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私は、弱いAIです。  作者: 伊吹ねこ
第一章 娘
12/23

娘③

 更新が遅い上に不定期で申し訳ありません。ナガ〜い目で見て欲しいです。本日も宜しくお願い致します。

 ミタは、その場に放心していた。アマネは、ミタの反応がないので、再び声をかけることになる。



「あの……、ミタさん?どうされました?」



 アマネに指摘されて自分が感動して何もしていないことに気がついた。アマネの言葉に促されるままに言葉を発した。



「アマネ様。素晴らしい仕事であります。私は、これ以上の仕事を知りません。できれば、私に指導していただきたいものです。」



 本心からの言葉だった。飾付けされていない言葉ほど、心に直接突き刺さるものない。だが、アマネにそれが刺さることはなかった。



「いえ、私などがミタさんに教えるなどそんなことできません。」



 鈍感。というにはあまりにも無慈悲である。普通の人間なら、おそらくここで謙遜などという言葉は出てこない。なぜなら、ミタは、それほどまでに真剣な顔をしていたためだ。謙遜をする余地などないと言っていい。だが、感情をあまり持たないアマネは、理解できていなかった。アマネの頭にある情報から、ミタのお世辞であると勘違いしたようだ。



 それを聞いたミタは、ひどく落ち込んだ。確かに、これほどの技術を誰かに教えたくない。とアマネが思っても無理はない。とミタは思った。


「そうですか。それもそうですわね。」


 だが、ミタは諦めない。技術は教えられるものではない。見て盗み、真似をして自己昇華してこそ真に己のものになると考えていた。だから、アマネには、ベッドメイクに関して一切の助言をしなかった。ミタは、アマネから見て盗むことにした。



 だが、実際ミタは、他者から技術を盗むという経験をしたことはない。人生で初めての経験である。



「ッはあ!私としたことがこの素晴らしいベッドメイクに見惚れてしまい、時間を忘れてしまいました。もう時間がありません。アマネ様、申し訳ありません。お掃除をお手伝いしていただけませんか?」



 確かに時間がない。ミタがアマネの仕事ぶりに見惚れてしまい残り時間は、10分もない。ベテランメイドのミタとしては、大きなミスである。



「はい。かしこまりました。急いで行いましょう。では、ミタさんは、これまで通り床のお掃除を行ってください。私は、他のことをしています。」



 アマネの指示にミタは、素直に返事をする。



「はい。わかりました。」



「では、行動に移ることにしましょう。」


 アマネの号令に二人は速やかに行動を開始する。



 この屋敷は、一流の使用人しか存在しない。それは、雇い主のマサルの手腕。それは、マサルの父の手腕である。ちなみに、ミタを選んだのは、アマネの前主人である。



 一流しか存在しないこの屋敷内で、その中でもトップを争う超一流の二人が手を組めば、たった10分の時間ですら、一部屋の掃除くらい可能になってしまう。



 ミタが10分の時間で埃を落とし、掃除機をかける。それは、無駄のない動きであり、さすがこの屋敷のメイド長と呼べるものだった。

 ミタが全ての作業を終えて、アマネの作業を手伝おうとアマネの様子を見たとき、アマネは優雅とも言える様子でいつもなら、手の行き届かないタンスの後ろ側を掃除していた。



「アマネ様。そこは普段の短い時間では掃除しないところです。それよりも他の生活をする上で使用頻度の高い場所を掃除しなくては……。」



 アマネは、不思議そうな顔をした。その顔を見て、ミタはさらに不思議であるといった顔をして沈黙が流れた。



「ミタさん。もう他のところは終わりました。タンスの裏が思っていたよりも汚れていましたので、お掃除をしていました。」



 その言葉を聞いて、ミタは確認するかのように普段掃除するところを確認していく。窓……済み。トイレ……済み。衣装部屋……済み。部屋全体が驚くように綺麗にされていた。普段のメイドの掃除がまるで手を抜いていたかのように綺麗になっていたのだ。


 ミタは、脱帽していた。


「まさか、ここまで素晴らしい技術をお持ちとは……。」



 ミタは、再び感動していた。今日で二度目の心からの感動だ。少しミタは、感動しやすいようだ。



 ミタが年甲斐もなく、自身の感動に打ちひしがれている時、後ろから声をかけられた。


「どうですか?何か不備などありましたか?」



 アマネだ。アマネは、普通の声量で声をかけたが、ミタは少しビクッとさせた。



「い、いえ。本当に完璧です。これなら、もう今日は、お掃除することなどないでしょう。」



 そう言ってミタが、部屋を出るために扉に向かった。それに追従するようにアマネはミタの後を追う。



 サクラの部屋を出た時にアマネはミタに言った。



「申し訳ありません。ミタさん、やり残したことを思い出しました。少しお待ちいただいてもよろしいですか?」



「はい。わかりました。私の力も必要ですか?」


 ミタは、アマネの言葉に応えた。



「いいえ。それには及びません。ほんの少しの間ですので、ここでお待ち下さい。」



 アマネはそう言って再び部屋に入っていった。



 部屋に入ったアマネは、言葉通りすぐに出てきた。あまりにも早く出てきたので、ミタは少し怪しんでみたが、それはアマネとの関係ない会話をしていることでどこかに消えていった。



