十話 超絶レアアイテムを増やしまくる
(そういえば……ヨハネはロザリアが死んだら、一番悲しんでくれるのよね……)
高飛車で、口を開けば嫌味か金持ち自慢。
気に入らない他人を蹴落とすことに何の躊躇のない、極悪令嬢ロザリア。
物語で悲惨な死を遂げるだけあって、彼女は非の打ち所のない悪役だった。
だがしかし、そんな女でもヨハネは毎回悲しんでくれていた。
ゲームをやっている間は「こんな女のどこがいいんだか」と呆れたものだが……自分のことを案じてくれる人がそばにいるというのは、これほど心強いものはない。
だから私は、彼に頭を下げるのだ。
「心配かけてごめんなさい。次からは気をつけるわ」
「は…………」
「うん? なによその反応は」
ぴしりと固まったヨハネに、私は小首をかしげてしまう。
すると彼はしどろもどろになりながら、途切れ途切れに言葉をつむいだ。
「い、いえ……ロザリア様が自らの非を認めて素直に謝るなど……お仕えしてきた十年の間、ただの一度もなかったものですから。少々驚いてしまいまして」
「言ってくれるなあ……あんまり否定はできないけど」
私は遠い目をしてぼやくしかない。
前世の記憶がよみがえったぶん、今までの自分がどれほどクソ女だったかがよーくわかるのだ。
穴があったら入りたいとはこのことだろう。
ヨハネは慌てて続ける。
「すみません。ロザリア様がお変わりになったというのに……僕も早く、生まれ変わったロザリア様に慣れるようにします!」
「まあ、ほどほどでいいわよ……それより寮に戻りましょ」
「そうですね、鐘もそろそろ鳴りますし」
ちらりと見上げるのは、校舎の頂上にある巨大な鐘だ。
下校を知らせるこの鐘は特別なもので、ダンジョンの奥まで届く。
これを頼りに、ダンジョンにもぐった生徒たちが戻ってくるのだ。
今は生徒がちらほら見えるだけだが、もうすぐここはダンジョン帰りの生徒でごった返すことだろう。
私はごほんと咳払いする。
「それじゃ、私はちょっと寄るところがあるから先に戻っててちょうだい」
「でしたら今度こそちゃんとお供いたします。どちらに向かうのでしょう」
「女子トイレだけど?」
「……失礼いたしました」
ヨハネは深々と頭を下げて、寮の方へと帰って行った。
それを見送って私はちいさくため息をこぼす。
「嘘ばっかついちゃうなあ……ちょっと罪悪感があるわよね」
とはいえこれからやることを、ヨハネに見られるわけにはいかない。
もっと言えば他の生徒にも、だ。
私は周囲をうかがいつつ、ダンジョン正面の噴水そばまでささっと移動する。
さいわい、あたりの生徒たちは話に夢中だった。
ダンジョンの何階に不思議なモンスターがいただの、レアな薬草を発見しただの。
ここで入手したアイテムは、学校が買い取ってくれることになっている。
それがそのまま小遣いとして手元に転がり込んでくるので、生徒によっては経験を積むことより、小銭を稼ぐこと優先でダンジョンに潜ったりもする。
そういうわけで、誰も私に注意なんて払っていなかった。
大きなリュックを地面に置いて、中身を取り出す。
先ほど手に入れたばかりの奇跡の果実は、どこにも傷がなくて綺麗なものだ。
イチゴのようなその実を、私はしげしげと見つめる。
「たしか、一個食べるとステータスが1上がるのよね……」
そして、ステータスの上限は999。
今の私のステータスが10前後なので、1上がったところで微々たるものだ。
劇的な変化は望めないだろう。
だがしかし――私にはこれがある。
「とりゃっ」
奇跡の果実を噴水に投げ込んで、架空のコントローラーを操作。
すると数秒後。ぱしゃっと音を立てて水面が揺れて、なにかが私の足下に転がってくる。
たった今投げ込んだばかりの、奇跡の果実だ。
それがやはりふたつに増えている。
無限増殖バグのおかげだ。
「よし、成功だわ! これなら……!」
私はそれを何度か繰り返した。
ふたつが四つに、四つが八つに、十六、三十二……。
やがて果実の数は大きなリュックを埋め尽くすほどになった。
「ふっふっふ……これだけあれば十分よね」
何のステータスが上がるのかは不明だが、強くなることに間違いはない。
強くなれば、ちょっとやそっとのモンスター相手にやられることはなくなりはず。
「これで死亡フラグとはおさらばよ!」
明るい未来を確信し、私はぐっとこぶしをにぎるのだった。
続きは7/5更新予定。
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