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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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比叡山の一連のやり取りから一夜。大津の師範代催しに行くが緊張状態。催しの途中で比叡山の僧兵が乱入。無茶苦茶になる。

翌朝、博之たちは京都郊外の寺を発つことにした。

翌日は大津で師範代催しをする予定になっている。京都郊外にいつまでも腰を据えるわけにはいかない。

 出立前、博之は住職に深く頭を下げた。

「お世話になりました。飯のことも、山科様への筋も、ほんま助かりました」

「こちらこそ、ようお越しくださいました」

「それと……新しい厄介の種を持ち込んでしまって、申し訳ないです」

 比叡山の使いの件である。

 住職は苦笑した。

「まあ、これも副作用のようなものでしょう。大旦那が飯を運び、人を集め、銭を動かす。

 そうなれば、寄ってくるものもあります」

「副作用にしてはきついですけどね」

「ですが、もともとご飯を運んできてくれたことだけでも、こちらには十分ありがたい話です」

 博之は少し安心した。

「もし危ないことがあれば、すぐ逃げてください。寺も、もし壊されたら立て直しますから」

 住職は目を丸くした。

「太っ腹ですな、大旦那は」

「人が死ぬよりましです」

「それはそうですが……敵を作るのもほどほどになさいませ。いくら銭があっても、

 敵ばかり増えれば身がもちません」

 博之は少し笑った。

「根なし草なんでね。もともと、守るもんなんかなかったようなもんですし」

 住職は、静かに首を振った。

「今は違います。守るべき人ができたでしょう」

 その言葉に、博之は少し黙った。

 お花が横で小さく頷く。

 ヨイチも何も言わない。

「……ほどほどにします」

「ぜひ、そうなさってください」

 住職に見送られ、一行は大津へ向かった。

 大津では、すでに師範代催しの準備が進んでいた。

 とはいえ、ここでの開催は初めてである。料理番も、帳場も、手伝いの者たちも、

 動きが少しぎこちない。前売り札の確認、竹串の箱、品目ごとの札、客の入替。

 松阪や港で聞いていた通りにやろうとしているが、実際にやるとなると勝手が違う。

 さらに、比叡山の件が文で届いていたため、場の空気は妙に張り詰めていた。

 博之が入ると、皆が一斉に頭を下げた。

「旦那様」

「大旦那様」

「お疲れ様です」

 博之は手を振った。

「そんな固くならんでええ。警護は増やす。何かあった時は、何かあった時や。

 うちはうちのやり方で戦う」

 料理番の一人が、妙に力強く頷いた。

「はい!」

 別の者も言う。

「私たちの食い口を荒らすなんて、許せません」

「ここまで来て、ようやく飯と寝床が安定してきたんです」

「比叡山だろうが何だろうが、勝手に荒らされたら困ります」

 お花が慌てて止める。

「いやいや、みんな、やる気満々でどうするんですか。違う意味で困ります」

 博之は、その様子を見て、にやりと笑った。

「ああ、みんなやっぱそう思うか」

「旦那様も笑わないでください」

「いや、嬉しいやん」

 ヨイチが冷静に言った。

「戦うといっても、武器を取る意味ではありません。逃げる、記録する、飯を止めない。

 そこを徹底してください」

「はい!」

 また返事がそろう。

 お花は頭を抱えた。

「だから、気合いが入りすぎなんです」

 それでも、催し会は始まった。

 初回にしては、よく回っていた。

 湖の魚を使った汁。

 小鮎の焼き物。

 薄味の炊き合わせ。

 旅人向けの焼きおにぎり。

 京寄りの野菜天ぷら。

 魚の酢だれ漬け。

 客も最初は緊張していたが、食べ始めると空気がほどけた。

「これ、湖の魚か」

「小さいけど味があるな」

「焼きおにぎり、旅の途中にええわ」

「この酢の魚、冷めても食えるな」

 竹串も順調に入っていく。

 前売り札の混乱も小さく済んだ。手伝いの者たちも、少しずつ流れをつかんでいた。

 博之は少し離れたところで見ていた。

「悪くないな」

 ヨイチが頷く。

「大津は大津の飯があります。湖の魚をどう使うかが鍵ですね」

「うん。堅田まで見る意味も出てきたな」

 お花は周囲を警戒していた。

「このまま穏便に終わればいいのですが」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、道の向こうが騒がしくなった。

