三十九話 暮れゆく学園の中で
そのまま四人でぞろぞろと図書館を後にした。
向かうのは学生寮の特S棟に併設されている食堂だ。
特S棟に暮らす生徒以外も利用できるため、完全部外者のヴァルを連れ込んでも、咎められる心配はない。
四人連れ立って、食堂までの廊下を歩く。
ガラス窓の向こうに広がる空は、だんだんと茜色に染まりはじめていた。
季節はもうすぐ春から夏に変わる。
この国の四季は地球の北半球と同じであるため、元日本人の私からするとなじみ深いものだ。
気候はどっちかというとカラッとしていて、ヨーロッパに近いけどね。
道中、ダンジョン探索や補習を終えた生徒たちとすれ違った。
彼らの顔はどれも明るく、放課後らしいゆったりとした空気が流れている。
その道すがら、ヴァルがそっと話しかけてきた。
「なあ、ロザリア。食堂とやらには、様々な種類の甘味があるらしい。おまえのおすすめはなんだ?」
「そうねえ、プリンなんかも美味しいわよ」
「なに、『ぷりん』か。興味深い名だ。是非とも食わせてほしい」
「はいはい」
キラキラと目を輝かせるヴァルに、私は苦笑するしかない。
「それにしても……最近はほんと頻繁にこっちに来るわよね」
「あの場所にいても退屈だからな」
ヴァルは軽く肩をすくめてみせる。
「でも、その姿だとかなり力が制限されるんでしょ」
「うむ。およそレベル50の人間と大差ない力だ」
「それでも十分強いんだけどねえ」
「くくく……今のおまえがそれを言うのか」
さも愉快げに肩を揺らしてから、彼は目を細めて私を見やる。
「おまえ、たったひとりで魔王を倒しただろう」
「……なんで知ってるわけ?」
「昨夜、我のいる百一階にやってきてから、百階に上っただろう。そのあとすぐ、轟音が聞こえてきたからな」
起こさないよう、そーっと歩いたのに……。
バレていたのが気まずくて私は黙り込んでしまうが、ヴァルはにやにやと続ける。
「どうだった、あやつは。我には劣るとはいえ、なかなかの力の持ち主だと思うのだが」
「……ワンパンだったわ」
「くっくっく……そうか、そうか。やはりな」
ますます肩を震わせて笑うヴァルだった。
しかし彼はすぐに目を細め、柔和に笑う。
「これまで、我は地上に出なかったのは、目的がなかったからだ。だが、今は違う。ここには、おまえがいる」
「……甘いものが目的なんじゃなかったの?」
「それもあるがな。我の正体を知ったうえで、臆せず接する人間は……おまえで二人目だ」
ヴァルが私を見る目は、とてもあたたかなものだ。
しかしそこに、かすかな寂しさがにじんでいるのを、私は見逃さなかった。
彼が言う『臆せず接する人間』とは、この学園の設立者のことだろう。
幾度となく死闘を繰り広げた彼らの間には、いつしか不思議な友情が芽生えていたらしい。
ゲーム中でも、彼はよくそんな話をしてくれた。
ヴァルは私に、懐かしい友人を重ねて見ている……のかもしれない。
しんみりしかける私だが、胸の中はツッコミでいっぱいだった。
(それもリリィに言うはずのイベント台詞なんだけどぉ!?)
バーゲンセールにもほどがある。
「い、いやいや……ほら。そういう台詞は私じゃなくてリリィの方に言いなさいな」
そこで、先を行くリリィを見やる。
ちょっと長くなったので分けます。続きは夜更新予定です。
評価やブクマ、ありがとうございます。誤字脱字報告も非常に助かっております。




