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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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瀬戸に行った足で熱田神宮の視察と関係者と話し合いの場を持つ。織田の命令だけでなく寺社への寄進等金が回る流れを作ります

博之は、いつもの買い付け隊に加え、信楽焼、常滑焼、伊勢の小物、

少しばかりの干物や甘味を荷に積ませ、熱田へ向かっていた。

まだ、熱田で店を出すと決まったわけではない。

だが、手ぶらで行くわけにもいかない。

「挨拶に行くのに、何も持っていかんのはあかんやろ」

博之が荷を確認しながら言うと、横にいたお花が小さくため息をついた。

「旦那様、また大ごとになりますよ」

「もうなってる」

「開き直らないでください」

「熱田神宮を伊勢神宮みたいにしろって言われたんやぞ。無理やろ」

「でも見に行くんでしょう」

「見な分からんからなあ」

船と陸路を使い、一行は尾張へ入り、熱田へ向かった。

蟹江や津島とはまた違う空気があった。

人は通る。参拝客もいる。商いもある。だが、伊勢神宮前で見た、あの人の熱とは少し違う。

 財布の紐が自然にほどけ、飯を食い、土産を買い、寄進をして帰る。あの大きな流れが、

 そのまま熱田にあるわけではなかった。

博之は、道の左右を見ながら歩いた。

茶屋の数。

休める場所。

土産物の種類。

人が足を止める場所。

子ども連れが座れる場所。

商人が荷を広げられる余白。

一つ一つを見て、頭の中で組み立てていく。

「……伊勢とは別物やな」

ヨイチが頷いた。

「はい。ここを伊勢神宮にするのは無理です」

「無理やな」

「ただ、余白はあります」

「そこなんよ」

博之は小さく頷いた。

伊勢には伊勢の強さがある。

だが、熱田には熱田の形があるはずだった。

やがて一行は熱田神宮へ入り、神職たちに挨拶の場を設けてもらった。

神職たちは、最初から少し警戒していた。

尾張の織田信長から話が来ている。

伊勢や松坂で大きくなった飯屋が来る。

しかも、熱田をどうにかしたいと言っている。

それだけ聞けば、警戒するのも当然だった。

年配の神職が静かに口を開いた。

「遠いところ、ようお越しくださいました」

博之は深く頭を下げた。

「こちらこそ、突然のことで申し訳ございません」

「織田様より、少し話は聞いております」

「はい」

博之は、慎重に言葉を選んだ。

「信長公より、熱田神宮を伊勢神宮のようにできないか、と言われました」

その言葉に、神職たちの表情が少し硬くなった。

「伊勢神宮のように、ですか」

「はい。ただ、私もそのまま真似できるとは思っておりません」

年配の神職は、静かに言った。

「熱田は熱田で、古くから格式のある場所です。参拝される方もおられます。

 それを、銭を稼ぐ場にするという話であれば、いささか軽く聞こえますな」

言葉は穏やかだった。

だが、芯は強かった。

博之はすぐに頭を下げた。

「そこは、本当に申し訳ございません。私も、神様を銭儲けの道具にするつもりはありません」

「では、何をしに来られた」

「人の流れを整えに来ました」

博之は、持ってきた常滑焼の小壺と、信楽焼の小皿をそっと前に置いた。

「参拝に来た方が、少し休む場所。茶を飲む場所。飯を食べる場所。家へ持ち帰る小物を買う場所。

 そういうものを、神宮の格式を傷つけない形で整えたいのです」

神職たちは黙って聞いていた。

博之は続けた。

「伊勢神宮は特別です。信仰の厚みも、人の流れも、門前の値のつき方も、

 簡単に真似できるものではありません。ですから、熱田を伊勢にするのではなく、

 熱田らしい賑わいを探したいのです」

「熱田らしい賑わい」

