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お嬢様ドールとヒモ男

「……ふぅ……」


 今日も彼は、自分の部屋の中に飾られている1体のドールを眺めつづけていた。

 金色の長髪に、濃い赤色のドレスを纏い、青い瞳でじっと彼を見つめているように配置されている、まるでよくアニメに出てくる西洋風のお嬢様のような風貌だ。

 普通のフィギュアよりも大きく、資金も必要なドールだが、それを集めている人は数多い。当然友人も、最初はそう言う感じの趣味だと思っていた。だが、その様子が明らかに普通の『趣味』と異なる事が、少しづつ分かってきた。


「……なあお前、いつまでその人形の前にいるんだ?」


「……あぁ、来てたのか」


 来てたのかじゃない、と彼の友人は呆れ混じりに注意した。

 確かにこのドールは可愛いし、自分でも正直こう言う感じのドールが欲しいかもしれない。だが、趣味にあまりにのめり込み過ぎると、やがて生活自体に影響が出るだろう、と友人は忠告した。現に彼は、ここ数日ずっと家に引きこもり、大学にも一切来ていなかったのである。


 ところが、そんな友人に彼は真剣な顔である事を言った。


「……は?」


 友人は、その言葉を素直に受け取る事が出来なかった。

 目の前にいるのはどう見てもただのドール、どれだけ精巧にできていても、じっと同じポーズをとるだけの人形のはずである。それが『生きている』と言うのは、一体どういうことなのだろうか。


「言葉通りの意味だよ。僕はこの『お嬢様』に養ってもらってるのさ」

「……お前、大丈夫か?ちゃんと三次元にいるか?」


 何を言っているんだ、どう見ても自分は正気だ。

 その言葉を、友人は信用することが出来なかった。人形に養う――人形の『お嬢様』のヒモになっているとは、何を言っているのだろうか、と。


「……悪い、今日は帰る」

「え、もう帰っちゃうのか?」


 いくら友人でも、いくら互いに同じ趣味を有していたとしても、流石に今回は理解することが出来なかった。一旦考えを整理したい、いったん彼から距離を置きたい、そう考えた友人は、足早に彼の家を後にする事にした。


 そして、玄関で靴を履き、ドアを開いた時だった。


 また来いよ、と言う彼の言葉と手を振る動きに続いて、何か別の声が聞こえ、そして何かが揺れ動いた影が友人にははっきりと見えた。明らかにそれは、彼の影とは別の、より小さな人間のような姿をしたものだった。

 友人は何も考えず、家を後にした。何も自分は見なかった、何も知らなかった、必死にそう心の中に言い聞かせながら。



 そして、それが友人が『彼』の姿を見た最後の日となった。あれから彼がどこに行ったのか、どこに住んでいるのか、友人でさえ誰も把握することが出来なかった。

 だが、友人は言い得ぬ不安混じりの感情を覚え続けていた。最近大学に途中入学したという人が――。


『ごきげんよう♪』


 ――やけに西洋風の外見をした、良家のお嬢様だと聞いたからだ……。

お題:生きているお嬢様

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