表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/78

艦隊戦

アメーバが接触するまで、一時間を切っていた。

ブリッジに全員が集まった。シオン、カイ、リラ、エリオ、ティア。

スクリーンに戦況が映っていた。

アメーバが三つの群れに分かれて接近していた。それぞれに中核がある。中核を破壊すれば群れが散る。でも中核に近づくためには、外側の群れを押さえなければならない。

「ライラからの通信が来ています」とエリオが言った。

スクリーンにライラの顔が映った。

「シオン提督、こちらの準備ができました。バトラー十二機、術式戦闘機八機。いつでも出られます」

「ありがとうございます。開始は私の合図で」

「了解」

ライラの顔が消えた。

次にエリオ独立艦隊からの通信が来た。エリオの副官の顔だった。エリオが指示を出した。包囲網の位置を確認した。

カイはスクリーンを見ていた。

「俺は飛行艇で出る」

「待ってください」とシオンが言った。

「なぜ」

「今回のカイさんの役割は別にあります」

カイはシオンを見た。

「リラの護衛です。主砲室で術式を込める間、リラの隣にいてほしい」

カイは少し間を置いた。

「……分かった」

リラはカイを見た。カイは前を向いていた。

「行くぞ」とカイがリラに言った。

二人は主砲室へ向かった。

ブリッジに、シオンとエリオが残った。

「エリオ」

「はい」

「始めましょう」


ライラのバトラーが先に動いた。

十二機が一斉に出た。アメーバの外縁に向かって、思念の刃を振るった。切れる。でも切れても再合体する。でも——切り続けることで、外縁が中核から離れていく。

術式戦闘機が包囲した。八機が円陣を組んで、術式の壁を展開した。アメーバが壁に触れると、弾かれた。外に出られなくなった。

中核だけが残っていた。

エリオ独立艦隊が包囲網を維持した。精密な艦隊運動だった。一機でも位置がずれると包囲網に穴が開く。エリオの指示が、静かに、でも正確に飛び続けた。

シオンはブリッジからその動きを見ていた。

「エリオ、四番艦を少し右に」

「了解」

「ライラから通信」

「繋いでくれ」

「中核が見えています」とライラが言った。「第一群の中核、射線が開きました」

「リラ」とシオンが通信で言った。「第一射、お願いします」


主砲室でリラは砲身の前に立っていた。

カイが後ろにいた。一歩後ろ。声は出さなかった。ただそこにいた。

カバンから一冊目を取り出した。

ヴェルダ国の図書館で見つけた本だった。古代の音響理論。遺跡の戦いで使った本だった。あの戦いの後で、ヴェルダ国の図書館で見つけた同じ本を買い直していた。

ページを開いた。

砲身に当てた。

来た。

音響理論の言葉たちが、砲身の金属に染み込んでいくのが分かった。物理的な現象を記述した言葉が、想像の振動として砲身に乗っていく。

「込めました」

「撃ちます」とシオンが言った。

轟音がした。

艦が揺れた。

光が走った。

スクリーンの中で、第一群の中核に光が届いた。

アメーバが、散った。

外縁の群れが、中核を失って方向を失った。バトラーが追い込んだ。術式戦闘機が押さえた。散っていった。

リラは手の中の本を見た。

ページが白くなっていた。文字が消えていた。言葉が全部、砲撃に変わっていた。

一冊分の物語が、なくなっていた。

悲しかった。でも悲しみより先に、別のものがあった。

(これで良かった)

そう思えた。前作では思えなかった。今回は思えた。それが違いだった。

「第二射、準備を」とシオンが言った。

リラは二冊目を取り出した。


二冊目が燃えた。

第二群の中核が散った。

ライラのバトラーが歓声を上げた。通信に声が混じった。シオンは「静粛に」とは言わなかった。

三冊目を取り出す前に、リラは一度目を閉じた。

三冊目は王都の書庫で選んだ本だった。ナイラが参謀になる前のリラに渡してくれた本だった。「あなたが必要だと思ったら、使いなさい」と言われた本だった。

使う時が来た。

目を開けた。

砲身に当てた。

込めた。

「撃ちます」

三射目が走った。

第三群の中核が、白い光の中に消えた。

アメーバが、散った。

全部散った。

ブリッジから歓声が来た。エリオの副官の声が通信に混じった。ライラが短く「完了」と言った。

リラは砲身から手を離した。

手の中の本が、白くなっていた。

三冊とも、白くなっていた。

カバンの中に、残っているのは——不思議な本だけだった。

カイが隣に来た。

リラの手の中の本を一度だけ見た。

それから前を向いた。

「悪くなかった」

リラは少し笑った。

「そうね」

轟音の後の静けさが、主砲室に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