惑星へ
【航行中】
惑星まで、半日かかった。
艦隊が進むにつれ、空間の質が変わっていった。星の密度が変わった。光の屈折が変わった。
そして、色が開いた。
道中ずっと薄く滲んでいた翡翠と青が、ここで一度に広がった。翠野の野を覆っていた緑が、宇宙の一面に。輝く川のせせらぎの淡い青が、星々の間を流れて。深い湖が光を吸い込んで発光するように、空間そのものが、淡く発光していた。
宇宙に、湖と森があるかのようだった。
リラは窓に額をつけた。ルミナス湾の夕暮れに、初めて空から人が落ちてきた、あの日の空を思い出した。
シオンが記録を取り続けていた。エリオが計器を見続けていた。
リラは窓の外を見ていた。
惑星が大きくなっていった。最初は点だった。次に円になった。次に球体になった。色は暗かった。青でも緑でも茶でもない。深い灰色に近い色だった。でも表面に光があった。都市の光だった。かつて人が住んでいた、あるいは今も何かが動いている、という光だった。
「あの光は何ですか」とリラがシオンに聞いた。
「かつての勢力の惑星です。連邦と長く戦っていた側の中枢でした」
「今は?」
「無人のはずです。戦いが終わって、撤退した。でも——」
シオンは窓の外を見た。
「エネルギー反応がある。無人ではないかもしれない」
カイが言った。「あるいは、人間ではない何かがいる」
シオンは頷いた。
「その可能性も考えています」
リラはカバンの中の不思議な本に触れた。
温かかった。近づくにつれて、強くなっていた。
(もうすぐだ)
そういう温度だった。
【アルヴィとの合流】
惑星の手前で、シオンが艦隊を止めた。
「まず状況を確認します」
その時、通信が入った。
「シオン提督、聞こえますか」
アルヴィの声だった。
シオンが顔を上げた。エリオが通信を繋いだ。
「聞こえます。アルヴィさん、今どこにいますか」
「惑星の表面です。ブラートと二人で、先に来ていました」
カイが言った。「どうやって来た」
「ジャコールの跡地から、直接繋がっていました。この惑星と、あの場所は——同じ層にある」
リラは頷いた。
「内部の状況は」とシオンが聞いた。
「廃墟です。でも廃墟ではない。建物は朽ちていますが、エネルギーが動いています。中核に向かって、何かが流れている」
「中核に、何がありますか」
短い間があった。
「来てみてください。言葉では難しい」
シオンは少し間を置いた。
「危険はありますか」
「今のところは」とアルヴィが言った。
シオンはカイを見た。カイが頷いた。
「降下します」
【惑星の表面】
降下艇で惑星に降りた。
シオン、カイ、リラ、エリオ、ティアの五人だった。
表面は灰色だった。空も灰色だった。光源がどこにあるのか分からない、均一な明るさだった。影がなかった。
建物が並んでいた。石造りではなかった。金属と有機的な素材が混ざった建物だった。かつては機能していた建物だった。今は電力が落ちていた。でも完全には死んでいなかった。壁の一部が、かすかに光っていた。
「ここが」とリラが言った。
「かつて敵の中枢があった惑星です」とシオンが言った。静かな声だった。「私も来たことはない。でも地図は持っていた。こういう場所だとは、思っていなかった」
「思っていなかった、というのは」
「もっと冷たい場所だと思っていた」
リラは周囲を見た。
冷たくはなかった。寂しかった。でも冷たくはなかった。かつてここで生活していた人たちの痕跡が、建物の形に残っていた。窓の大きさ、通りの幅、広場の位置。人間が作った場所だった。
アルヴィとブラートが来た。
アルヴィはいつも通りの顔だった。でも少し疲れていた。旅の疲れではなかった。別の種類の疲れだった。
「中核まで、歩いて十五分です」とアルヴィが言った。
「案内してください」
一行が歩き始めた。
【三層の前に】
中核へ向かう道の途中、アルヴィが話した。
歩きながら話した。立ち止まらなかった。
「ジャコール・アオンから聞いた条件を、全部話します」
全員が聞いた。
「一つ目。エルド・ラインの意志を持つ者は帰還する。この世界の物語の守り手はここに残る。その組み合わせが揃った時に、歪みは閉じる」
カイは聞きながら、前を向いていた。
「これはカイとリラのことです。最初からそういう流れだった。私たちは、その流れの中にいる」
リラはカバンを胸に抱えた。
「二つ目」とアルヴィは続けた。「破壊の収縮は、内側から解くしかない」
「内側から」とシオンが言った。
「この惑星の中核に、最初の振動があります。それに触れて、別の答えを示さなければならない。外から壊すことはできない」
「誰が入るんですか」とエリオが聞いた。
アルヴィはリラを見た。
「リラとアルヴィさん、ですね」とリラが言った。
アルヴィは頷いた。
「私が道を開きます。リラが触れる」
カイは前を向いたまま言った。「俺は外で待つ」
「そうなります」
カイは何も言わなかった。
リラはカイの横顔を見た。
「カイ」
「なんだ」
「さっき、護衛の役割を受け入れた時——おかしくはなかった、と思いましたか」
カイは前を向いたままだった。
「なぜ分かった」
「顔を見てた」
カイは前を向いたまま、少し口元が動いた。
「うるさい」
リラは、それ以上はからかわなかった。
建物が途切れた。広場に出た。
中央に、建物よりも古い構造物があった。石と金属が混ざった、円形の台だった。その中心から、かすかなエネルギーが流れていた。
「ここです」とアルヴィが言った。
【入口】
台の前に立った。
エネルギーが流れていた。見えなかったが、感じた。リラだけでなく、全員が感じた。ティアが耳を押さえた。エリオが計器を確認した。シオンが窓のない場所で初めて空を見るような顔をした。
「どうやって入るんですか」とリラが聞いた。
「台に触れます。私が先に触れて、道を開く。リラが続いて触れる」
「中はどうなっていますか」
「三つの層があります」
アルヴィは一拍置いた。
「一層目は、皮肉と煽りの想像です。本物の痛みからは来ていない。温度のない言葉が積み重なっている。通り抜けられます」
「二層目は」
「悲観の想像です。これは本物の痛みから来ています。引き込まれやすい。私が隣にいます」
「三層目は」
「最初の悲しみです」
アルヴィはリラを見た。
「誰かが想像したものが、届かなかった。その最初の痛みが、ここにある。長い時間をかけて、自分の形を忘れている」
リラは頷いた。
「触れて、何かを言うんですね」
「広場でやったことと、似ています。でも今回は——」
アルヴィは少し間を置いた。
「一人の人間ではなく、惑星が抱えてきた最初の悲しみに対してです」
リラはカバンの中の不思議な本を取り出した。
触れた。
強く来た。今まで感じた中で、一番強かった。
(ここだ。ここに来るために、最初から呼んでいた)
そういう温度だった。
「行きます」とリラが言った。
アルヴィが台に手を当てた。
光が来た。静かな光だった。眩しくなかった。ただ、明るかった。
リラが続いて手を当てた。
光が二人を包んだ。
カイは一歩だけ前に出た。
止まった。
アルヴィとリラの姿が、光の中に消えていった。
カイは台の前に立ったまま、動かなかった。
ポケットに手を入れた。紙に触れた。
出さなかった。
シオンがカイの隣に来た。
「待ちますか」とシオンが言った。
「ああ」
「私もそうします」
二人は並んで台の前に立った。
ブラートが反対側に立った。ティアがカイの肩に来た。エリオが計器を持ったまま、少し後ろに立った。
全員が待った。
台から、かすかなエネルギーが流れ続けていた。