「アマネ様、朝食は、9時になります。それまで、お部屋でお休みください。後ほど、紅茶を差し入れさせていただきます。」



 とミタは言った。



「ありがとうございます。では、少しお部屋の方で休ませていただきます。」


 アマネがそう返したのは、すぐ近くにサクラがいたために他ならない。今は、あまり姿をみせるべきではないと判断してのことだった。


 アマネが小さくお辞儀をすると、すぐ近くに自室へと帰るのであった。



 アマネが自室に帰ってから時が少し経過した頃。サクラは、部屋に戻っていた。


「あら、今日は、なんだか、随分と部屋が綺麗なんですね。それとなんだか、いつもとお掃除の仕方も違うようです。」



 サクラは自分の部屋が綺麗なことに気がつき、今日のサクラ担当の使用人に尋ねた。すると、担当の使用人の男は、言った。



「本当ですね。素晴らしい仕事ぶりです。今日の担当は、ミタですので、さすがメイド長といったところでしょう。」



 使用人の男がそう言うと、少し経った後に何か思い出したように小さく


「そういえば……。いえ、なんでもありません。」



 そういったことで、サクラは気になった。こんなことを言われたのなら気になることなんて当然だ。

 サクラは食いつき気味に話に続きを促した。



「え? なになに? 何を思い出したの?サイトウ言いなさい。気になるじゃない。」



 サイトウと呼ばれる男の使用人は、考えていた。サクラにこの部屋を掃除した者の中には、ミタ以外にアマネがいたことを話すべきであるかどうかを……。というのも、サイトウも昨日の現場にいたのだ。サクラがアマネのことを嫌いだと言った現場に。



 だから、サイトウは迷っていた。サクラに教えろと言われたからといって、この事実は伝えるべきでない事である。きっと伝えたならば、サクラは不快感を露わにして、八つ当たりをされる可能性だってある。できれば、そんなことをされたくない。



 そう考えがまとまったサイトウはサクラに対して言った。



「いえ。本当になんでもありません。今日の朝食は、なんだろうなどとくだらないことを考えていたのです。」



 サイトウは、そういった。



「また? あなたいつも食べ物のことばかり考えているのね。そんなんだから、そんなに太っちゃうのよ? 少しは自重しなさい。」



 サクラが言うようにサイトウは、太っている。それに、身長165センチのサクラと並ぶと少し小さいくらいなので、チビでデブといったところになるだろうか。だが、彼はその愛らしい特徴と持ち前のユーモアが功を成し、誰からも愛されていた。ということは言っておこう。嫌われるような人間ではないし、少なくともどこか憎めない男……、それがサイトウだ。



「サクラ様。言葉が厳しすぎます。このサイトウ心が折れそうです。」



 シクシクと泣いているような仕草を見せるサイトウだが、サクラはそれを無視して言った。


「たぶん今日の朝食は、パンね。だって、調理場を覗いたら、焼きたてのいい香りがしていたんですもの。料理長のご飯はなんでも美味しいけど、パンは別格よね。本人もパン作りが趣味っていうくらいですもの。」



 パンという単語を聞いた途端、サイトウの口角が上がった。



「パンですか! それは、本当に楽しみです。不肖私、料理長のパンが大好物なんです。」



「サイトウは、食べ物ならなんでも大好物でしょ。あと、あなた。パンと聞いた途端によだれを垂らすのをやめなさい。はしたないわよ。ふふふっ」



 サクラに注意され、慌てて口からこぼれる涎を口に戻し、サイトウは照れたように笑う。



「では、朝食まで私は、別の仕事をしておきますので、お部屋を出るときや何かご用がありましたら、何なりとお呼びください。失礼します。」



 何度も言わせてもらうが、この屋敷には一流の使用人しかいない。だらしないようにしているサイトウも一流の仕事人である。彼のくだけた感じも時と場所を選んでのことである。



 サイトウが扉を出た。それを見て、サクラはベッドに腰掛けて本を読もうとすると、サクラの見覚えのないものが綺麗に整えられているベッドにあることに気がついた。



「これは、なんだろう……?」


 サクラは、首を傾げながら、独り言を言った。




◆◇◆◇



 ノックの音が部屋に響き渡る。作業をしていたアマネは、そのノック音に対して返事をする。



「はい。どうぞ。」



 今は、午後9時の10分ほど前。ノックの主は、ミタであった。



「アマネ様。朝食のお時間になります。」



 ミタは、そういった。


「はい。わかりました。では、移動しましょう。」



 アマネはミタの後ろを付いて行った。アマネもこの建物の構造は、全て把握している。一人でも行けるのだが、ミタとともにいく事を固辞する理由もない。



「アマネ様。朝食が終わりましたら、使用人全てを集めておきますので、軽くアマネ様のご紹介をしたいと思います。朝食が終わりましたら、少しお時間を割いていただいてもよろしいですか?」



