第19話
執務室の前に立ち、扉をノックする。
・・・よく考えたら、お父様、今お仕事中じゃない!?
今更ながらそれに気づいて慌てる私に対して、執務室の中からはいつも通りのお父様の声が響いてきた。
「入りなさい。」
いつもよりもちょっとだけ低い声が中から響く。
私はそっとドアノブを回し、扉の隙間からひょこりと顔を出した。
「お父様、忙しいですか?」
「ん?セレナか。少しなら、大丈夫だよ。」
ペンを机に置いて、少し驚いたようにこちらを見るお父様。
私はそっと扉を押して部屋の中に入った。
「どうしたんだい?」
「あのね、王族って私たちよりもしんどいのかなって思って。」
「どうして、そんなことを思ったんだい?」
お父様は優しく続きを促す。
私は少しほっとしながら続けた。
「今日、リュシアン先生の話を聞いたの。私たちは高位貴族だから、味方の顔をした敵が多い、って。」
「それは、リュシアン殿が言っていたのか?」
お父様が言葉を発した瞬間、部屋の空気が少し、重くなる。
お父様、ちょっと怒ってる気がする・・・。
私はそれに負けないように明るい声を出した。
「ううん!私が先生のお話から、たぶんこうだろうなって考えたことだよ!」
「そうなのか。セレナは賢いな。」
重い空気が霧散し、お父様の顔に笑みが戻る。
お父様に促され、私は続きを口にした。
「それならね、私たちよりもずっと高い所にいる王族の方々は、誰を信じたらいいのか、わからなくなっちゃいそうだなって。」
「確かに、そうだな。」
さすがお父様!
私の考えてることの理解が早い!
「だからね、私、ちょっと前に政治の授業で教えてもらった、王位継承権の派閥について詳しく調べてみたの!」
「ほう。」
そこまで聞いて、お父様の目が少し真剣みを帯びる。
「第一王子派はね、味方がいっぱいいるの。派閥の事業には絶対に第一王子殿下の名前が載ってる。でも、時々失敗したりしてたんだよ。」
お父様はどこか考え込むようにうなずく。
・・・とりあえず、言いたいこと言っちゃお。
「第二王子派はね、なんだか、ばらばらだったんだ。事業には名前が載ってない。」
そこで一拍置き、どうしても気になっていたことを問いかけた。
「お父様なら、どっちにつきたい?」
お父様は少し考えるそぶりをして、下を向いていた視線を私に向けた。
「それなら、第二王子派、だろうか。」
「なんで?」
「後ろ盾がいないからだね。これから何が起きるかわからない。」
やっぱりそうだよね!
お父様なら絶対そうだと思った!
私は目を輝かせながら、少し身を乗り出す。
「やっぱり、お父様もそう思う?」
「セレナもなのか?」
「うん!だって、『これから強くなろうとしている人』を見捨てたくなんかないもん!」
・・・第二王子派を推しまくってたら、お父様がそっちの派閥についてくれるかもだからね!
とはいえ、本音が大部分を占めているその言葉に、お父様の表情が揺れる。
「それじゃあね、お父様!お仕事頑張って!」
私はそのまま踵を返し、扉を閉める前に手を振ってから自分の部屋に戻ったのだった。
♢♢♢
「第二王子派、か・・・。」
執務室の中にエドガーの呟きが漏れる。
その声には娘の成長に対する喜びと、何かを決心するような色が滲んでいた。
決断が速すぎるおとーさま




