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四、②
叩きつけられる滝の水飛沫の粒子が、離れていた二人の頬にヒヤリとあたる。
涼しいと思っていたが、滝に近づくと少し寒かった。
二人は滝つぼまで近づき、大きな岩に座る。
水は清らかでどこまでも澄んでおり、底まで透き通って見える。
まさに涼を感じる瞬間だ。
隼人はそんな景色や涼を感じるでもなく、神妙な面持ちでいる。
夏菜は物思いに耽っている隼人に、両手で渓谷の水をすくうと、
「気持ちいいよ!ほらっ」
と、隼人を目掛けて、掌中の水を放った。
水は弧を描いて、彼の右頬にあたる。
「つ、冷たいっ!」
「ふふふ」
隼人と夏菜の視線が合う。
二人はしばらく無言でいたが、ふいに夏菜が笑いだしたので、つられて隼人も笑う。
「ほらっ、そこっ!」
夏菜は滝の中心を指さす。
そこには、うっすら虹がかかっていた。
「ラッキーだね」
思わず、隼人は呟いた。
二人は、滝にかかる虹と身体中に感じる涼を楽しんだ。