収束
【隕石群】
惑星の表面から艦隊に戻った時、エリオが報告した。
「隕石群の速度が落ちています」
シオンが計器を確認した。
確かに落ちていた。惑星から来ていた力が弱まった結果だった。でも止まってはいなかった。いくつかはまだ惑星の方向に向かっていた。
「完全には止まらないか」とシオンが言った。
「このままだと、外縁部に三つから四つ落ちます。居住区域への直撃は避けられそうですが——」
「避けられそう、というのは」
「一つだけ、軌道が読めないものがあります」
シオンはスクリーンを見た。
軌道が読めない隕石が一つ、惑星の方向に向かっていた。居住区域に当たるかどうか、まだ分からなかった。
「ヴェルナに通信を」
「繋いでいます」
ヴェルナの顔が映った。
「見えています」とヴェルナが言った。「念機で押せるか試します」
「危険はありますか」
「やってみなければ分かりません」
シオンは少し間を置いた。
「お願いします」
ヴェルナが通信を切った。
スクリーンの中で、念機が動いた。十二機が一斉に隕石に向かった。
ぶつかった。
押した。
軌道が少し変わった。もう一度押した。
変わった。居住区域から外れた。
「外れました」とエリオが言った。
ブリッジが少しだけ緩んだ。
シオンはハーブの茶を一口飲んだ。今度は温かかった。
エリオが淹れていた。
【水晶空間が開く】
惑星の核心の振動が変わったことで、水晶空間にも変化が来た。
エリオが最初に気づいた。
「提督、水晶空間の表面が変化しています」
スクリーンに水晶空間が映った。
表面に、細い光の線が走っていた。一本、また一本と増えていった。網目のように広がっていった。
光の線が全体に広がり切った瞬間、表面が消えた。
爆発でも崩壊でもなかった。
ただ、なくなった。
王都が、宇宙空間に露出した形になった。
「王都からの通信が来ています」とエリオが言った。「ナイラ女王から」
「繋いでくれ」
「シオン提督」とナイラの声が来た。「壁がなくなりました」
「確認しています」
「外に出られますか」
「出られます。降下艇を送ります」
「ありがとうございます」
通信が切れた。
シオンは窓の外を見た。
王都が見えた。灯りが見えた。川が見えた。空の色が、いつもの色に戻っていた。橙が混じっていた。夕方の色だった。
【王都に降りる】
降下艇が王都の広場に降りた。
ナイラとヴェルナが待っていた。
ナイラはいつも通りの凛とした立ち方だった。でも目が、いつもより少し温かかった。
「よくぞ戻りました」とナイラが言った。
「ご不便をおかけしました」とリラが言った。
「不便はありませんでした。川の水も来ていたし、鳥も飛んでいた」
ナイラは少し口元を緩めた。
ヴェルナがカイを見た。
「怪我は」
「ない」
「そうか」
それだけだった。でも十分だった。
広場に人が集まり始めていた。
壁がなくなったことを、人々はすでに知っていた。空の色が変わったから分かった。鳥の声が増えたから分かった。川の音が少し大きくなったから分かった。
子供が走っていた。老人が空を見上げていた。市場の人々が声を上げていた。
リラはその光景を見た。
閉じ込められていた人々が、外に出ようとしていた。恐る恐る、でも確かに、壁があった場所を通り抜けていた。
何もなかった。
壁は本当になくなっていた。
リラは、ひとつ、息を吐いた。
【それぞれの場所へ】
その夜、王都の外れに全員が集まった。
シオン、エリオ、アルヴィ、ブラート、ルテ、グラン、カイ、リラ、ティア、ナイラ、ヴェルナ。
ルテはシオンの艦隊から、グランは王都の守りから、それぞれこの夜のために戻っていた。
食堂を借りた。大きな食堂だった。それでも少し窮屈だった。
シオンが言った。「明日から、それぞれ動きます」
誰も反論しなかった。
「私は艦隊を惑星の近くに一度戻します。あの惑星の変化を記録しておきたい。歴史学者の習慣です」
エリオが手帳を出した。すでに書き始めていた。
「アルヴィさんは」とリラが聞いた。
「もう少し旅を続けます。歪みの残滓がまだある。ブラートも来ますか」
「来る」とブラートが言った。即答だった。
「ルテとグランは」
「ついていきます」とルテが言った。グランが「当然だろ」と言った。
カイが言った。「俺はエルド・ラインに戻る」
「いつ」とティアが聞いた。
「明日の朝」
ティアは羽を、小さく震わせた。
「私は残る。ここの方が好きだから」
「好きにしろ」
ティアは、ふと気づいた。耳の奥が、痛くなかった。日ごとに増していたあの痛みが、世界のどこかが閉じたのと同じ頃に、消えていた。
ナイラが言った。「この街には、やるべきことが山積みです。ヴェルナ、明日から」
「分かっています」とヴェルナが言った。もうそちらを向いていた。
食堂に、いくつもの声が重なっていた。
リラはその声を聞きながら、カバンを膝に乗せていた。
不思議な本が入っていた。触れた。
温かかった。
急いていなかった。落ち着いていた。
終わった、という温度だった。
【カイの前夜】
夜遅く、カイは城壁の外に出ていた。
草の上に座っていた。星が出ていた。
ポケットから紙を出した。
リラに渡した紙ではなかった。別の紙だった。
ペンを持っていた。
書いた。
うまくいかなかった。最初の一行が、何度も違う形になった。
書き直した。また書き直した。
三十分ほどかかった。
最後に一行だけ残った。
読み返した。
(これでいい)
ポケットに入れた。
立ち上がった。
星を見た。エルド・ラインの星とは並び方が違う。でも同じ星海だ、とカイは思った。どこにいても星海は星海だった。
明日、帰る。
帰る場所がある。でも——
カイはポケットに手を入れた。紙に触れた。
(ここにも、来る理由がある)
城の方向へ歩き始めた。




