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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~★250.9万PV突破★  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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瀬戸物の買付と熱田神宮を見に博之が尾張に向かう。松坂城主に挨拶する。気を付けて行ってこい。

翌朝、博之は松坂の城へ軽く挨拶に向かった。

 出立の前である。

 今回は、買い付け衆を何人か連れていく。信楽焼の道を見てきた者、常滑で荷を見ている者、

 帳場の若い者、そして港回りに強い者。

 瀬戸物を見る。

 熱田神宮を見る。

 尾張の人の流れを見る。

 それだけでも、十分に大仕事だった。

 松坂の城主は、博之の顔を見るなり、にやにや笑った。

「ついに尾張へ行くんか」

「行くだけです」

「帰ってこおへんのやないか」

「帰ってきますって」

 博之は苦笑しながら頭を下げた。

「こっちの居心地の良さ、半端じゃないんですから」

「ほんまか?」

「ほんまです。松坂の屋敷でごろごろして、お花さんに怒られて、

 夜市に帳簿見せられてる方が落ち着きます」

「それは落ち着くんか?」

「落ち着くんです」

 座敷が笑いに包まれた。

 城主は茶をすすりながら聞いた。

「昨日は何や、また何かやってたらしいな」

「飯の道の会、というか、語り部会みたいなのをやりました」

「語り部会?」

「はい。各拠点の主だった者を集めて、伊勢松坂屋がどう始まったかとか、

 何を大事にするかとか、そういう話をしました」

「お前、とうとう噺家にでもなるつもりか」

「いや、でも実際、最近は噺家みたいになってますからね」

 博之は少し照れくさそうに頭をかく。

「信長公にも手紙で昔話を書きましたし、国人衆にも話しましたし、

 女衆にも昔話せえって言われますし」

「で、受けたんか」

「結構受けました」

「なんや、受けた話は俺にもしてくれるんか」

「それはまた今度で」

「なんや、もったいつけるな」

「いや、今は受けた話と受けなかった話を、各拠点から手紙で送ってもらうようにしてるんです」

 城主が面白そうに身を乗り出す。

「ほう」

「で、受けた話ばっかり集めて、本にしようかなと思ってます」

「ほんまに噺家やないか」

「でも、堅苦しい掟だけやと誰も読まないじゃないですか」

「それはそうやな」

「だから、私の失敗談とか、ヨイチが恨めしそうに豚汁見てた話とか、

 布団二百組買った話とか、地侍に捕まって伊勢神宮へ連れて行った話とか」

「お前の人生、ほんまに話になるな」

「自分でも最近ちょっと思ってます」

 城主は腹を抱えて笑った。

「名残惜しそうにしてたやろ、女衆も」

「まあ、多少は」

「なんや、モテてるんか」

「モテないです」

 即答だった。

「そこは即答なんやな」

「はい。みんな優しいんですけど、そういうのとは違うらしいです」

「哀れやなあ」

「哀れ言わんといてください」

 また座敷が笑いに包まれた。

 笑いが落ち着いたところで、城主は少し真面目な顔になった。

「で、熱田やな」

「はい」

「熱田神宮と伊勢神宮がどう違うのか。そこはきちんと見てこい」

「もちろんです」

「伊勢は特別や。あの門前、人の流れ、神宮の空気、茶三十文でも払ってしまう空気。

 あれを熱田でそのままやれるとは思わん」

「私もそう思います」

「だが、信長公は見てしもうた」

「見てしまいましたね」

「だから、お前に振った」

「本当に困ります」

「困りながら何か出すやろ」

「出せたらいいですけどね」

 博之は息を吐いた。

「熱田がどれだけ人を集めているのか。周りに店があるのか。道はどうか。

 港や川とのつながりはどうか。まず見ないと分かりません」

「瀬戸物は?」

「買います」

「即答やな」

「欲しいですから」

 城主は満足そうに頷く。

「いいものがあったら、うちにもきちんとよこせよ」

「分かってます」

「大名向けの高いものだけやなくてええ。小皿、湯呑み、飯椀、そういうものもや」

「それが売れると思ってます」

「松坂の者も喜ぶぞ」

「でしょうね」

「信楽焼もええが、瀬戸物はまた違う。少し格が上がる感じがある」

「そこを見たいんです」

 博之は少し前のめりになる。

「高いものだけじゃなくて、日常に使える瀬戸物をどれだけ買えるか。どれだけ壊さず運べるか。

 どこの拠点でどれぐらい売れるか。熱田で並べるなら、どう見せるか」

「もう頭の中は商いでいっぱいやな」

「飯の道です」

「出た」

 城主は笑いながら杯を置いた。

「まあ、気をつけて行け」

「はい」

「尾張は織田の領分や。信長公は面白がってくれているが、周りが皆そうとは限らん」

「分かっています」

「買い付け衆も守れ」

「はい」

「それと、松坂を忘れるなよ」

 広行は、少し真面目な顔で頭を下げた。

「忘れません。帰ってきます」

「ほんまやな」

「はい」

「ならええ」

 城を出る頃には、買い付け衆が荷を整えて待っていた。

 信楽焼を扱ってきた者は、目を輝かせている。

「旦那様、瀬戸物ってどんな感じなんでしょうね」

「わしもちゃんとは知らん」

「知らないのに買いに行くんですか」

「知らんから見に行くんや」

 港回りの者が笑う。

「熱田神宮も見るんですよね」

「見る」

「伊勢みたいになりそうですか」

「それは無理や」

 博之は即答した。

「伊勢神宮は特別や。けど、熱田には熱田の形があるかもしれん」

「それを探すんですね」

「そういうことや」

 松坂の町を抜け、街道へ出る。

 後ろを振り返ると、松坂の城が見えた。

 博之は小さく息を吐いた。

「……帰ってくるからな」

 誰に言うでもなくそう呟く。

 買い付け衆がにやにやした。

「旦那様、もう寂しいんですか」

「うるさい」

「女衆が恋しいんですか」

「うるさいって」

 笑いながら、一行は尾張へ向かって進み始めた。

 瀬戸物。

 熱田神宮。

 尾張の商い。

 また新しい飯の道が、博之の前に広がろうとしていた。

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松坂の城主がちょくちょく愛情を確認してくる彼女みたいになってて草
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