 アマネは、昨日この屋敷に来た。アマネという人物がここにいる事は、使用人の全てが周知であったが、顔まで知っている者は、昨日マサルを出迎えた13人くらいだろう。なので、この屋敷にて、重要人物のアマネを認識させる作業を行おうということだ。


 アマネもそれを理解したし、また、これを断る理由もないので、快諾する。



「はい。私は構いません。よろしくお願い致します。」



 会食用の部屋は、一階にある。アマネとミタは、そこに向かう途中にある階段を降りながら、そのような会話をしていた。



 会食に使用される部屋は、基本的にマサルがいるときやサクラの母がいるときしか使用されない。もちろん、サクラに友達と呼べる者がいたならば、使用されただろうが、サクラには友達と呼べる者がいないため、使用されることはない。

 ならば、この部屋の使用は多いようで少ない。なぜなら、マサルやサクラの母は、基本的に仕事で家を開けることが多く、この屋敷にはいない。地球にいるのならば、即座に帰ってくるのだが、マサルの父が1代で大きな成功を収めた事業は宇宙事業であるため、二人して地球にはいないという事態になりかねない。サクラは、一人寂しく食事をすることの方が多かった。



 アマネが部屋に入ると、まだ誰もいなかった。どうやら、ミタが気を使って、一足早く部屋に案内してくれたようだ。


「ミタさん。ありがとうございます。」


 食客扱いのメイド見習いのアマネが最後に部屋に入ったならば、マサルやサクラは不快に思いかねない。ミタは、それを分かった上でアマネを早めに案内したのだ。アマネの謝辞はそれに対してである。



 それを分かったミタは


「いえいえ。私もそこまで意地悪ではありませんわ。アマネ様の不利になることなんてしません。ふふふ。」



 そう返した。



 ちょうど9時になるとサクラが来た。アマネは、朝の挨拶をすることしかできなかった。そして、サクラはそれを無視した。

 9時を少し過ぎた頃、マサルが来た。



「おはよう。今朝は、素晴らしい朝だ。朝食を食べることにしよう。」



 マサルが来たことでこの部屋で朝食をとる者が全て揃った。



「お父様。 朝食の時間は、過ぎてますわ。時間にルーズでは、ダメです。しっかりなさってください。」



 サクラが父であるマサルを窘める。その言葉に少し笑った後にマサルは



「これは、手厳しい。何にも言うことができんところが父としてまずいな。言い訳させてもらうなら……、特になかった……。」



 随分と考えていたようだが、マサルは理由が思いつがずに項垂れた。



「もう! お父様ったら!」



 サクラとマサルの会話は、楽しそうに続く。だが、アマネがその会話に入ることはない。会話に入ることができなかった。料理が運ばれてこようとも、それを食べている時でも、団欒ということができなかった。前主人が言っていたようにサクラとマサルは、団欒というものをしているが、アマネはサクラの命令によりサクラと直接的に関わることができないために、アマネの口は固く閉ざされ、食事をするだけのものとなっていた。



 結局会食の終了まで、アマネは挨拶以上の言葉を発することができなかった。



 まず、はじめに食事を済ませたサクラが出て行った。そして、後を追うようにマサルが出て行こうとした時に、アマネに近づいて、誰にも聞こえないように言った。



「友達になるのならば、君の行動のすべてを許すが、私はさっきのようなことでは、サクラの友達になれるとは思わない。君のその最高のAIで考えて行動することだ。」



 それだけ言って、マサルは部屋を出た。マサルが完全に出て行ったことを確認してアマネは



「全く。簡単に言ってくれます……。」



 誰にも聞こえないようにそう独り言を呟いた。そう言った後にアマネも部屋を出ようと立ち上がった。



「アマネ様。お時間よろしいですか?使用人を集めておりますので、玄関の方までご一緒にお願いします。」



 立ち上がった時に後ろの方からミタが声をかけてきた。



「はい、わかりました。参りましょう。」



玄関に向かうと、この屋敷の使用人の大半が集結していた。数は大体100人以上200人未満だろう。


 ミタは、アマネのことを軽く紹介すると



「我々も時間がありません。手短に自己紹介などを行いますか?」



 ミタにそう促されて、



「はい。わかりました。」



そう答えて、少し悩んでから、自身の自己紹介を始めた。



『拝啓


 初めまして、私の名前はアマネと申します。知っているかもしれませんが、マサルさまのお友達の娘にあたります。ここでは、食客のメイド見習いという扱いで、礼儀習いになります。

 ここに来る前は、マサルさまのお父様に当たる方の下でお仕事をさせていただいていました。とても素晴らしい方で、マサルさまと似ているところがあります。それを思い出し、ここで働けることを嬉しく思います。

 では……、自己紹介と言いますと、私はあまり紹介する自分というものを持っていません。なので、名前以上に紹介するものはないのです。ですので、とても簡単な自己紹介ということになってしまいますが、ここで終わらせてもらいます。


 最後に一つだけ、私はサクラさまのお友達になるためにここにきました。それだけは、覚えておいてください。

敬具』


  アマネは、自己紹介を恙なく終えた。

 宜しくお願いします。まだまだ続きます。

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