「はい」

博之は頷いた。

「茶屋ひとつ、飯場ひとつ、小さな市ひとつ。まずはそれで十分です。信楽焼、常滑焼、

 伊勢の小物、干物、甘味。参拝に来た人が、少し足を止め、少し銭を使い、少し気持ちよく帰る。

 その売上の一部は、きちんと熱田神宮への寄進に回します」

年配の神職が目を細めた。

「寄進に」

「はい。それだけではありません。子どもの読み書き、道の掃除、炊き出し、

 旅人の休み場。そういうものにも少しずつ回します」

「商いの利益を、神宮と町へ戻すと」

「そうです」

博之は静かに言った。

「ただ銭を集めるだけなら、長く続きません。来た人がありがたいと思い、

 町の者も助かり、神宮にも筋が通る。そういう形でなければ、続ける意味がありません」

別の神職が口を開いた。

「しかし、織田様は戦の銭を求めておられるのでは」

鋭い問いだった。

博之は逃げなかった。

「はい。信長公は、美濃を見ておられると思います。戦には銭がかかります」

「では、やはり戦のために神宮を使うのですか」

「そうならないようにしたいのです」

博之は、ゆっくりと言った。

「ただ税を重くすれば、民が苦しみます。けれど、商いを育て、新しい銭の流れを作れば、

 無理に取り立てる分を少しでも減らせるかもしれません」

神職たちは顔を見合わせた。

「熱田の周りで商いが育てば、尾張の民から無理に取る分を減らせる、と」

「そういう考え方です」

もちろん、信長がその銭をどう使うかまでは、博之には決められない。

だが、銭の流れを作ること自体は悪ではない。

問題は、その流れを誰のために、どう使うかである。

博之はもう一度、深く頭を下げた。

「悪いようにはしません。熱田神宮の格式を傷つけることはしません。むしろ、

 参拝に来た人が親しみを持ち、また来たいと思うような場所にしたいのです」

年配の神職は、しばらく博之を見ていた。

「伊勢松坂屋殿の噂は聞いております」

「噂ですか」

「蟹江で休戦を仲介したとか」

「流れでございます」

「難民に飯を出したとも」

「ご近所でしたので」

「奈良の寺にも寄進したと」

「それも流れで」

神職は少し笑った。

「流れの多い方ですな」

「自分でも困っております」

座に、少しだけ笑いが起きた。

その笑いで、場の硬さがわずかにほどけた。

年配の神職は、やがてゆっくり頷いた。

「正直なところ、我々はまだ伊勢松坂屋殿をよく知りません。いきなり大きく任せることはできません」

「当然です」

「ですが、悪い噂ばかりではない。困った者に飯を出し、寺社へ筋を通す者だとは聞いております」

博之は黙って頭を下げた。

「一度、やってみなはれ」

その言葉に、博之は顔を上げた。

「よろしいのですか」

「ただし、小さくです」

「はい」

「まずは茶屋ひとつ、飯場ひとつ、小さな市ひとつ。売上と寄進の流れを見せてもらう」

「承知しました」

「炊き出しも、押しつけにならぬように」

「はい」

「神宮の前で騒ぎすぎることも困ります」

「心得ております」

「織田様の顔だけで来たと思われぬよう、我々にもきちんと筋を通していただく」

「もちろんです」

博之は深く頭を下げた。

「熱田は熱田として、大事に扱わせていただきます」

年配の神職は、少しだけ表情を緩めた。

「伊勢神宮にはなれません」

「はい」

「ですが、熱田らしい賑わいなら、作れるかもしれませんな」

博之は、ようやく少し笑った。

「そこを探しに来ました」

こうして、熱田神宮での伊勢松坂屋の試みは、小さく始まることになった。

茶屋。

飯場。

小さな市。

寄進。

炊き出し。

そして、人がまた来たくなる仕組み。

伊勢の真似ではない。

熱田の形を探す。

その最初の一歩が、ようやく許されたのである。

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