3人での生活。ヨイチの志を聞き博之は味噌団子屋を隣でやることを提案。孤児の子の身なりを整え速攻で二店舗経営に乗り出す。
一週間が過ぎていた。
朝の空気はまだ冷たい。小屋の中で、三人で簡単な飯を囲む。残り物の豚汁と握り飯。
それでも、最初の頃とは比べものにならないほど、落ち着いた食事だった。
博之は椀を置き、ヨイチの方を見る。
「なあ、ヨイチ」
「なんや、旦那」
「お前、あぶれてるやつら、どう思っとる」
ヨイチは少し考えた。
「……全部救いたいとは思わへん」
正直な答えだ。
「でもな、知ってるやつが飯食えへんのは、かわいそうやと思う」
博之は小さくうなずいた。
「そうか」
そして、少しだけ口元を緩める。
「ほな、やるか」
「……何を?」
「団子屋や」
ヨイチがぽかんとする。
「団子屋?」
「せや。もう三人になったやろ。このボロ小屋で寝るのも限界や」
博之は外を指さす。
「隣、借りる。ひと月分、先に払う」
「……そんな金あるんか?」
「ある。今の商売、回っとるやろ」
淡々と言う。
「で、そこの軒下で団子売る。味噌仕入れて、団子作って、焼いて出す」
ヨイチの目が、少しずつ輝いてくる。
「……俺がやるんか?」
「ああ。お前がやれ」
博之は指を立てて説明する。
「元値がな、大体二文や。米粉と味噌と薪、全部合わせてな」
「うん」
「で、売り値は五文にする」
「五文……」
「家賃とかもろもろ差し引きで、一個一文は残る計算や」
地面に指で簡単な図を描く。
「百個売れば、一日百文や」
ヨイチが息を呑む。
「……そんなに?」
「夢みたいな話やない。ちゃんと売れたらの話やけどな」
博之は軽く笑う。
「まあ最初はそんなにいかん。でも回り始めたら、いける」
少し間を置いて、続ける。
「金は俺が出す。だから利益は一旦俺に入る」
「……うん」
「でもな、それを貯めていけば、また増やせる」
ヨイチの方を見る。
「お前が救いたいと思うやつ、もう少し抱えられるようになる」
ヨイチはゆっくりとうなずいた。
「……やる」
「よし」
博之はさらに続ける。
「あと寝るとこな。三人分、ちゃんと用意する。布も敷く」
拾ってきたもう一人の少年を見る。
「お前もや」
少年は驚いたように目を見開く。
「……ええんか?」
「働くならな」
短く答える。
「あと、風呂や。ヨイチ連れて行ってもらえ」
「……湯?」
「臭いままやと客逃げる。服も買う」
ヨイチの服を指さす。
「それと同じやつや」
少年は戸惑いながらも、小さくうなずいた。
「……旦那、ほんまにそこまで面倒見るんか」
ヨイチが聞く。
広行は少しだけ肩をすくめる。
「投資や言うたやろ」
「……投資」
「ちゃんとやることやってくれたら、それでええ」
ヨイチは、少しだけ笑った。
「……なんか、すごいな」
「すごない。普通や」
そう言って立ち上がる。
「ほな、話つけに行くぞ」
三人で外に出る。
小屋の主人のところへ向かい、広行は銭袋を取り出した。
「隣、借りる」
「ほう」
「ひと月分、三百文」
袋を渡すと、主人はまた目を丸くした。
「また一気に出すんかい」
「やるって決めたら、やる」
広行は淡々と言う。
「あと、軒先で団子屋やる」
「団子?」
「味噌団子や」
主人はニヤリと笑う。
「ええやないか。流行るで、それ」
「場所、使わせてもらう」
「構わん構わん。むしろありがたいわ」
少し考えてから、続ける。
「せやったらな、座るとこくらい用意したる。客も休めた方がええやろ」
広行は軽く頭を下げた。
「助かる」
「お前の商売、面白いからな。乗ったるわ」
そんなやり取りをして、話はまとまった。
その日のうちに、簡単な準備を始める。
鍋はそのまま豚汁用。隣に小さな火床を作り、団子を焼く場所を確保する。
ヨイチは早速、粉をこね始める。
もう一人の少年は、薪を運ぶ。
それぞれの役割が、少しずつ形になっていく。
夕方、火を入れる。
豚汁の匂いに加えて、今度は焼けた味噌の香ばしい匂いが広がる。
人が立ち止まる。
「なんや、今度は団子か」
「食うか?」
博之が声をかける。
ヨイチが串を差し出す。
三人の店が、二つの顔を持ち始めた瞬間だった。
――広がるな。
広行は火を見つめながら、そう思った。
まだ小さい。だが、確実に。
ここから先は、もう止まらない。




