して、その群れの王が率いて金等級さえも倒す強敵。
つまり、アタマを叩けば…!
「大抵は体が大きかったり傷が多かったりだから……アレか!」
丁度上空からどっちの条件にも当てはまるのが、さっきでは見えにくい場所に陣取っていた。
「覚悟してね!」
まず、長い詠唱を始める。
「願うは風の精霊…!天から差すは燃え尽くす炎、地を埋めるは極寒なる氷海…今生まれ落ちたる大いなる風よ、敵を滅ぼせ!」
黒門で群れのリーダーの上空に現れて、そのまま落下の勢いを活かすように、仕上げの一言を唱える。
『シルフルサイクロン!』
合わせるように、ゴルさんも唱える。
『サラマンディグニス!!』
超威力の風と炎…威力差は魔導書の分もあるのかあまり変わらない。
降り注ぐ風が炎を巻き込んで、群れのリーダーを熱風で焼き尽くし、切り尽くす。
「ギャルアアアアアア!!!」
丁度落下の勢いを殺せたくらいの時に、私は魔法を解除して着地する。
リーダーの惨状に怯えたのか、他のムーンウルフ達は一目散に逃げていってしまった。
「決まったね…!今のは『ニ混・風火災』と名付けよう…!」
「ははっ、クソだせえ!」
「えー!かっこいいって!」
私は、不満でほっぺを膨らませる。
ちなみに魔法はイメージの世界で、その結果の予想がしやすいなら案外発する言葉なんてなんでもいい。
でも詠唱が短すぎたりすると誤発することもあるからこそ、魔法学の本でも、冒険者の中でも、誰でもイメージしやすいように研究された詠唱を使う。
だからやっぱり魔法の名前を考えた人たちは私と同じ、「かっこいいのが好き」な人に違いない。
でないと上級魔法がかっこいい言い方になるわけないしね!
「早く群れのリーダーの牙取って帰るぞ……セラミス」
「はぁーい…」
…かっこいいと思うんだけどなぁ…シルマンド…
ーーーーー
家に帰る…というより、私たちは、テルンドアの協会に帰った。
イェルより大きい協会だから、訓練場なんかも完備されてる。
訓練場では剣士も魔法使いも含めて、色んな人が話し合ったり剣を交えたりしてる。
その中で私たちもベンチで話し合う。
「だからよお!さっきみたいに二つの魔法を掛け合わせんのをテメェのスキルで…」
「だから!重力のことも考えてほぼ同時に発動しないとだから無理なの!」
早速私はゴルさんの言うことを否定する。
ゴルさんは肉体面でも戦えるくらいには反射神経もあるから私の技にも無理矢理合わせられる。
けど、私もってなると、まず無詠法が前提になる。
それだと威力が大きく落ちるし、略詠法だと間に合わないし、片方が無詠法で…って話でも、威力の大きさの違いから失敗する可能性の方が高い。
だからこそ、一人じゃ不可能なのが、さっきみたいな混合魔法なわけで…
「というか!そんなこと言うなら魔導書貸してよ!」
「もうちょっと強くなってから言いやがれ」
「うっ…」
まだゴルさんよりは弱いからなんとも言えない…!
でも、修行が終わる頃くらいには少しは貸してくれるかなあ?
考えていると、訓練場を囲う柵の間から、屋台をたくさん建てたり、飾りをしている人たちが目に映る。
「そういやあ、明日は魔祓いか…」
「魔祓い?」
「周囲に魔物が多いからな…悪い魔物達を明るい気分で追い払おうってことで、朝までどんちゃん騒ぎをする祭りがあんだよ」
お祭りかぁ…
イェルにも一応は豊穣祭があったなぁ…出店が3つくらいしかなかったけど…
「テルンドアのお祭りは、大きいの?」
「ああ、朝まで色んなところから屋台やら出店やらが来るぜ?」
「おお…!」
屋台かぁ…色んな食べ物を食べたり、遊んだり…
お父さんの家を出た日から、そこまで大きいお祭りなんて参加したこともないし、行って……
いや、ダメダメ…修行しないと…!なんのためにあの本音大会をわたしは…
「どうせ夜中もうるせえんだから……いいぞ?別に祭り行っても……」
「え!?いいの!?」
ゴルさんに言われて、さっきまでの決意が自分でもどこに行ったのか分からなくなるほどに嬉しくなる。
「でもよ……騒ぎは起こすんじゃねーぞ!?いいな!?」
「うん、楽しみだね!」
お金あったかなぁ…とりあえず、最近こなした依頼分は協会付属の銀行に貯金してあるし、いくら下ろせるかな。
そうと決まれば…!
「今日は明日に備えて早く寝ないと!ほら、帰ろ!」
「あ''〜…分かったから…手引っ張んなって…」
ーーーーー
その日は、たくさんの見たこともないような食べ物を食べた。
知らない土地の出店が並んでいて……ゴルさんとはぐれたりもしたけど、最後に花火を見ることができた。
満点の星空もかき消すくらいの花火が当たりを明るく照らして、目にはっきりと、その模様が映り込む。
また明日からはしばらく真面目にやらないといけないし、死ぬかも分からない、ゴルさんのお母さんとも戦わないといけない。
でも今は、ちょっとは休んでもいいかな…?…センパイ。




