第36話 甘えん坊
「見てください!金魚3匹も取れましたよ!」
結姫は意気揚々とバケツの中身を見せくる。
「おぉ、すごいな。飼うのか?」
「いえ、持ち帰っても水槽がないのでこの子達はお返しします」
そう言って少し残念そうな表情を浮かべた。
「そっか」
金魚とバケツとポイを店員さんに返してその場を後にした。
「次はチョコバナナ食べたいです!」
「おぉ、いいなチョコバナナ」
ちょうど俺も食べたいなって思ってたところだ。
「俺も食べたいからまとめて買ってくるわ」
「え?でもお金は…」
「いいっていいって」
「それでも…」
やっぱり結姫は根から良い奴なんだよな。
高木なら奢るって言ったら一瞬の間も無く「お言葉に甘えて」って言うのに。
まぁ高木は高木で例外かもな…。
「あのさ、今の結姫にこんなこと言うのはちょっと酷なのかもしれないけどさ…」
「大丈夫ですよ」
「俺は前までの結姫に沢山お世話になってたんだ。だからさ、たくさんお世話になってたからこそこういうところだけでも感謝の気持ちを伝えたいなって思って」
「でもそれは今の私じゃないですよ……」
「今とか昔とか関係ないんだ、俺は夢咲結姫という1人の女の子に感謝してるんだから」
「そう、なんですね……。そういうことならおとなしくお気持ち貰っておきますね!」
少しだけ寂しげな表情を浮かべた気がするのは気のせいだろうか。
結姫が傷つく姿なんてもう見たくないと言ったのは自分なのに、自分のはずなのにいつのまにか彼女を1番傷つけてしまっていたのは俺なのかもしれない。
「ごめんな」
「なんで謝るんですか、乃亜くんは何も悪くありませんよ!ほら、買いに行きますよ」
あぁ、そうだったな。
結姫はこういう子だった。
周りからは氷姫だとか難攻不落だとか言われていて無愛想だとか言われたりすることもあるけど本当はそんなことなんて微塵もなくて。
ただただ結姫は優しい1人の女の子なんだ。
周りと何一つ変わらないただの女の子なんだ。
少し周りと比べてルックスが整っているからという理由だけで高い理想を押し付けられ、その理想に応えられなくなった瞬間周りからは怠惰だとか傲慢だとか嫉妬侮蔑の視線を向けられる。
そんな彼女のことを心の底から理解したことが俺に一度でもあっただろうか?
彼女の深い心の中を見ることが俺にはできただろうか?
否、今までの俺にはできていなかった。
彼女をしっかりと見てあげれていなかったのだ。
だからこそ俺は謝らなきゃいけない人間なんだよ。
でも結姫は謝ることを逆に嫌がるだろう。
俺の自己満足のためではなく、結姫のために俺は前を向かなきゃいけないんだ。
「あぁ、買いに行くか」
そう言って結姫に手を引かれながらチョコバナナ売り場へと足を運ぶ。
少し重い気持ちも甘いものを食べれば晴れるのではないか、そんな浅はかで甘い気持ちを抱えながら。
「チョコバナナ2本お願いします」
「はい毎度!」
2本頼むと店主は元気よく返事をした。
はちまきをつけて白タンクトップ姿の店主はやる気にみなぎっているように見えた。
「300円ね」
「はい、お願いします」
そう言って硬貨3枚を手渡した。
「はい丁度いただきます!どうぞ!」
「ありがとうございます」
元気いっぱいな店主からチョコバナナ2本をきっちりと受け取った。
そして結姫の方を見ると……
「なんだその顔は」
「んー!」
そんなに口を開けてこっちを見られても言葉にしなきゃわかんないんだがな。
……わかるけど。
時々結姫は甘えん坊になる時があるよな。
でもこうなったら結姫は意地でも引き下がんないんだよなぁ。
「??」
そこで俺はあえて気づいていないふりをしてみた。
そして当たり前のようにすぐに結姫の頬が膨らんだ。
「む〜!言わなくても察して下さいよ!」
「と言われてもなぁ?」
ここまでくると揶揄ってるのがバレたのか結姫の顔には不満が露わになっていた。
「言葉にしないとわかんないなぁ」
「こ…言葉ですか…?」
「あぁ、言葉だな」
ここまできたら最後までからかい通したくなるのが俺の性である。
はは、なんて意地の悪い性なんだ。
自分で自分の思ったことに苦笑する。
「あ、の………」
「なんだ?」
「あーん、して下さい……?」
上目遣い、赤面、浴衣、夜、疑問系で不安な感じ…………うん!完璧!!
って、何言ってんだか俺。
これが脳内ノリツッコミってやつか。
「分かったよ、ほら、あ〜ん」
「あ〜……」
「と見せかけてあげない!」
「!?」
「ははっ、冗談だよ。結姫は面白い反応するなぁ」
「もう!私で遊ばないでくださいよぉ」
「ごめんごめん、ほら、あーん」
と言ってチョコバナナを差し出すとその先っぽに結姫ははむっとかぶりついた。
思った以上に小さかった一口に俺はなんとなく小動物を頭の中に連想させた。
「なんか結姫って子犬みたいだよな」
「それって褒めてます!?」
と言ってぷんすかと怒る結姫の頭には可愛らしいゆらゆらとゆれる子犬の耳が生えているように見えた。
まぁ実際にはないんだけどね。
そのくらい小動物らしさ満天なのだ。
「褒めてるって、ほらもう一口あーん」
「ん〜、ん!んいひい!!」
今度はさっきと違って大きく口を開けて食べていた。
「美味しいのは分かったから落ち着いて食べなさい、喉詰まるでしょ」
なんか俺お母さんみたいになってるな。
結姫が子供みたいだからなのか?
それにしても結姫のこんな子供心丸出しな姿初めて見た気がするな。
まぁそれもそれで可愛すぎるから良いんだけどね。
「ラスト二口くらいかな」
「あとは自分で食べますよ」
「おぉ、そうか」
なんか気まぐれだな。
まぁそんなとこも可愛いけど。
「はぁ、美味しかったです!」
「それは良かった」
確かに美味しかった。
久しぶりにチョコバナナなんて食べたけど久しぶりに食べると美味しいもんだな。
「次は乃亜くんの行きたいところに行きたいです!」
「俺の?」
「はい!ずっと私が振り回してばかりでしたので」
そうか、そうだったな。
でもいざそう聞かれると行きたいところってのも無いのかもなぁ。
「あ、そうだ。俺射的得意なんだよね」
「射的?」
「うん、結構昔から極めててさ」
「へぇ、では行ってみますか」
「え、ほんと?」
「ほんとですよ!行きましょう」
正直今日は自分のしたいことなどするつもりは無かったしそもそも特段したいこととか食べたいものとかは無かったのだけど結姫がここまで乗り気なら行くのもありかもな。
思い出もたくさん作りたいしな。
「そうだな、行くか」
そうして俺たちはチョコバナナ屋さんから移動することにした。




