第23話 中和総力戦
地下水が抜けて二日後。天日干しされた大麦畑の土は、驚くほど軽やかで扱いやすい状態に変わっていた。
「さあ、ここからは第二段階よ。乾いた土を完全に中和するわ」
私の号令とともに、領民たちが一斉に動き出した。
今回のミッションは、広大な畑全域への木灰散布。家庭菜園の何十倍もの面積を前に、大人たちは「さすがにこれだけの広さに灰を均等に撒くのは骨が折れるな……」と、その広大さに圧倒されかけていた。
だが、ここで動いたのはテオたち子供のチームだった。
「おじさんたち、焦らなくていいよ! ここからは俺たちのマニュアルの出番だ!」
テオが大きく羊皮紙を広げ、大人の農夫たちをテキパキと整列させていく。
子供たちが掲げたのは、私が作成した『大畑専用・グリッド散布マップ』。広大な大麦畑を縄でいくつかの区画に区切り、どこに何杯分の灰を撒けばいいかを最適化したビジュアル指示書だ。
「第一区画は三人で大八車一台分! 端から順番に撒いていって! 撒き終わったら、次の班がすぐに鍬で耕すんだ!」
「なるほど、これなら迷わねえな。おい、俺たちはあっちのエリアだ!」
大人たちは子供たちの的確な指示に感心しながら、次々と灰の詰まった袋を担いで畑へと散っていった。
前世でもそうだった。巨大な案件ほど、細かくブレイクダウンして組織の連携を噛み合わせれば、個人の負担は激減する。ただの力仕事が、完璧にシステム化されたライン作業へと変わっていく。
「素晴らしいマネジメントですね、リーゼロッテ様」
アルフレッドさんが、灰で白く染まっていく大地を見渡しながら呟いた。
「テオくんたちの現場リーダーとしての素質が活きているわ。感覚に頼らず、仕組みで動かす。これが私の目指す効率化よ」
風に乗って、白い灰が大地を包み込んでいく。
「最適化」魔法で確認するまでもない。领民たちの流れるような連携によって、大量の木灰は予定の半分の期間で、一分のムラもなく広大な荒野へと行き渡っていった。
「よし、土壌中和は完全クリアね」
夕暮れ時、白から薄茶色へと耕し直された美しい大地を見つめ、私は満足げに頷いた。
冬のデスマーチを乗り越えるための下準備は、これで全て整った。
しかし、完璧に見えたプロジェクトの裏で、私たちの成功を快く思わない黒い影が、すぐそこまで忍び寄っていることに、この時の私はまだ気づいていなかった。




