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視界の端
昼休み前。
小さな確認のために、
彼女が同僚の男性に声をかける。
業務の延長にある、
ごく普通の会話。
資料の話。
進行の相談。
相手が冗談を言い、
彼女が少し笑う。
それだけの、
ありふれた光景。
――けれど。
少し離れた席から、
彼はそれを見ていた。
偶然、
視界に入っただけ。
気にする理由はない。
そのはずなのに。
胸の奥で、
何かが引っかかる。
説明できない、
わずかな違和感。
視線を戻そうとして、
戻せない。
彼女が笑う。
自分に向けられたものではない笑顔。
その瞬間。
胸の奥が、
静かに沈んだ。
痛い、というほどではない。
苦しい、でもない。
けれど確かに、
さっきまでとは違う。
そこで初めて、
息が浅くなる。
近づきすぎた。
そんな言葉が浮かぶ。
何も始まっていないのに。
胸のざわめきを、
押し込める。
――やはり、だめだ。
ここから先に進めば、
もっと面倒になる。
視線を落とす。
それで終わるはずだった。
けれど。
もう一度、
見てしまう。
彼女の笑顔。
その柔らかさは、
自分だけのものではない。
胸の奥が、
もう一度揺れた。
小さく。
けれど、
無視できないほどに。
彼は眉をわずかに寄せる。
理由を考えないまま、
資料に視線を落とした。
それでも――
消えなかった。




