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「お前は口減らしだ」と婚約破棄された私が、前世の知識で領地を最適化したら、なぜか全員に溺愛されています  作者: 秦江湖


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第1話 口減らし令嬢は、すべてを諦めない

「リーゼロッテ。お前との婚約を破棄する」


きらびやかなシャンデリアが輝く王宮の舞踏会。

その中央で、王太子カイウス殿下は冷ややかに言い放った。


私は手に持っていたジュースのグラスを静かに引いた。

周囲の貴族たちが一斉にこちらを見る。ひそひそという囁き声が、さざ波のように広がっていく。


「殿下、理由をお伺いしても?」


「お前は魔力も低く、病弱だ。辺境伯家の四女とはいえ、我が国の王妃としての務めを果たせるとは到底思えない。率直に言おう。お前はただの、我が家の口減らしだ」


口減らし。

その言葉に、背後に控えていた公爵令嬢セレスティナが、扇子で口元を隠しながらくすくすと笑った。


(……ああ、やっぱりね)


私は心の中でため息をついた。

実は数日前、ひどい高熱を出した拍子に、前世の記憶を思い出していた。

前世の私は、日本の中堅企業でひたすら業務改善と経理に追われ、最終的に過労死した二十八歳の社畜OLだ。

そして今世の私は、辺境伯家の末娘リーゼロッテ。


いつかこうなることは、前世の記憶が戻った時点で予測がついていた。


「承知いたしました、カイウス殿下」


私が淡々と頭を下げると、カイウス殿下はわずかに眉をひそめた。


「……取り乱さないのだな。少しは悔しがるかと思ったが」


「悔しいですよ。でも、殿下が私を必要としておられないのは事実です。無理にこの場に留まるより、早い方がお互いのためですから」


「ふん、強がりを。まあいい、すぐにでも王都を去るがいい」


カイウスから冷酷な言葉を投げつけられ、周囲の貴族たちから嘲笑を浴びる中、私は一切動じることなくドレスの裾を払って立ち上がる。


ドアに手をかけ、振り返ることなく、ただ静かに、けれど部屋の温度を凍りつかせるような声で告げた。


「――わかりました、殿下。ですが、私を切り捨てた損失コスト、いずれきっちり計算させてあげるわ」


鼻で笑うカイウスを背に、私は優雅にその場を後にした。



華やかな会場を抜け、静かな渡り廊下へと出る。夜風が火照った肌に心地いい。


しかし、そこで私の足は止まった。

影から現れたのは、見覚えのある厳格な顔つきの男――私の実父、アルトハイム辺境伯だった。


「お前という奴は、どこまで我が家の泥を塗れば気が済むのだ」


父は吐き捨てるように言った。


「カイウス殿下からたった今、婚約破棄の通達をいただいた。お前のような無駄飯食いを王都に置いておく余裕は我が家にはない。今すぐ北の最果て、誰も行きたがらない荒廃した直轄領へ行け。そこで一生、大人しく使用人として働き、家の口減らしになれ」


「……わかりました」


私が表情を変えずに答えると、父は「不気味な娘だ」とでも言いたげに顔を歪め、そのまま私を置き去りにして会場へと戻っていった。


「リーゼ!」


父の姿が見えなくなった直後、強い足音が響いた。

駆けつけてきたのは、幼馴染の騎士レオンハルトだった。息を切らし、翠の瞳を怒りと悔しさで激しく揺らしている。


「レオン。どうしたの?」


「どうしたの、じゃねえよ! 物陰から見てたんだ。殿下だけじゃない、お前の実家の連中まで……あんなのあんまりだ! リーゼ、お前をなんだと思っているんだ!」


レオンはきつく拳を握りしめ、声を震わせた。

彼は、実家で孤立していた私を、昔から唯一気にかけてくれていた大切な幼馴染だ。


「いいのよ、レオン。むしろ、はっきり言ってくれてすっきりしたわ」


「すっきりって……これからどうするんだよ。あそこは冬が厳しくて、まともに作物も育たない僻地だぞ!?」


「だから行くの。あそこなら、私の目が届く。私ね、決めたの。誰にも必要されない口減らしなら、自分の生きる場所くらい、自分の手で変えてみせるわ」


「リーゼ……」


レオンはなおも引き留めたそうな顔をしたが、私の目を見て、最後は小さく息を吐いた。


「わかった。すぐに北行きの馬車の手配をしてくる。……絶対、無理だけはするなよ」


レオンが駆け足で廊下の向こうへ消えていく。


一人になった私は、そっと目を閉じ、頭の中で「自分の体」を強くイメージした。

高熱を出したあの日から、私の視界には奇妙な変化が起きている。


暗闇の中に、薄い水色の文字がふわりと浮かび上がった。


【対象:リーゼロッテ・フォン・アルトハイム】

【状態:軽度の栄養失調、慢性的な体力不足】

【魔力:極小(分析・可視化系統)】

【最適化プラン:規則正しい食事、および適度な休息による基礎代謝の向上。必要魔力量:――】


これが、私の目覚めさせた魔法「最適化オプティマイゼーション」。

対象を分析し、「どこがどう悪いのか」「どう直せばいいのか」をデータとして可視化する力だ。


(経理と業務改善のスキルが魔法になったようなものね。これがあれば勝てる)


痩せた土地、疫病、赤字物件――上等じゃない。

私を見限った人たちには、せいぜい王都のぬるま湯に浸かっていてもらおう。

この異世界デスプロジェクト、私が意地でも黒字化させてみせるわ。

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