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突然の来客

数日後。


昼休みが始まる少し前。


会社の受付から内線が入る。


「来客です。」


彼女は首をかしげる。


約束はない。


「どちら様ですか?」


少し間があく。


受付が言う。


「……お母様だそうです。」


一瞬、思考が止まる。


でも、考えられることはひとつしかなかった。




会社のロビー。


母はソファに座っていた。


きちんとした服。


落ち着いた表情。


まるで普通の来客のように。



「突然ごめんなさいね。」


母は微笑む。


「少しだけ話せないかしら。」


彼女は一瞬だけ考える。


会社の中では話せない。


「近くにカフェがあります。」


それだけ言う。




カフェ。


平日の昼下がり。


ここのカフェはいつも人は少ない。


コーヒーを頼んで向かい合って座る。


品定めするかのような視線。


どこか敵意も感じる。


彼女は動じないふりを続ける。


弱さを出せば飲みこまれてしまう。


店員がコーヒーを持ってくる。


母は上品にお礼言い、

静かな笑顔作る。


その笑顔のまま彼女をまっすぐ見る。


母はすぐ本題に入る。


「同棲するんですって?」


遠回しはない。


「はい。」


彼女は短く答える。


母は少し笑う。


「あなた、しっかりしてるものね。」


コーヒーを一口飲む。


そして続ける。


「うちの息子を引っ張るのは楽でしょう?」


柔らかい声。


でも意味ははっきりしている。


彼女は静かにカップを置く。


「彼と一緒に決めました。」


母はすぐ返す。


「でも、あの子は昔から流されやすいの。」


軽く肩をすくめる。


「あなたみたいに強い人が相手だと、余計にね。」



その言葉を聞いて

彼女はスマートフォンを手に取る。


テーブルの下で、短く打つ。


「今、会社近くのカフェでお母さんと話してる。」


店の名前を添えて送信。



母は続ける。


「あなたは悪い人じゃないと思うの。」


少し首を傾ける。


「でもね。」


そしてまた静かな笑顔作る。


「うちの子には、少し強すぎるんじゃないかしら。」




その時。


店のドアが開く音がした。


彼だった--


息が少し上がっている。


店内を見回す。


そして二人を見つける。


「……母さん。」


彼の声は低い。



母は驚かない。


むしろ少し笑う。


「早いわね。」


彼は彼女を見る。


彼女は何も言わない。


でも視線だけで伝える。


“今の会話”。


彼は理解する。


椅子を引いて座る。


母の向かい。


「何の話?」


静かに聞く。


母が答える。


「あなたの同棲の話よ。」


そしてさらっと言う。


「本当に大丈夫なの?」


彼を見る。


「流されて決めてしまったんでしょう?」


少しの沈黙。


彼は母を見る。


ゆっくり言う。



「それは違う。」



母の表情が止まる。



「俺が決めた。」



視線を逸らさない。



「彼女のせいにしないで。」



母が眉を上げる。


「私はそんな――」


彼は続ける。


「彼女にそういう言い方するなら。」


一呼吸。



「俺が許さない。」



カフェの空気が静まる。


彼ははっきり言う。


「この人と住むのは、俺が決めた。」


母はしばらく何も言わない。


そしてゆっくり立ち上がる。


「……そう。」


バッグを持つ。



帰り際。


少しだけ振り向く。


「随分強くなったのね。」


視線は彼女へ。


「彼女のおかげかしら。」


嫌味を残して。


母は店を出ていく。




沈黙。


彼は深く息を吐く。


「はぁ……。」


彼女が聞く。


「大丈夫?」


彼は苦笑する。


「うん。」


そして言う。


「今度は、ちゃんと間に合った。」


彼女は少し首をかしげる。


彼は言う。


「前は守れなかったから。」



彼女は何も言わない。


ただ、ゆっくり頷く。



少しの沈黙。


彼女が言う。


「ありがとう。」



彼は首を振る。


少し照れながら。



「一緒に立つんだろ?」


彼女は、笑った。



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