表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/227

3人での生活。ヨイチの志を聞き博之は味噌団子屋を隣でやることを提案。孤児の子の身なりを整え速攻で二店舗経営に乗り出す。

一週間が過ぎていた。

朝の空気はまだ冷たい。小屋の中で、三人で簡単な飯を囲む。残り物の豚汁と握り飯。

それでも、最初の頃とは比べものにならないほど、落ち着いた食事だった。

博之は椀を置き、ヨイチの方を見る。

「なあ、ヨイチ」

「なんや、旦那」

「お前、あぶれてるやつら、どう思っとる」

ヨイチは少し考えた。

「……全部救いたいとは思わへん」

 正直な答えだ。

「でもな、知ってるやつが飯食えへんのは、かわいそうやと思う」

博之は小さくうなずいた。

「そうか」

そして、少しだけ口元を緩める。

「ほな、やるか」

「……何を?」

「団子屋や」

ヨイチがぽかんとする。

「団子屋?」

「せや。もう三人になったやろ。このボロ小屋で寝るのも限界や」

博之は外を指さす。

「隣、借りる。ひと月分、先に払う」

「……そんな金あるんか?」

「ある。今の商売、回っとるやろ」

淡々と言う。

「で、そこの軒下で団子売る。味噌仕入れて、団子作って、焼いて出す」

ヨイチの目が、少しずつ輝いてくる。

「……俺がやるんか?」

「ああ。お前がやれ」

博之は指を立てて説明する。

「元値がな、大体二文や。米粉と味噌と薪、全部合わせてな」

「うん」

「で、売り値は五文にする」

「五文……」

「家賃とかもろもろ差し引きで、一個一文は残る計算や」

 地面に指で簡単な図を描く。

「百個売れば、一日百文や」

ヨイチが息を呑む。

「……そんなに?」

「夢みたいな話やない。ちゃんと売れたらの話やけどな」

博之は軽く笑う。

「まあ最初はそんなにいかん。でも回り始めたら、いける」

少し間を置いて、続ける。

「金は俺が出す。だから利益は一旦俺に入る」

「……うん」

「でもな、それを貯めていけば、また増やせる」

ヨイチの方を見る。

「お前が救いたいと思うやつ、もう少し抱えられるようになる」

ヨイチはゆっくりとうなずいた。

「……やる」

「よし」

博之はさらに続ける。

「あと寝るとこな。三人分、ちゃんと用意する。布も敷く」

拾ってきたもう一人の少年を見る。

「お前もや」

 少年は驚いたように目を見開く。

「……ええんか?」

「働くならな」

 短く答える。

「あと、風呂や。ヨイチ連れて行ってもらえ」

「……湯?」

「臭いままやと客逃げる。服も買う」

ヨイチの服を指さす。

「それと同じやつや」

 少年は戸惑いながらも、小さくうなずいた。

「……旦那、ほんまにそこまで面倒見るんか」

ヨイチが聞く。

広行は少しだけ肩をすくめる。

「投資や言うたやろ」

「……投資」

「ちゃんとやることやってくれたら、それでええ」

ヨイチは、少しだけ笑った。

「……なんか、すごいな」

「すごない。普通や」

そう言って立ち上がる。

「ほな、話つけに行くぞ」

三人で外に出る。

小屋の主人のところへ向かい、広行は銭袋を取り出した。

「隣、借りる」

「ほう」

「ひと月分、三百文」

 袋を渡すと、主人はまた目を丸くした。

「また一気に出すんかい」

「やるって決めたら、やる」

広行は淡々と言う。

「あと、軒先で団子屋やる」

「団子?」

「味噌団子や」

 主人はニヤリと笑う。

「ええやないか。流行るで、それ」

「場所、使わせてもらう」

「構わん構わん。むしろありがたいわ」

 少し考えてから、続ける。

「せやったらな、座るとこくらい用意したる。客も休めた方がええやろ」

 広行は軽く頭を下げた。

「助かる」

「お前の商売、面白いからな。乗ったるわ」

 そんなやり取りをして、話はまとまった。

 その日のうちに、簡単な準備を始める。

 鍋はそのまま豚汁用。隣に小さな火床を作り、団子を焼く場所を確保する。

 ヨイチは早速、粉をこね始める。

 もう一人の少年は、薪を運ぶ。

 それぞれの役割が、少しずつ形になっていく。

 夕方、火を入れる。

 豚汁の匂いに加えて、今度は焼けた味噌の香ばしい匂いが広がる。

 人が立ち止まる。

「なんや、今度は団子か」

「食うか?」

博之が声をかける。

ヨイチが串を差し出す。

 三人の店が、二つの顔を持ち始めた瞬間だった。

 ――広がるな。

広行は火を見つめながら、そう思った。

まだ小さい。だが、確実に。

ここから先は、もう止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