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「難攻不落の氷姫」と呼ばれる他校の美少女に傘を渡したらなぜか養ってもらうことになった  作者: 星宮 亜玖愛


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第28話 夢咲結姫side II

「なんですか?」


 私は今話しかけてくれているこの男の子がのあくんだということはわかっている。


 それでも私は気付かないふりをして返事をする。


「傘、ないんですよね」


「まぁ、そうですけど……」


 私はあえて警戒心を緩めなかった。


 だってそうしないと私が私だとバレてしまうかもしれないから。


「もし良かったらこれ使ってください」


 そう言って彼は右手に持っていた折り畳み傘を私に差し出した。


「もしあれだったら捨てても構わないので」


「え、でもそしたらあなたは…」


「俺は大丈夫です、なんていうか雨に当たりたい気分?だったので!」


 それでは、と言って彼はその場を逃げるように雨の中に飛び込んでいった。


 それはあまりにも酷い言い訳だった。


 でもそれが彼なりの優しさだとは知っていた。


 だってかつて一緒に過ごしたたった1人の大切な人だから。


 でも今彼はどうせもう関わることは無いのだ、とでも思っているかもしれない。


 でも私は神様がくれた千載一遇の蜘蛛の糸のようなチャンスを絶対に見逃さない。


 のあくん、覚悟しててよね。


♢♢♢


 それからののあくんとの日々はものすごく楽しいものだった。


 次の日に駅前でのあくんの帰りを待って、傘を返すという理由でのあくんに近づいて、お礼と言う口実でのあくんと出かけることも出来た。


 そうやってあたかものあくんの弱みにつけ込んでいくかのように彼に近づいていった。


 自分のことながら思う、やっぱり私は性格が良くないと。


 例えば釈迦やキリストなどはそういった部分は人にあってしょうがないもの、と慰めてくれるかもしれない。


 でも私はそうは思わない。


 自分自身の黒い部分に唆されて、その黒い部分の言う通りに動いてしまった自分を恨んで。


 そうやって負の繰り返しが起こっていく。


 でもそうやって私の気が落ち込みそうな時は決まって彼が慰めてくれた。


 いや、彼は慰めてるつもりは無いのかもしれない。


 でもその何気なさが私には暖かくて、嬉しかった。


 自分の弱さに打ちのめされそうになった時も、ソファーで隣に座っている乃亜くんの体に私の体重を預けてみたり、少し甘えてみるといつも彼はそれを受け入れてくれた。


 私は彼の優しさに甘えていることは十分に分かっていた。


 でも、それでも私はそれを辞めることは出来なかった。


 ある時、乃亜くんの事が好きな女の子が現れた。


 その子はとても可愛くて彼女に乃亜くんを取られるのではないかと思い気が気じゃなかった。


 それでも乃亜くんはその子を選ばなかった。


 きっと過去の私にまだ恋焦がれているから。


 過去の私は乃亜くんには煌めいて見えたのかもしれない。


 だからこそ乃亜くんが恋しているのは"過去の私"で"今の私"ではない。


 だから頑張らなければいけない、乃亜くんが過去()じゃなくて()を好きになってもらうために。


 でもそれはやっぱり無理かもしれない。


 本当の私を知ってしまったら乃亜くんはきっと幻滅してしまうだろう。


 きっとたとえ乃亜くんと結ばれたとしてもいつかは本当の私に気づいて私から離れていってしまう。


 そんなことなど容易に想像できる。


 でも、それでも私は乃亜くんを諦めきれなかった。


 ある時母に言われた言葉がある。


「初めて会う人と年上の人とは敬語で話しなさい」


 ごくごく普通の当たり前のことだった。


 私はそれを律儀にやって初対面の人には必ず敬語で接していた。


 そうして仲良くなれば敬語を取り外して話した。


 でも乃亜くんと話す時はそうはいかなかった。


 なぜなら男の子と話すこと自体ほぼなかったから。


 またまた近くに引っ越してきた乃亜くんと社交辞令的に敬語で話した。


 それ以降も接点はあって、よく遊ぶ仲になった。


 それでもどうしても敬語だけは抜けなかった。


 どうしてだろうか自分でもわからない。


 でもその時敬語で話していたのは乃亜くんだけだった。


 ある時私が引っ越すことになった。


 その時乃亜くんとはちょっとしたわだかまりがあった。


 だから乃亜くんは私の旅立ちのときにお見送りにはきてくれなかった。


 その状況に私は怒るでも悲しむでもなくただただホッとしていた。


 今の弱い自分をのあくんに見られなくて済む、と。


 でもそんな気持ちも数日経てばすぐに寂しさへと変わっていった。


 のあくんに会いたい、話したい、触れたい……!!


 そんな感情が胸の中で渦巻いていった。


 でもどんなに祈っても乃亜くんには会えなかった。


 せめて乃亜くんとまた再会したときに気づいてもらえるように、と乃亜くんと話してる時だけは抜けなかった敬語をずっと使うようになった。


 でもそんなもので乃亜くんが気づくわけもなかった。


 私だって変わってしまったとこは沢山あるのだ。


 乃亜くんが気づかないのも仕方ない。


 でも、それでも寂しかった、悲しかった。


 私を私だと気づいてもらえなくて辛かった。


 だから私はもう過去にこだわるのをやめた。


 過去の私より今の私を好きになって貰えばそれでいい、そう思っていた。


 でも今の私に過去の私に勝てるものなんて何一つなかった。


 乃亜くんが見ているのは過去、つまりは私の幻影だった。


 でもたとえ無理だとわかっても諦めることはできなかった。


 乃亜くんの優しさに、かっこよさに落ちていくだけだった。


 今日だってそうだ、人混みだからって差し伸べてくれた手を掴んだだけで胸が高まって仕方がなかった。


 そんなことをしてくれる乃亜くんはもう私のことを好きなのじゃないかと思わせた。


 でもそんなことなんてなかった。


 中野俊介(過去の存在)がそれを思い出させてくれた。


 それと同時に私を地獄に再び引き戻そうとした。


 いや、引き戻したという表現の方が正しい。


 あの朱美さんからはずっといじめを受けてきていた。


 でもそんなもの今まで耐えてこれた。


 でも今日だけは朱美さんの様子が違った。


 夜7時に夜の街の裏路地に呼び出された。


 いつもは直接は手を出さなかったのに…


 男の人も連れてきて、殴られて、蹴られて。


 何で自分がこんな目に遭わなきゃいけないのかどうしても理解できなかった。


 もう何も考えることもできなかった。


 

 痛い…痛い痛い、辛いよ、苦しいよ………、どうして、どうしてなの…、何で私じゃなきゃダメなの?こんな痛いの嫌だよ、苦しいよ、心が…心がズキズキする…










 

 痛い、痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい痛い辛い苦しい…………………




























 助けて……乃亜くん…………






















 その時、遠くから足音がした。


 その足音は誰よりもカッコよくて、誰よりも優しい音がした。





「大丈夫かっ!結姫っ!!!」

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