9月3週目の晩、博之が古参に飯をふるまう。弁当と卵の新しい使い道を提示する。大好評!!
その夜、博之は古参の面々を屋敷に集めた。
「今日は晩飯、わしが用意する」
そう言われた時点で、ヨイチは少し首をかしげていた。
「旦那がやるんか?」
「せや」
「普通、下の者にやらせたらええやん」
「今日はちょっと、試したいもんがある」
その一言で、集まった者たちは少しざわついた。お花も、侍たちも、最初からいる子どもらも、
何となく「また新しい料理やな」と察していた。
博之は下働きの子たちにも指示を出しながら、自分でも手を動かしていた。飯を炊き、鶏を焼き、
田楽を炙り、握り飯を作る。味噌の香ばしい匂いと、鶏の脂が焼ける匂いが、屋敷の中に広がっていく。
皆が揃う頃には、すでにいくつか形になっていた。
「今日は、この前の話の答え合わせや」
博之はそう言って、まず一つ目を見せた。
「弁当や」
竹と木で作った細長い箱の中に、大きめの握り飯が二つ。その横に、鶏の塩焼き、鶏の味噌焼き、豆腐田楽、茄子田楽の組み合わせが串からとられて収まっている。
「半分は飯。半分はおかずや」
博之は箱を指さした。
「握り飯は、今日はたくあんと紫蘇を細かく刻んで混ぜた」
「紫蘇?」
「まだちゃんと漬かったもんではないけどな。今日は香りと色付けやと思ってくれ」
お花が覗き込む。
「きれいですね。普通の握り飯より、華があります」
「せやろ」
博之は少し得意げに笑う。
「で、最後に蓋をして、笹でくくる」
笹をきゅっと結ぶと、手で持てる形になった。
「これなら、街道を歩くやつにも渡しやすい。場所も取らん」
ヨイチが腕を組んで眺める。
「値段は?」
「握り飯二つだけで笹の皮でまくなら二十文」
「ほう」
「鶏と田楽それぞれ1本ずつ入りなら四十文」
その瞬間、何人かが顔を上げた。
「四十文は、強気やな」
侍の一人が言う。
だが、弁当をじっと見ながら、やがて頷いた。
「でも、旅の途中なら買うかもしれん」
「ほんまか」
「ああ。草っぱらで冷えた飯をかじるより、これはだいぶ贅沢や」
別の侍も笑う。
「街道なら、少し高くても売れる。うまければな」
「ほな、まずは試しやな」
博之は頷いた。
「売れんかったら値を下げる」
次に出したのは、卵だった。
「これは、卵を味噌と出汁で割ったもんや」
小さな皿に、黄色く巻かれた卵が載っている。
「だし巻きみたいなもんやな。豚汁の出汁を使って、味噌を少し混ぜて、丁寧に巻いた」
見た目は思ったより整っていた。黄色の中に、ほんのり味噌の色が入っている。
ヨイチが一切れ食べる。
「……なんやこれ」
「まずいか」
「ちゃう。普通の卵と違う」
侍も一口食べて、目を細めた。
「味がついとる。飯に合うな」
お花も静かに頷く。
「これ、弁当に入れてもいいですね」
「それも考えとる」
博之は言った。
「ただ、卵が安定してからやな」
そして最後に、丼が出た。
椀の中に白い飯。その上に、焼いた鶏と、出汁でとじた卵がふわりとかかっている。
卵は完全には固まりきらず、黄色くとろりとしていた。
「これは……」
ヨイチが覗き込む。
「鶏を焼いて、豚汁の出汁を足して、卵でとじた。飯に乗せた」
「なんか、えらいきれいやな」
子どもの一人が言う。
皆で少しずつ取り分けて食べる。
最初に声を上げたのはヨイチだった。
「……うまい」
続いて侍が頷く。
「鶏と卵が合うな」
お花も箸を止めずに言った。
「出汁の味があるから、飯が進みます」
「豚汁の汁の味がするけど、別の料理ですね」
女の子たちも、目を輝かせながら食べている。
気づけば、皆が黙って箸を動かしていた。
「どうや」
博之が尋ねる。
ヨイチが顔を上げる。
「旦那、これもっと早う出してくださいよ」
その言葉に、皆が笑った。
「違う違う」
博之は手を振る。
「今ようやく材料が揃ってきたから作れただけや」
「でも、これは名物になるで」
侍が言う。
「城下でも売れる」
「弁当にも、飯屋にも使える」
お花も静かに言った。
博之は腕を組み、皆の反応を見た。
弁当。味噌だし巻き。鶏卵とじ飯。
どれもまだ試しだ。
だが、確かに手応えがあった。
「ほな、次はこれをどう回すかやな」
火が静かに揺れる。
屋敷の中には、新しい飯の匂いが残っていた。




