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第21話 論功行賞があるようです

 宿に戻ると、俺たちはいきなり最上級の部屋に通された。

 それはリンスも同じで、隣の部屋同士。

 すでに浴槽には湯が張られ、湯気がふんわりと漂っていた。


「うちの女将が今日からしばらくはここを使ってくれと……食後で構いませんので、部屋の荷物の移動をお願いします。あと食事の用意は毎食させていただきます。もちろんお代は結構ですので」


 とんでもないVIP待遇だな。


「ありがとうございます! 早速お風呂をいただいてもいいですか?」


「ええ、もちろんでございます。食事の支度をしておりますので、ごゆっくりしてください」


 丁寧に一礼した従業員が退出すると、早速風呂に向かう。

 服を脱ぎ、浴室に入ると、温かい蒸気とともに戦いの疲れがふわりと抜けていくような気がした。

 肩まで浸かると、途端に全身の筋肉がほぐれていく。


「……はぁぁ……生き返る……」


 思わず漏れた声に、自分でも苦笑い。

 足を伸ばすと、全身から力が抜けていくのがわかった。


 ――それにしても、あの戦いで分かったことがある。

 それは【ストック】が、天啓の名にふさわしいギフトということ。

 魔法を高速で繰り出す異常性。それが、熟練者であればあるほど逆に対応を狂わせる。


 だが、もしも【ストック】がなかったとしたら……想像するだけで背筋が凍る。

 魔法に頼るだけでは、いつか限界が来る。

 もっと鍛えなければ――剣でも、生き残れるように。


 湯から上がり、体を軽く拭って身支度を整えると、食堂へと足を向けた。

 扉を開けると、リンスの姿はまだない。代わりに、静かな空間には美味しそうな匂いが満ちていた。


 テーブルには、目にも鮮やかな料理が次々と運ばれていく。

 ハーブとバターでこんがりと焼き上げた若鶏。

 ごろりと肉塊が沈む、滋味あふれる野菜スープ。

 香ばしく焼かれた、チーズとハーブのじゃがいもグラタン……。


 他にも続々と並べられる食事。

 立ちのぼる湯気と食欲をそそる香りに、思わず腹が鳴った。

 戦いの疲れも、空腹の前では無力だったらしい。


 待つこと数分、もう一人の主役――リンスが姿を見せた。

 が、その姿はあまりにも艶めかしいものだった。


 濡れた髪を片側に流し、真っ白な肌には湯上がりの熱がほんのりと残っている。

 慣れない浴衣は少し着崩れ、胸元の膨らみが今にも顔を出しそうになっていた。


「リンス、あんた! なんだい、その格好! こっち来な!」


 女将のツッコミが飛ぶ。


「す、すまない……どうやって着ればいいのか分からなくて……見苦しかったな」


 リンスは気まずそうに、しおらしく言う。

 女将が手際よく浴衣を整えてやると、ようやく本来の凛々しさが戻ってきた。

 きちんと着直したリンスは、俺の正面に腰を下ろし、目の前に並んだ豪華な料理に目を輝かせる。


「あんたたち二人は街の英雄だよ! おかわりはたんまりあるから、好きなだけ食べな!」


「ありがとうございます!」


「女将、感謝する。では早速――」

 

