六十七話 さくっとやっちゃいますか!
ヴァルは呆然と目を丸くして、表の集団を凝視する。
「あれは、邪竜を信仰する者たち……なのか?」
「そうらしいですよ、ヴァル先輩」
クリスがやれやれと肩をすくめてみせる。
上学年だと誤解しているため、ヴァルには敬語だ。さすがの真面目さである。まあ、それはともかくとして……。
「ほら、中心に立つ男がいるでしょう。彼が首から下げているのが、その邪竜の鱗らしいです」
クリスが指し示すのは、演説を続ける男だ。
彼の首には銀のペンダントが光っていて、よくよく見ればそれは手のひら大のうすっぺらい楕円形だ。鱗というには巨大なものだが、ヴァルのサイズからすれば……ちょっと小さい。
それをじーっと見つめて、ヴァルは首をかしげる。
「偽物では……?」
「それはそうでしょう。邪竜は伝説の存在だ。目にした者はひとりもいませんからね」
クリスは苦笑してみせる。
当の邪竜本人がこの場にいて、呑気にパフェを食べていると知ったらどう思うのだろう。ま、普通は信じないわよね。
「だが、彼らは邪竜が実在すると信じている。おまけに近々、その邪竜が復活して世界に破滅を撒き散らすとか、なんとか」
「ええ……」
そんなの知らない……という戸惑いの声を上げるヴァル。
まあ、気持ちはわかるわ。彼からしてみれば、知らないところでアイドル扱いされているに等しいだろう。なおも悪いのは、単に崇め奉るだけならまだしも……。
「それだけならまだ可愛いものなんだが……彼らには悪い噂もあるんですよ」
「悪い、噂だと……?」
「ええ。なんでも彼らは邪竜に捧げる生贄を探しているとか……」
「い、生贄ってもしかして……人ですか!?」
リリィがぎょっとして悲鳴を上げて、店内の他の客たちもざわめいた。
クリスの噂は、最近この街でまことしやかに囁かれているものだ。だがしかし、噂は噂。真に受けている者はほとんどいないし、彼らは単に怪しい宗教団体としか見られていない。
(その噂が本当だって知っているのは……あの人たちと、私くらいのものでしょうね)
私はごくりと喉を鳴らす。
彼らはとあることがきっかけで、邪竜を信仰し始めた。そして邪竜に捧げる生贄を求めて……とんでもない事件を起こそうとするのだ。
ゲーム中の夏パートは、学校が休みになる。
だからダンジョン探索はできなくなるので、そのかわりに彼ら……邪竜教団たちと戦うはめになるのだ。
そしてその中心となるのは、私の隣で不安そうにするリリィで――。
「大丈夫よ」
「えっ」
私がぽんっと肩を叩けば、リリィははっとして顔を上げる。
「悪い奴らが来たって、私が守ってあげるから。そんなに心配しなくていいわよ」
「ロザリアさん……」
これからゲーム通りの展開が待っているとすれば、リリィは邪竜教団との戦いに否応がなく巻き込まれてしまうだろう。
そうなれば、この子の夏の思い出に、キラキラしたものだけでなく陰惨な事件の記憶が混ざり込む。
リリィだけじゃない。ヨハネやクリス。そしてこの店にいるほかの生徒たち。
みんなの夏が穢されるなんて……そんなこと、この私が見過ごすとでも?
リリィに笑いかけながら、私は軽く決意を固める。
(いっちょやりますか! みんなで素晴らしい夏を過ごすために!)
さくっと邪竜教団、潰しちゃいましょうか!
続きはまた来週くらいに……お待たせしてしまって大変申し訳ございません。




