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メンヘラオジサン、戦国で飯屋を始める ~戦えない俺は食と金で成り上がる~  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


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239/313

ゴロゴロしていると飯のアイデアが降ってきた。刻んだ野菜や肉を餡にして皮で包む。試作して出したら好評www

昼起きの博之は、相変わらず座敷でごろごろしていた。

 信楽焼きの小皿、ふくふく焼きの試作、お好み焼きの鉄型、御礼札の見本。周りには、

 最近増えすぎた“思いつきの残骸”が散らばっている。

 そんな中、博之が急に起き上がった。

「……なんか来たぞ」

 ヨイチが帳面から顔を上げる。

「その“なんか来た”が、もうすでに怖いんですが」

 お花も手を止めた。

「旦那様、今度は何でございますか」

「いやな、今まで使ってる野菜あるやろ。ごぼう、大葉、たくあん、生姜、山菜。

 そういうのを細かく刻む」

「はい」

「で、小麦粉と卵でちょっと練り直す」

 女衆の一人が首を傾げた。

「ふくふく焼きの生地に、少し似ていますね」

「似てるかもしれん。けど、甘味やない」

 博之は、手で何かを包むような仕草をした。

「それを、餡みたいにするんや。餡子の餡やなくて、具の餡や。刻んだ野菜とか、

 鶏とか、魚のほぐし身とか、そういうのを混ぜて中身にする」

「中身にする?」

「それを薄い皮で包む」

「包む、ですか」

「そう。薄く包んで、焼く」

 ヨイチが筆を持ったまま固まった。

「旦那様、また新しい型ですか」

「型はいらんかもしれん。手で包む。小さく、一口サイズや」

 博之は、すでに頭の中で形を見ていた。

「中身は、生のものを刻んだだけやと火が通らんかもしれんから、細かくする。薄く包む。

 鉄板に並べる。ポンポンポンと並べて、焼く」

 お花が少し興味を持った顔になる。

「一口で食べられる焼き物、ということですか」

「そうや。小さい包み焼きやな」

「味はどうされるのですか」

「味噌だれでもええし、醤油でもええ。わさびがあれば、わさび醤油もええな」

 博之は、ぶつぶつ言い始めた。

「調味料が欲しいな。味噌、醤油、酢も欲しい。わさびもええ。辛子も欲しい。

 こういう調味料の幅を広げるためにも、京都と堺を目指すのはやっぱりありやな。

 砂糖だけやなくて、調味料や。飯の幅が変わる」

「旦那様」

 お花が少し引いた顔で言った。

「そのぶつぶつ、少し気持ち悪いです」

「ひどい」

「飯のことを考えている時の旦那様は、目が怖いです」

「褒めてる?」

「褒めてはいません」

 それでも、女衆たちはすでに材料を並べ始めていた。

 刻んだごぼう。

 大葉。

 生姜。

 たくあん。

 少しの鶏肉。

 魚のほぐし身。

 小麦粉と卵を水で溶いた薄い生地。

 博之は、まず野菜と鶏を混ぜ、小麦粉を少し足して、まとまる程度に練った。

「これが中の餡や」

「餡というには、ずいぶん野菜ですね」

「だから具餡や」

 薄い皮を作り、そこに具を置く。

 端をつまんで包む。

 形はまだ不揃いだった。丸いもの、半月のようなもの、少し破れたもの。

 ヨイチが眉を寄せる。

「これは、慣れが必要ですね」

「最初はしゃあない」

「売り物にするなら、包み手の訓練が要ります」

「すぐ帳簿と人手の話にするな」

「必要です」

 鉄板に菜種油を薄く引く。

 小さな包みを並べると、じゅっと音がした。

「おお」

 博之が少し嬉しそうに覗き込む。

「油の香りはええな」

「焦げないようにしてください」

「分かってる」

 片面が焼けたところで、ひっくり返す。

 焼き色がつく。皮が少し固まり、中の具の香りが立つ。

 ただ、焼いているうちにいくつかは鉄板にひっついた。

「あかんな。ひっつく」

「油が足りないのでは」

「油を増やしすぎると重いんよな」

 博之は考え込み、水を少し手元に持ってきた。

「ちょっと水気を足してみるか」

「旦那様、何を」

 水を鉄板に少し落とすと、じゅわっと音が立った。

 油と水が跳ね、女衆たちが一歩下がる。

「旦那様!」

「火事にだけは本当に気をつけてくださいよ!」

「分かっとる、分かっとる!」

「分かっている人の動きではありません!」

 お花が本気で怒った。

