九話 裏ボスと友達になりました
(あらー……? なんでか気に入られちゃったっぽい?)
私は首をかしげるしかない。
主人公以外には心を許さないキャラクターだと思っていたのでちょっぴり意外だ。
そこでふと、この場所に来てそこそこの時間が経っていることに気付く。
「あっ、そろそろ帰らなきゃ。人を待たせてるの。それじゃお邪魔しま――」
【待て】
踵を返そうとした足がぴたりと止まる。
邪竜が私の襟首に爪をひっかけ、引き留めたからだ。
爪は私の身の丈をしのぐほど大きい。
もしも邪竜がその気になれば一瞬で頭から串刺しだろう。
さすがにこれには肝が冷えた。
しかしその動揺を悟らせるのが癪で、私はキッと邪竜をにらむ。
「な、なによ、戦わないって言ってるでしょ」
【そういうことではない】
邪竜はむすっとした声で告げる。
しかしそうかと思えば【あの】だの【その】だの、もじもじと言いよどみ、それから覚悟を決めたように盛大なため息をこぼしてみせた。
【……知っていると思うが、我はもう何百年もここにいる】
「……それで?」
【つまりだな……死ぬほど退屈しているのだ】
首が地面に接するほどにこうべを垂れ、邪竜はじっと私を見つめる。
威圧感などまるでない。
自身の爪より小さな私に、彼はどこか縋るような目を向ける。
【またここに来てくれぬものかな、ロザリアよ。戦わずともよい。ただ、我の話し相手になってほしい】
「はあ……」
ここに来たのは奇跡の果実を手に入れるためだ。
だから邪竜のお願い事に付き合う義理もないのだが――。
(知らない相手でもないしなあ……)
ゲームの中でともに冒険を繰り広げた相手だ。
彼の究極魔法は消費MPが多いかわりに絶大な威力で、雑魚散らしによくお世話になったものである。
まして、こんなふうに子犬のような目で見つめられては、突っぱねることは難しい。
私はしばし悩んだ末、ちいさくうなずいた。
「じゃあ、明日か……無理なら明後日来るわ」
【そうか!】
邪竜は声をはずませ、私を解放する。
巨大な隻眼の龍という迫力満点のビジュアルながら、目を細めて体をゆする様からは、あらん限りの喜びが伝わってくる。
(うん、やっぱりワンコ系よね……)
まるで散歩に行くと告げられた大型犬だ。
そんな私の心中などいざ知らず、邪竜はニコニコと続ける。
【ではまたな、ロザリア。次来るときは、できればその『いちごのショートケーキ』なるものも持ってきてくれ】
「はいはい。それじゃあね」
私はひらりと手を振って、また壁を抜けていく。
背後から邪竜の【なっ、消えた!?】という驚愕の声が響き、それが妙におもしろかった。
来たときと同じルートをたどれば、ものの数分でぱっと視界が開ける。
ダンジョンの入り口だ。
空はすこし茜色に染まりかけていて、あたりには生徒の姿がちらほら見える。
彼らは突然現れた私にすこし目を丸くするが、すぐに興味を失ったようで目をそらす。
ダンジョン脱出アイテムや、空間移動の魔法を使ったと思われたのだろう。
「ロザリア様!?」
そこで悲鳴のような声が背後から上がった。
見ればヨハネが真っ青な顔で駆け寄ってくる。
「いったいどこにいらしたのですか! 突然姿を消されたので、周辺を探していたんですよ!?」
「えーっと、ちょっとね」
ダンジョンの最下層に行って、邪竜と友達になってきました。
……なんて言っても、信じてもらえるはずがない。
私は苦笑をうかべ、頬をかく。
「ダンジョンの入り口に行ってみたんだけど、やっぱり怖くなって引き返してきちゃったの」
「そ、そうだったんですか……ですが、ご無事でなによりです」
「もう、大袈裟ね。すぐに帰るからって言ったじゃないの」
「そういうわけにはまいりません。僕はロザリア様の従者ですから」
堂々と言い切られると、さすがの私も言葉に詰まってしまう。
ヨハネの目は真剣で、よく見れば制服にはあちこち土がついていた。
私を探してあたりの植え込みを見て回ったのかもしれない。
また夜更新します。
当分は夕方と夜の一日二回更新。それ以降は一日一回更新にしようと思います。




