表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/68

四十二話 クリスの秘密 

「おや、エドワーズ氏ですか。またロザリア様のことを見ておりますね」


 ヨハネも気付いたのか、目を丸くする。

 事実、彼はこのところずっと私のことを見つめていた。


 契機(けいき)となったのは、先日ぶつかりかけたあの日だろう。

 それ以来、熱い視線を感じると必ず彼がそこにいた。


 しかし、話しかけてきたことは一度もない。

 ただじっと、私のことを見ているのだ。


 リリィがぽんっと手を叩く。


「ひょっとして、あの方もロザリアさんの隠れファンなのでは?」

「ですが、彼は女性嫌いで有名ですよ?」


 ヨハネが小首を傾げてみせる。


「授業中はおろか、そのほかの時間でも女性に一切近付きませんからね。会話を交わすことすら稀です」

「それは私も存じていますよ。《氷の貴公子(ブリザードプリンス)》ですよね」

 

 ふたりの言う通り。

 クリスは女嫌いで有名だ。


 女子からは常に一定の距離を取り、()れ合うことが一切ない。

 無愛想というより、嫌悪すら感じられるほどの徹底ぶりだ。


 とはいえ顔立ちは王子様然としたものなので、『むしろそれがイイ!』と一部の女子からは遠巻きに慕われている。

 

 個性的なキャラクターであるため、この学年では有名人だ。


「ですが、ロザリアさんの魅力の前には、性別なんて関係ないと思うんです!」

「なるほど。一理ありますね」

「あるのかしら……」


 私は半笑いでぼやくしかない。


 彼の視線は、敬意というより警戒そのもの。

 まるで手負いの獣がじっと物陰で息を(ひそ)めているような、そんな緊迫感がひしひしと伝わってくる。


(ぜ、絶対、怪しまれてる……)


 クリス・エドワーズ――ゲームでの攻略対象キャラクターである彼のことなら、私は何でも知っている。


 好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味に家族構成。

 そして……女性を避ける本当の理由も。


(私にそれがバレたんじゃないかって、心配なのかも……これ以上は迂闊なことはできないわね)


 うん、心してかかろう。

 彼から視線を外し、私はわざとらしいくらいの笑顔を作る。


「まあ彼のことは置いといて。早く遊びに行きましょ」

「はい! 砂浜での追いかけっこですね!」

「みんなで準備体操をしないといけませんね」


 話題も変わり、私たちはふたたび片付けにとりかかる。

 そうするうちに、彼の視線も気にならなくなって――。


「あの……クリスくん」


 そこで、そんな女子の声が聞こえてきた。

 私はハッと顔を上げる。


 見れば女子の三人組が、クリスから三メートルほどの距離をとって話しかけていた。


 ええ……まずくない?


 おもわず私は片付けの手を止めて、事態を見守ってしまう。


 クリスは片眉を上げ、女子たちをにらむ。

 まさに氷と呼ぶにふさわしい絶対零度の眼差しだ。


「……何の用だ?」

「え、えっとあの、クリスくんはもうダンジョン探索のパーティは決まったの?」

 

 最近では、新入生もダンジョンに向かいはじめていた。


 しかし、今はまだ誰と組むかを考えている者がほとんどだ。

 気の合う仲間で組むか、得意な分野がバラバラな者同士で組むか……選択肢は色々だ。

 

 ちなみに学園からの推奨パーティ人数は四人。

 これより少ないとひとりひとりの負担が重くなり、これより多いと連携が取りにくくなってしまう。

 

 彼女らは三人。残るひとりにエドワーズを誘いたい……そういうわけだろう。

 

「よかったら私たちと組まない? ほら、クリスくんって授業の成績もいいし、剣だって得意でしょ。だから――」

「……悪いが、俺は女性と組む気はない」

 

 クリスはにべもなくそう告げて、彼女らに背を向け歩き出す。

 まあ、それも当然よね……。私はホッと胸を()で下ろすのだが――。

 

「待って! クリスく、っ……!?」

 

 ひとりの女の子が、彼を追いすがろうとする。

 そこで足がもつれた。彼女はクリスの背中に倒れ込み――。

 

(ま、まずいっっっっ!)

 

 気付いたときには体が動いた。

 次の瞬間、私はクリスと女子の間に(すべ)り込み、倒れ込んだ彼女を受け止めてお姫様抱っこしていた。

 この間わずか一秒たらず。バグで会得した瞬間移動を使ったのだ。


 突然現れた私に、女の子は目を丸くしてみせる。

 

「ろ、ロザリアさん……!?」

「大丈夫? 足元には気を付けなさいね」

 

 そう笑いかけ、私は女の子を下ろす。

 あとのふたりが慌てて彼女に駆け寄ってきて。

 

「ちょっ、ロザリアさんにお姫様抱っこされるなんて……なんてラッキーなのよ!」

「エドワーズくんに話しかけられるより貴重な経験じゃない!」

「わ、私、今日はお風呂に入らないわ……!」

 

 きゃっきゃと騒ぐ女子三人だった。

 えっ、なにその反応。

  

(いやでも、セーフだわ! GJ(グツジヨブ)よ、私!)

 

 クリスに彼女がぶつかることは回避できた。

 これで一安心。なんて思っていると。


「おい」


 背中にかかる、氷よりも冷たい声。

 おそるおそる振り返れば……そこには、(けわ)しい形相(ぎようそう)をうかべたクリスが立っていた。


「話がある。ついて来てくれないか」

続きは7/25に更新します。

ブクマに評価、ありがとうございます。お暇つぶしになれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] よく考えたらヨハネくんは追いかける側では?! そしてロザリアさんへの反応が宝塚並み?! 普通は「お風呂入らない」じゃなくて「お風呂入れない」だから?!そこ?!(友人が言ってた)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