 水気を足したことで、包みの周りに蒸気が回る。

 中まで火が入り、皮は焼き目を残しながら、少しふっくらした。

 博之は目を細めた。

「これやな。焼くだけやと皮が固い。水気を足すと中まで火が通る」

「危ないですが、理屈は分かります」

 ヨイチが渋い顔で言った。

「鉄板に油を引いて焼き、途中で水を入れて蓋をする形にすれば、跳ねも減るかもしれません」

「蓋か」

「はい。鉄の蓋か、木の蓋に水気を逃がす穴を作るか」

「また道具増えるやん」

「旦那様が増やしました」

「俺か」

「はい」

 焼き上がった小さな包み焼きは、信楽焼の皿に並べられた。

 味噌だれ。

 醤油。

 わさび。

 三つを横に置き、皆で少しずつ食べてみる。

「熱っ」

 最初に食べた女衆が、慌てて口を押さえた。

「めちゃめちゃ熱いです」

「一口サイズやから、油断するな」

「先に言ってください」

 博之も一つ取って、味噌だれを少しつける。

 皮は薄く焼けていて、端は少し香ばしい。

 中から、ごぼうと生姜の香り、鶏の旨みが出る。

 たくあんの食感が残って、思ったより飽きない。

「……いけるな」

 ヨイチも一つ食べた。

「確かに、いけます」

「おお、ヨイチが認めた」

「一口で食べやすい。中身を変えれば味も変わる。味噌だれでも醤油でもいける。

 冷めた時はまだ分かりませんが、焼きたてならかなり良いです」

 お花は、わさび醤油を少しつけて食べた。

「これは、大人向けですね。生姜や大葉を多めにすれば、酒の席にも合いそうです」

「やろ」

「ただし、子どもには熱すぎます」

「それは注意やな」

 女衆の一人が言った。

「一口サイズなので、婚活の場でも出せそうです。箸で取り分けやすいですし」

「でも熱い」

「熱いです」

「じゃあ、少し置いてから出すか」

 博之はまた考え始めた。

「これの応用で、蒸すっていう方法もあるかもしれんな」

「蒸す?」

 お花が首を傾げる。

「いや、なんか大陸の方であるらしいねん。明……いや、唐? まあ、向こうの技法で、

 湯気で火を通すみたいな」

「湯気で?」

「そう。水を沸かして、その上に置いて火を通す。焼くんやなくて蒸す。

 そうしたら皮が柔らかいまま、中に火が通るんちゃうかなって」

「旦那様、どこでそんな話を」

「知らん。頭の中から降ってきた」

「それが怖いんです」

 ヨイチは帳面に書いた。

「小包み焼き。野菜、鶏、魚を刻み、小麦粉と卵で具餡にする。薄皮で包む。鉄板で焼き、

 水気を足して火を通す。味噌だれ、醤油、わさび。蒸し技法の研究余地あり」

「名前どうする?」

 女衆が聞く。

 博之は少し悩んだ。

「包み焼き……いや、一口包み焼きかな」

「そのままですね」

「最初はそのままでええ。あとで物語をつける」

「また物語ですか」

「飯は物語や」

 お花が笑った。

「でも、これは確かに形になりそうです」

「やろ」

「お好み焼きより小さく、ふくふく焼きより飯寄り。練り物玉や蛸玉とは別の、

 一口で食べる包み物ですね」

「そうや。焼き物と蒸し物の間やな」

 ヨイチが淡々と言う。

「ただし、包む手間が大きいです。人手が要ります。熱さの注意も要ります。鉄板にひっつく問題、

 蓋の問題、油と水の扱い。全部試作です」

「分かってる」

「それと、また店が増える可能性があります」

「それも分かってる」

「では、なぜ作るのですか」

 博之は、焼き上がった一口包みをもう一つ取り、少し冷ましてから食べた。

「飽きるからや」

 ヨイチはため息をついた。

「またそれですか」

「うん。横丁は同じ飯だけやと飽きる。小さい飯、熱い飯、つまむ飯、分ける飯。

 そういうのがあると、人はまた来る」

 お花が頷いた。

「これは、酒の席にも、茶の席にも、軽い飯にも使えますね」

「そうやろ。中身を変えたら、伊賀なら山菜、鳥羽なら蛸、津なら鯖、松阪なら鶏、

 伊勢なら大葉と生姜。土地ごとにできる」

「旦那様」

「何や」

「また当たりそうです」

 博之は、少し困った顔で笑った。

「当たりそうなんが、一番怖いねん」

 座敷には、焼きたての香りと、味噌だれの匂いが残っていた。

 まだ名前も定まらない。

 形も不揃い。

 熱くて食べにくいところもある。

 だが、一口食べると、確かに次をつまみたくなる。

 また一つ、伊勢松坂屋の飯の種が、昼寝明けの博之の頭から降ってきてしまった。

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