第三波
それは昼過ぎに来た。
音はなかった。警告もなかった。ただ、空気が一瞬だけ止まった。
次の瞬間、城の広間にいた人々が一斉にその場にしゃがみ込んだ。頭を抱えた者もいた。子供が泣き出した。老いた侍従が壁に手をついて、膝をついた。何が起きたのか分からないまま、ただ何かに耐えていた。
三十秒ほどで、それは引いた。
エルト王が広間を見回した。顔が青かった。
「何が起きた」
誰も答えられなかった。
シオンはブリッジにいた。艦隊との通信が、また止まっていた。今度は四秒ではなかった。四十秒だった。
「提督」
エリオの声が硬かった。
「乗組員に、体調不良の報告が出ています。頭痛、耳鳴り、吐き気。特に、もともと体の弱い者に集中しています」
「人数は」
「現在確認中です。ただ、艦橋クルーの三割程度が何らかの症状を」
「分かった。全員持ち場を離れさせるな。症状が出ても、動ける者は動け。出られない者は横になっていい」
シオンは窓の外を見た。
城下の街では、人々が路上にしゃがみ込んでいた。立っている者もいたが、壁に寄りかかっていた。子供と老人が多く倒れていた。
エレアが部屋に入ってきた。
「始まりました」
「いつ頃からこうなると分かっていましたか」
「装置の出力が上がれば、こうなると思っていました。時期までは」
「分かりました」
シオンは地図を広げた。
「エレア、城の地下区画への入口はいくつありますか」
「三つです。ただし、僧侶側が使っているのはおそらく一つだけ」
「残りの二つは」
「封鎖されています。古い封鎖で、力技で開けられます」
シオンはエリオを見た。
「艦隊から、動ける者を十名。城の地下に向かわせてください。エレアさんに案内してもらう」
「カイさんとアルヴィさんは」
「向こうから入っているはずです。こちらは別の入口から」
エリオが動き始めた。
シオンは窓の外をもう一度見た。街の人々は、少しずつ立ち上がり始めていた。ゆっくりと、壁に手をつきながら。
エルト王が広間から出てきた。シオンの隣に来た。
「提督」
「はい」
「民が苦しんでいます。私は何をすればいいですか」
シオンは少し間を置いた。
「今は、ここにいてください」
「それだけですか」
「それが一番難しい」
エルト王は黙った。シオンも黙った。
街の中で、誰かが誰かを支えながら歩いていた。倒れた者を抱き起こしている人がいた。水を運んでいる者がいた。命令されたわけではなかった。ただ、そうしていた。
シオンはそれを見ていた。
この国の民が、どういう人間かが、今の一場面で分かった。エルト王がなぜこの国を守りたいのかも。
「エルト王」
「はい」
「あなたの国の民は、強いですね」
エルト王は答えなかった。ただ、窓の外を見続けた。その目が、少し赤くなっていた。




