艦隊戦
アメーバが接触するまで、一時間を切っていた。
ブリッジに全員が集まった。シオン、カイ、リラ、エリオ、ティア。
スクリーンに戦況が映っていた。
アメーバが三つの群れに分かれて接近していた。それぞれに中核がある。中核を破壊すれば群れが散る。でも中核に近づくためには、外側の群れを押さえなければならない。
「ライラからの通信が来ています」とエリオが言った。
スクリーンにライラの顔が映った。
「シオン提督、こちらの準備ができました。バトラー十二機、術式戦闘機八機。いつでも出られます」
「ありがとうございます。開始は私の合図で」
「了解」
ライラの顔が消えた。
次にエリオ独立艦隊からの通信が来た。エリオの副官の顔だった。エリオが指示を出した。包囲網の位置を確認した。
カイはスクリーンを見ていた。
「俺は飛行艇で出る」
「待ってください」とシオンが言った。
「なぜ」
「今回のカイさんの役割は別にあります」
カイはシオンを見た。
「リラの護衛です。主砲室で術式を込める間、リラの隣にいてほしい」
カイは少し間を置いた。
「……分かった」
リラはカイを見た。カイは前を向いていた。
「行くぞ」とカイがリラに言った。
二人は主砲室へ向かった。
ブリッジに、シオンとエリオが残った。
「エリオ」
「はい」
「始めましょう」
ライラのバトラーが先に動いた。
十二機が一斉に出た。アメーバの外縁に向かって、思念の刃を振るった。切れる。でも切れても再合体する。でも——切り続けることで、外縁が中核から離れていく。
術式戦闘機が包囲した。八機が円陣を組んで、術式の壁を展開した。アメーバが壁に触れると、弾かれた。外に出られなくなった。
中核だけが残っていた。
エリオ独立艦隊が包囲網を維持した。精密な艦隊運動だった。一機でも位置がずれると包囲網に穴が開く。エリオの指示が、静かに、でも正確に飛び続けた。
シオンはブリッジからその動きを見ていた。
「エリオ、四番艦を少し右に」
「了解」
「ライラから通信」
「繋いでくれ」
「中核が見えています」とライラが言った。「第一群の中核、射線が開きました」
「リラ」とシオンが通信で言った。「第一射、お願いします」
主砲室でリラは砲身の前に立っていた。
カイが後ろにいた。一歩後ろ。声は出さなかった。ただそこにいた。
カバンから一冊目を取り出した。
ヴェルダ国の図書館で見つけた本だった。古代の音響理論。遺跡の戦いで使った本だった。あの戦いの後で、ヴェルダ国の図書館で見つけた同じ本を買い直していた。
ページを開いた。
砲身に当てた。
来た。
音響理論の言葉たちが、砲身の金属に染み込んでいくのが分かった。物理的な現象を記述した言葉が、想像の振動として砲身に乗っていく。
「込めました」
「撃ちます」とシオンが言った。
轟音がした。
艦が揺れた。
光が走った。
スクリーンの中で、第一群の中核に光が届いた。
アメーバが、散った。
外縁の群れが、中核を失って方向を失った。バトラーが追い込んだ。術式戦闘機が押さえた。散っていった。
リラは手の中の本を見た。
ページが白くなっていた。文字が消えていた。言葉が全部、砲撃に変わっていた。
一冊分の物語が、なくなっていた。
悲しかった。でも悲しみより先に、別のものがあった。
(これで良かった)
そう思えた。前作では思えなかった。今回は思えた。それが違いだった。
「第二射、準備を」とシオンが言った。
リラは二冊目を取り出した。
二冊目が燃えた。
第二群の中核が散った。
ライラのバトラーが歓声を上げた。通信に声が混じった。シオンは「静粛に」とは言わなかった。
三冊目を取り出す前に、リラは一度目を閉じた。
三冊目は王都の書庫で選んだ本だった。ナイラが参謀になる前のリラに渡してくれた本だった。「あなたが必要だと思ったら、使いなさい」と言われた本だった。
使う時が来た。
目を開けた。
砲身に当てた。
込めた。
「撃ちます」
三射目が走った。
第三群の中核が、白い光の中に消えた。
アメーバが、散った。
全部散った。
ブリッジから歓声が来た。エリオの副官の声が通信に混じった。ライラが短く「完了」と言った。
リラは砲身から手を離した。
手の中の本が、白くなっていた。
三冊とも、白くなっていた。
カバンの中に、残っているのは——不思議な本だけだった。
カイが隣に来た。
リラの手の中の本を一度だけ見た。
それから前を向いた。
「悪くなかった」
リラは少し笑った。
「そうね」
轟音の後の静けさが、主砲室に満ちていた。