 待ちきれなかったように、俺たちは手を合わせ、女将自慢の手料理に手を伸ばす。


 ジュワッと音を立てながら運ばれてきた若鳥の香草焼きは、肉の旨みとハーブの香りが絡み合い、鼻腔をくすぐるたびに空腹が一層刺激された。

 野菜と肉がとろけるまで煮込まれたスープは、口に含めば体の芯まで優しく染み渡り、戦いの疲れを溶かしていくようだった。

 表面に黄金色の焼き目をつけたグラタンは、じゃがいものゴロっとした触感を残しつつも、蕩けるようなチーズの濃厚さが舌を包み込み、一口ごとに幸福感を与えてくれる。


 そんな至福のひとときの中で、リンスがこちらに視線を寄越す。

 柔らかな微笑とともに「美味しいね」と、瞳が語りかけてくる。

 その何気ない笑顔が、最高のスパイスとなり、気づけば、あれほど山盛りだった料理もすべて平らげてしまった。


「ほら! 遠慮しないでおくれよ!」


 女将さんが張り切って、追加のパンを持ってこようとする。


「あ、僕はもうお腹いっぱいです。夢中で食べてしまいました。本当に……とても美味しかったです!」


 リンスが小さく微笑みながら、丁寧に言う。


「私も、これほど食べたのは初めてだ。心のこもった料理に、心から感謝する」


 そう言って、彼女はすっと背筋を伸ばし、数時間前と同じように礼儀正しく頭を下げた。

 その姿につられるように、俺も深く頭を下げる。


「ああ、こんなに綺麗に食べてくれると、こっちも嬉しくなるよ」


 女将さんが目を細めて笑う。そして、ふと思い出したように言葉を続けた。


「そうそう、《尖鼠団》だったかい? 本格的に籠城を始めたらしいよ。西の丘に炊き出しの要請があってね。あんたたちのおかげで街は無事だって報せるついでに、あいつらの胃袋も満たしに行ってくるよ。あんたたちは何も気にせず、しばらくはゆっくり休みな」


「……そうか。籠城となれば、下手に動くのも難しい。なら、ゼルト殿に伝えてくれ――街は私たちが守る。安心してほしいと」


「分かったよ。あんたたちみたいに頼もしいのがいてくれりゃ、こっちも安心できるさ」


 二人の騎士に守られながら、炊き出しに行く女将さんの背中を見送ると、それぞれ部屋に戻り眠りについた。



 翌朝――


 目覚めて最初にするのは、いつもと同じ【ストック】だ。

 すでにそれは、日課というより習性に近い。


 ただ、今日からは少しだけ優先順位を変えることにした。


 最優先は【風纏衣シルフィード】。

 そして次に【石纏衣ノームディア】。

 この二つは、変わらずの優先順位。俺の生命線だからな。

 もし持ち合わせていなければ、今ここにいることすらできなかっただろう。


 次にストックするのは、【雷撃ライトニング】と【火弾ファイアバレット】。

 いずれも弾速が速い……故に命中率も高い。

 遠距離で確実にダメージを与えられる攻撃魔法だ。

 さらに【火爆ファイアバースト】も優秀だ。着弾せずとも爆風に巻き込める。


 これまでは、第一位階の魔法をストックしてから、順に第二、第三、第四へと進めていた。

 だが今後は、実体系の遠距離攻撃魔法は後回しにする。

 確実に戦果を上げられる魔法を優先する――それが、今回の戦いで得た教訓だった。


 【ストック】を終え、食堂に。

 すると、すでにリンスの姿がそこにはあった。


「おはようございます。早いんですね」


「いや、私も今起きてきたところだ」


 ちょうどそこに、女将さんが配膳してくれる。


「昨日、西の丘に行ってきたよ。団長さんが言うには、食糧庫は抑えているから制圧は時間の問題。早ければ今日中にでも片が付くと言っていたよ」


 なるほど。兵糧攻めに持ち込むまでもなく、勝負はほぼ決しているわけか。


「それと、昨日の《蛇咬団》の奴らなんだけどね、どうやら全員捕まったみたいだよ。これで、この街に迫る危機は南の魔物たちだけ。でも、あいつらは盗賊と違って、向こうから襲ってくるようなことは今のところはないからね。しばらくは平穏になるかもしれないね」


 女将さんは、安堵の笑みを浮かべて言った。

 こうして誰かが笑顔でいてくれるなら。

 それだけでも、大規模討伐に参加した甲斐があったってものだ。


 ♢


 ゼルトの読みは的中した。

 その夜――《尖鼠団》は最後の望みに賭け、全戦力をもっての玉砕攻撃に打って出た。


 だが、気を抜くことなく包囲していた騎士団、冒険者たちを前にしては、なす術もない。

 激しい抵抗も虚しく、《《ほぼ全員》》が捕縛された。

 ただ一人――頭目の姿だけが、どこにもなかった。


 そして、この戦いにおける論功行賞がグレスト男爵家の館にて執り行われることになったという情報を騎士団員が報告しに来たのは、その日の夜中のことだった。



-----あとがき-----


異世界じゃがいも論争は受け付けてませんm(__)m


-----あとがき-----

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