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瞼の裏側を見ていた。いや、正確には瞼を開けることができなかった。目を覚ましたくない……わたしは現実を受け入れたくなかった。

何も覚えていない。わかるのは今の自分だけ。

全身は強打されていて痛い。耳鳴りもするし、こんなことを考えているだけで脳が揺れて吐きそう──吐く力もないけどね。

(わたし……このまま死ぬのかな…………)

意識が恐怖を迎えようとしているなか、わたしはそれを必死に否定した。

(まだ死にたくない!)

絶望的状況ではあるが、痛みを我慢し神経を集中させてなんとか今いる場所の情報だけでも読み取ろうとする。

(細波が聞こえる?)

水辺の側ということは、どこかに漂流してしまった可能性が──

(ゔっ……!!?)

ようやく現実を受け入れたのに、体が拒否反応を起こした。また恐怖が襲いかかってくる。逃げ場はない。わたしの眼は暗闇を捉えた。

意識が消えそうになったとき、何か聞こえた。

「……に…………げ………………み、……ぃ…………ぶ?……ま…………け……ね…………」

波音と混ざってよく聞き取れなかったが誰か来てくれた。助かったと思い、わたしの意識はそのまま暗闇へと落ちていった。


目が覚めるとわたしはベッドの上で天井を見ていた。

「あっ、ようやく目が覚めたみたいだね」

声がした方へ振り向くと、12才くらいの水色髪の少年が座っていた。

「はじめまして! ボクの名前はソラ。よろしくね!」

とびっきりと言わんばかりの笑顔をソラと名乗る少年は見せてくれた。可愛い。

「ボクがね、キミが倒れているのを見つけて、家族が看病したんだよ!」

「そ、そうだったんだ……ありがとう」

わたしは感謝を述べたが、ソラは家族にわたしが目を覚ましたことを報告しようと動こうとしない。わたしは上半身を起こし、ソラに聞いた。

「お、お父さんとお母さんは今居ないの?」

「?? ママのこと? ママは死んじゃった。お父さんなんていないよ」

「あっ……」

馬鹿かわたしは──事情がある家族だっている。配慮が足りなかった。

「ごめん! 知らなくて……」

「気にしないで! そんなことよりさ、キミの名前は?」

「……わたしの、名前」

そういえば、わたしは記憶喪失だった。何も覚えていない。

「信じてくれないかもだけど……わたし、記憶がなくなっちゃったみたいで……」

「そうなんだ。でも名前が無いと不便だよね──」

ソラは悩むそぶりを見せ、すぐに何かを思いついたみたいだ。

「キミの名前、とりあえず『トト』ってことにしていい?」

(トトか……なんかそんな名前だったような気がする……)

「うん、それでいいよ」

そんな会話をしている最中に──

「ソラさん、人間さんは目覚めましたか?」

部屋の扉の先から少女の声が聞こえる。

「起きたよ! 入ってきてハク!」

扉が開き、ハクと呼ばれた白髪の少女が中へ入る。

「!? まだ、身体を起こしてはいけません!!」

ハクは慌ててわたしに駆け寄り、体に手を照らした。

「【身体検査(オペレーション)】」

ハクの手が光り、何かを調べている──ってかこれって!

「魔法!?──あいただだだだ」

「ハク駄目だよー。びっくりさせたらー」

「ご、ごめんなさい……」

ハクに謝罪を受け入れ、気になったことを聞く。

「いてててて……もしかしなくても、あなたたち魔法が使えるの?」

「そうだよ! ボクたち家族は魔法使いなんだ!」

「自分は『治癒』の魔法を使えます。ソラさんは『水』の魔法が使えますね」

「そう……なんだ……」

なぜだろう? 心がザワザワしてる……拒否反応?

「今日一日はベッドの上で安静しててください。明日、自分たちの家族とこの島のことを教えます」

「そうだね! あとのことは頼んだよハク!」

そう言ってソラはこの部屋から出て行った。

「……勝手な人」

「えっ? 何か言った?」

「いえ、なんでもありません……」

ハクはわたしの目線を合わせると、急に顔を真っ赤にさせた。

「どうしたの!?」

「す、すみません。ちょっとその……恥ずかしくなっただけです。女性は初めてだったので……」

ど、どういうことだ?

「どういうこと?」

「自分たち魔法使いは2人を除いて性別が無いに等しいんです。だから、その……やむを得ず裸を見てしまって申し訳ありませんでした」

わたしは絶句した。

「怒ってますか?」

「お、怒ってないよ!? そうなんだ……そうだったんだ…………」

わたしはハクと談笑したあと、深い眠りについた。


次の日の朝、物音で目が覚める。

「ハク……?」

ハクは居ない。代わりに光る足跡のようなものが扉の先へと続いていた。

(辿ればいいのかな?)

わたしはベッドから離れる。ハクの言った通り、体が言うことを聞く。扉の前まで歩く。

「サプライズ……ってことはないよね?」

内心ワクワクしながら扉を開けると──そこはまた部屋だった。わたしの為に用意した特別な部屋。昨日まで無かった新しい部屋。10人のローブを被った魔法使いがわたしを待っていた。

「人間よ、魔法陣の前まで歩け」

命令の如く、わたしは強制的に歩いた。

「さぁ、わたくしたちの自己紹介をしましょう?」

「水の魔法使い、ソラ」

「炎の魔法使い、サン」

「風の魔法使い、ワカバ」

「土の魔法使い、クルミ」

「血の魔法使い、ルージュ」

「魔法使い見習い、アッシュ」

「精神の魔法使い、クロ」

「治癒の魔法使い、ハク」

「かみなりの魔法使い、ホァンだよぉ。よろしくね〜」

「そしてわたくし、時の魔法使いシルヴァ。以後お見知り置きを」

わたしは圧倒された。

「あのっ! わたしは──」

「トトさん……でしたね? わたくしからは1つしかお聞きしません」

シルヴァと名乗る少女はフードを外す。中から綺麗な銀髪が空間を泳いだ。

そして、わたしにナイフを手渡し──

「貴女はわたくしたちを殺しますか?」

「なっ……!?」

わたしは……


 魔法使いを殺す ▷魔法使いを殺さない


魔法使いを殺さない選択をした。

「そんなことできません!! わたしはあなた達と仲良く暮らせると思って──」

「口を閉じろ」

誰かの魔法だろうか?喋ることができなくなった。

「ハク、あなたの診断内容を教えてくださる?」

「はい、魔法を使うごとにトトさんは拒絶反応を起こしてました」

ハク……?

「アッシュ、あなたの意見を聞かせて?」

「……人間は寿命で死ぬべきだ」

よかった。ころさ────

「だが、この人間は論外だ」

「えっ…………?」

その言葉が放たれた瞬間、わたしの視線は魔法陣の上を転がった。わたしは殺されたのだ。シルヴァの魔法によって首を刎ねられたのだった。

「【罪を受けよ(パニッシュ)】」

結局わたしは過去を知らぬまま、人生を終えてしまった。

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