第58話 頼もしき現場リーダー
北領の街道沿いでは、さらなる敷地拡張と定期巡回に向け、テオ率いる自警団と作業隊が活気に満ちた声を響かせていた。
「おい、東側の側溝は落ち葉が溜まりやすい! 雨が降る前に清掃組を二班回してくれ!」
「テオ兄ちゃん、大型の馬車が入ってきたぞ! 駐車スペースに誘導する!」
「よし、第二待避所へ回せ! 歩行者の邪魔にならないよう、誘導表示を立てるのを忘れるなよ!」
かつてただ感情に任せて拳を握っていた少年は、今や数百人の領民と作業員を的確に動かす、立派な「現場リーダー」へと変貌を遂げていた。
その手際に感心しながら巡回していると、背後からルークが追いついてきた。彼の手には、本日の資材配置と要員計画の更新データが抱えられている。
「テオ殿の見事な指揮ですね。現場の滞留が即座に解消されています」
ルークが感嘆の吐息をもらすと、それに気づいたテオが汗を拭いながら駆け寄ってきた。
「おう、リーゼ、ルーク! 見回りか?」
「ええ。テオくんの手際があまりにも鮮やかだから、感心していたところよ」
私が微笑むと、テオは照れくさそうに首の後ろを掻いたが、すぐに表情を引き締めてルークに向き直った。
「なあ、ルーク。お前が朝イチで渡してくれた『時間帯別の交通量予測』、めちゃくちゃ役に立ったぜ。混雑する時間をあらかじめ把握できたから、事故も混乱もゼロだ」
「いえ、予測データをどれほど精密に作っても、現場で臨機応変に指示を出すテオ殿の判断力と行動力がなければ意味を成しません。……本当に頼もしいかぎりです」
ルークが真摯に頭を下げると、テオは一瞬驚いたように目を丸くした。
「……なんだよ、お前。昔はもっと小難しくて冷たい奴だと思ってたのにさ」
テオは苦笑交じりに肩をすくめ、力強くルークの肩を叩いた。
「正直に言うとよ、前はお前に嫉妬してたんだ。頭が良くて、リーゼの難解な話をすぐ理解して、隣でスマートに役に立ってるお前が羨ましかった。……けど、自分で現場を任されるようになって分かったよ。お前のデータがねえと、俺たちは安心して動けねえんだってな」
幼い対抗心を超え、自分の役割に誇りを持ったからこそ言える素直な言葉。
ルークもまた、眼鏡の位置を直し、まっすぐにテオの目を見返した。
「僕も同じです。机上の計算しかできなかった僕に、現場の汗と泥の重みを教えてくれたのはあなたです。現場を支えるテオ殿がいるからこそ、僕は安心して次の戦略を組み立てることができる」
「へへッ……なら、引き分けだな!」
テオが白い歯を見せて笑い、大きな右手を差し出した。
ルークも少しだけ驚いたあと、穏やかな笑みを浮かべてその手をしっかりと握り返す。
知性と分析で全体を支えるルーク。
情熱と実行力で現場を引っ張るテオ。
かつては互いに距離を置いていた二人が、互いの強みを認め合い、固い信頼で結ばれた瞬間だった。
「テオ殿。現場の安全管理はあなたに全面的にお任せします」
「おう! 任せとけ! お前はリーゼの頭脳として、最高の計画を作ってくれよな!」
二人の頼もしい背中を見つめながら、私の胸に深い満足感が広がる。
個々の才能が完璧に噛み合い、互いを高め合う強いチーム。
頼もしい仲間たちの成長とともに、北領の絆はどこまでも強固なものへと鍛え上げられていた。




