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情緒桜城  作者: 山本大介
13/20

四、③

 

 さらに、阿蘇方面に車を飛ばし二人は展望所を目指す。

 ドライブコースで走りやすい爽快な道を進む。

 目的地に近づくにつれ、広大な山の緑と、街中では見られない、はっきりとした空の蒼さが視界いっぱいに広がった。

 景色の素晴らしさに喜んでいると、のどかに放牧された牛たちが見えた。


 展望所で一番見はらしのいい場所は、何台か車が停まっており、名物の焼きトウモロコシを売る車のバンがあった。

 二人は、そのトウモロコシを買って、大岩の上に座り、景色を一望する。


「綺麗だね」


 夏菜が感嘆の声をあげた。

 雄大な青空と雲のパノラマが一面に広がり、高所から見下ろす下界の景色も一品だった。


「雲海がみえる時は、荘厳で最高なんだけど、でも、ここからの景色はいつ見てもいいね」


 隼人は通な口ぶりで言った。

 夏菜はくすりと笑う。


「また、連れてきてよ」


「ああ、もちろん」


 隼人と夏菜は、しばらく景色を眺めながら、無言でトウモロコシを食べていた。

 夏菜は静かに口を開いた。


「城戸君、言いたくないなら、別に言わなくてもいいけど・・・和菓子の件」


「う、うん」


 隼人は食べ終わったトウモロコシを、薄い黄土色の紙袋に入れると、夏菜に渡す。

 彼女もトウモロコシを入れると、


「何にするか決まった?」


 隼人は、重い気持ちが込み上げるが、目の前の広大な景色に励まされたような気がした。


「うーん、後藤チーフを唸らせるような物は・・・と思うけど、ぼんやりとはね」


「本当!」


 ぱっと夏菜の表情が華やぐ。


「ただ、いろいろ考えてしまう・・・これで本当にいいのかってね・・・進退かかってるし」


「でも、それにするんでしょ」


「スルドイね」


 正直な所、隼人はそれしか思い浮かばなかった。


「えへへ・・・で」


 夏菜の照れながらの問いかけに、隼人は澄み渡る空に、人差し指で桜と漢字で書いた。

 

「・・・さくら?」


「そう、桜・・・」


 彼は、ここで息を飲むと、ゆっくりと「情緒桜城」と言った。


「じょうちょしろさくら?」


「そう・・・じょうちょさくらのしろ、覚えてる?熊本城のあの桜をイメージしたお菓子さ」


 隼人は、恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔を見せた。


「いいね」


 夏菜もつられて笑った。


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