四十話 不運故のエンカウント
リリィは並んで歩くヨハネとのほほんと談笑していた。
見た目は美男美女カップル。
しかし交わす会話が『ファンクラブの今後について』だ。
今はまだ会員は四人だが、ゆくゆくは全校生徒を包括する規模に成長できれば……という展望を、ふたりで熱く語っていた。
そこまでいったら宗教よ。頼むから思い直してちょうだい。
ヴァルは虚をつかれたように目を瞬かせる。
「あの娘? なぜだ」
「なぜ、って……気になるんじゃないの?」
「ふむ……たしかに、強い潜在能力と奇妙な運命を感じるが……」
じーっとリリィの後ろ姿を見つめてみせて――私へ視線を戻し、力強くうなずく。
「おまえの方が、格段に見ていて面白い」
「ああ、そう……」
がっくりと肩を落とす私である。
美青年に『面白い女だ』なんて言われるのは乙女にとっては垂涎のシチュエーションだ。
それなのにまったく嬉しくないし、ときめきもしない。
珍獣を見るようなニュアンスが、嫌というほどに伝わるからだろう。
否定できない自分が虚しい。
(え、なに。ひょっとして……リリィのかわりに私が逆ハールートに入りかけてない……?)
いやいや、まさか、そんなはずは……。
物思いに浸りながら、角を曲がる。そこで――。
「あっ」
「っ!」
ちょうど、向こうから来た生徒にぶつかりそうになった。
制服からして同級生の男子生徒。
慌てて身をかわそうとしするのだが――。
「うわああああああ!?」
相手の顔を見て、私は勢いよく飛びのいた。
ドタバタガッシャーーーーン!!!
「「はっ……!?」」
轟音にヨハネとリリィがぎょっとして振り返る。
一方、ヴァルは呆れたように、割れた窓から顔をのぞかせるのだ。
「……なにをやっているんだ、おまえは」
「あ、あはは……滑って転んじゃった」
「そんな動きではなかったと思うが……?」
植え込みにめりこんだ私を眺めて、彼は首をひねる。
飛びのいたときの勢いが強すぎて、ガラスをぶち破ってしまったのだ。
正直ここまでしなくてもよかったとは思う。
(でもねえ……相手が彼じゃ、仕方ないわよ)
今しがた私がぶつかりかけた相手もまた、割れた窓の向こうから私を見つめていた。
目を丸くしているのは、整った顔の青年。
肩まで届くサラサラの髪は金色で、きらめく瞳は澄んだ碧。
老若男女が王子様と認めるようなビジュアルだ。
いつぞやのアロイス先生の授業で、奇跡の果実について質問した彼である。
「ロザリア様!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「うん……ちょっとね……」
慌てて駆けつけてくるヨハネとリリィ。
そのあとを追うようにして、ヴァルもゆったりとした歩調でやって来る。
彼らに笑いかけながら、私はこっそりとため息をこぼす。
よりにもよって彼にぶつかりかけるなんて、ツいていないにもほどがある。
幸運値-999999は伊達じゃないわね。
(それにしても……秘密を一方的に知ってるって、やりにくいものねえ)
そこでちらりと割れた窓の方を見やる。
先ほど私がぶつかりかけた彼は、依然として窓からじっとこちらを見つめていた。
その目が帯びるのは、強い猜疑の光だ。
彼の名はクリス・エドワーズ。
貴族の名家出身で、今年度新入生の中でもトップクラスの成績を誇るクールな王子様キャラ。
女性嫌いで有名な彼もまた……ヨハネやヴァルたち同様、ゲーム中での攻略対象だった。
もちろん私は彼のルートも完全クリアした。
だからこそ、彼のことならなんでも知っている。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味や癖。
そして……誰にも打ち明けていない、重大な秘密でさえも。
二章はここまでになります。
ブクマや評価、まことにありがとうございました。三章は今回出てきたクリスがメインになります。もふもふ要素もあり。




