おうち
うんぱるんぱ。
みんなはそれを、うんぱと呼ぶ。
うんぱは、ちっこくて、白くて、まんまるだ。
ころころ転がれそうな体をしていて、手足は短い。
知能はだいたい三歳くらい。だけど、好奇心だけはとても強い。
そんなうんぱは、今日もおうちの中で目を覚ました。
「……あさ?」
ふわぁ、と大きなあくびをする。
窓から入ってくる光を見て、なんとなく朝だと判断するあたりが、うんぱらしい。
いつもならそのままゴロゴロして終わるのだけど、今日は少し違った。
きらり。
テーブルの上で、なにかが光ったのだ。
「……なにあれ」
うんぱは目をまるくして、よたよたと歩き出す。
短い足で一生懸命に進む姿は、見ているだけで少し危なっかしい。
テーブルの下までやってきたうんぱは、見上げる。
「たかい……」
テーブルは、うんぱにとっては山のような高さだった。
でも、気になる。とても気になる。
「のぼる……!」
そう決めたうんぱは、近くにあったクッションを引っ張ってきた。
ずりずりと動かすだけでも大仕事だ。
「よいしょ……よいしょ……」
やっとの思いでクッションを重ね、さらに本を一冊引きずってくる。
それを階段みたいにして――
「いく!」
ぽてっ。
転んだ。
「いたい……」
ちょっと泣きそうになるけど、ぐっとこらえる。
なぜなら、光るものが気になって仕方ないからだ。
もう一度。
今度は慎重に、ゆっくりと登る。
一段。
二段。
三段――
「ついた!」
ついにテーブルの上に到着した。
そこには、小さなスプーンが置いてあった。
朝の光を受けて、きらきらと輝いている。
「きれー……」
うんぱはスプーンを持ち上げて、のぞき込む。
すると、そこには――
「だれ!?」
びっくりした。
スプーンの中に、白くて丸いなにかが映っている。
じーっと見つめる。
向こうも、じーっと見ている。
「……にてる」
それは、うんぱ自身だった。
「ぼく……?」
不思議そうに首をかしげるうんぱ。
スプーンの中のうんぱも、同じように首をかしげる。
「ふしぎ……!」
それだけで、なんだか楽しくなってきた。
でも、そのとき――
ぐらっ。
バランスを崩したうんぱは、スプーンごとテーブルから落ちた。
「うわぁぁぁ!」
ぽすん。
運よくクッションの上に落ちて、無事だった。
「……びっくりした」
しばらくそのまま転がっていたけど、やがてむくりと起き上がる。
すると今度は、ソファの下の暗がりが目に入った。
「……あっち、くらい」
暗いところはちょっと怖い。
でも、気になる。
「ぼーけん……する」
小さくつぶやいて、うんぱはソファの下へと入っていった。
そこはまるで洞窟みたいだった。
ほこりがふわふわしていて、知らないにおいがする。
「くしゅん!」
くしゃみをしながら、奥へ奥へと進む。
すると――
「……なにこれ」
小さなボールが転がっていた。
どこから来たのか分からないけど、うんぱにとっては大発見だ。
「ころころ……!」
押してみると、ボールは転がる。
「たのしい!」
うんぱは夢中になってボールを転がした。
右へ、左へ、どんどん奥へ。
――そして。
ごつん。
壁にぶつかった。
「いきどまり……」
ちょっとしょんぼりする。
でも、来た道を振り返って気づいた。
「……かえり、わかんない」
迷子である。
しばらくその場で考えるうんぱ。
「……ま、いっか」
あまり深く考えないタイプだった。
とりあえず、光のある方へ進んでみる。
少しずつ、明るくなっていく。
そして――
ひょこっ。
ソファの反対側から顔を出した。
「でた!」
なんだか大冒険を終えた気分だ。
同じおうちの中なのに、まるで別の世界に来たみたいだった。
うんぱは満足そうに、その場にぺたんと座る。
「ぼーけん、おわり」
そう言って、ころんと横になる。
さっきの緊張が一気に抜けて、すぐに眠くなってきた。
「……つぎは、どこいく……」
そんなことをつぶやきながら、うんぱは目を閉じる。
おうちの中には、まだまだ知らない場所がたくさんある。
引き出しの中。
カーテンの向こう。
キッチンのすみっこ。
うんぱのぼうけんは、まだはじまったばかりだ。
すやすやと眠るその姿は、今日も変わらず、ちっこくて、白くて、まるかった。