 ざわめきが広がる。

 人が道を空ける。

 低い読経のような声。

 そして、神輿が見えた。

 担いでいるのは、比叡山延暦寺の僧兵たちだった。

 荒々しい足取りで、会場へ近づいてくる。

 博之は、静かに息を吐いた。

「やっぱ来たか」

 お花の顔がこわばる。

 ヨイチはすぐに帳面を閉じた。

「予定通りです。人命優先」

 僧兵たちは会場へ割り込んできた。

「仏罰じゃ!」

「延暦寺をないがしろにする者に、仏罰が下るぞ!」

「大膳亮とやら、飯と銭で都を汚すか!」

 客たちが悲鳴を上げる。

 料理番たちも身構えたが、博之が声を張った。

「みんな逃げえ!」

 その声で、手伝いの者たちが一斉に動いた。

 客を裏手へ逃がす。

 子どもと年寄りを先に出す。

 料理番を下げる。

 火を落とす。

 銭箱だけは持たせる。

 器は捨てる。

 荷も捨てる。

 お花が女衆を誘導し、夜市が逃げた人数を確認する。

 僧兵たちは、台を蹴り倒した。

 小鉢が割れる。

 汁がこぼれる。

 焼きおにぎりが地面に転がる。

 竹串の箱が踏まれる。

「仏罰じゃ!」

「見たか!」

「これが延暦寺を軽んじた報いや!」

 暴れ回る僧兵たちを、博之は少し離れた場所から見ていた。

 怒りはあった。

 だが、思ったより頭は冷えていた。

 人は逃がした。

 料理番も逃げた。

 火も消した。

 なら、まだ負けではない。

 やがて、ひとしきり荒らし終えた僧兵の一人が、博之の前に立った。

「どうや、大膳亮。腹に染みたか」

 博之は、ゆっくり周囲を見た。

 割れた器。

 倒れた台。

 こぼれた飯。

 散らばる竹串。

 そして、逃げて無事だった人々。

「満足したか」

 博之が聞いた。

 僧兵は鼻で笑った。

「まだ分からんようやな」

「いや、分かった。仏罰いうのは、器を割って飯を踏むことなんやな」

 周囲が凍った。

 お花が息を呑む。

 ヨイチだけが、じっと見ていた。

 僧兵の顔が赤くなる。

「何やと」

 博之は静かに続けた。

「で、腹を切ればええんか」

「は?」

「腹を切ると言うても、こっちの腹やない。腹を切る、つまり銭を出せという話やろ」

 僧兵たちは黙った。

「いくら欲しいんや」

 博之は、まっすぐ相手を見た。

「器を割って、飯を踏んで、客を追い散らして、仏罰やと言うた。で、最終的にいくら欲しい」

 僧兵の一人が、にやりと笑った。

「分かってきたやないか」

「分かりたくはなかったけどな」

 博之の声は低かった。

「言え。千か、万か、十万か。それとも一千万文か」

 その言葉に、僧兵たちの目が少し動いた。

 やはり、そこを見ている。

 博之は心の中で確信した。

 比叡山は、一千万文を嗅ぎつけている。

 僧兵は笑った。

「大膳亮殿は、ずいぶん持っておるそうやないか」

「持ってるな」

「なら、仏に納めるものもあろう」

「仏に納めるなら、飯を踏む前に言うたらよかったな」

 僧兵の顔がまた険しくなる。

 博之は、にこりともせず続けた。

「今日はもう、人も逃がした。飯も踏まれた。器も割られた。仏罰とやらは見せてもらった」

 そして、少しだけ口元を歪めた。

「次は、こちらがどう銭を使うかを見てもらう番やな」

 お花が、ぞくりとした顔で博之を見た。

 ヨイチは、すでに帳面を開いていた。

 日時。

 場所。

 僧兵の人数。

 神輿。

 破壊された品。

 逃がした客。

 怪我人の有無。

 要求の言葉。

 すべてを記録し始めている。

 僧兵はまだ勝ったつもりで笑っていた。

 だが、博之の目はもう、壊された会場ではなく、大津、堅田、京都郊外、草津、

 そして三好と六角の方を見ていた。

 飯は踏まれた。

 器は割れた。

 だが、人は生きている。

 なら、伊勢松坂屋はまだ負けていなかった。

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― 新着の感想 ―
この僧兵優しい 問答無用にぶった切って金品奪ってくのがこの時代のスタイルなのに
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