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超楽しみにしてたロボゲーが、地球に戻る前にサ終したので、過去に戻ってやり直す!  作者: 弓屋 晶都


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第9話

アサギが彼女の話をするのに、やたらと申し訳なさそうだった理由は、彼女に会って5秒で分かった。


練習場にログインした俺を見て、アサギの彼女は「こんにちは」「初めまして」でもなく「お前は、リボルバーが好きか」と尋ねた。


なんなんだこの威圧感は……ボス級の圧を発するこいつが、本当にアサギの彼女なのか?

女性にしてはかなり低い声だし、アサギが俺に友達だって紹介してたら、女性だとは思わなかっただろうな。

ん……? この声……なんか聞き覚えが……。


アサギが慌てて「初対面の人にはまず挨拶しようよ」と彼女に注意しているが、彼女の機体は仁王立ちのまま微動だにせず俺を見据えている。


俺はひとまず正直に「大好きだ」と答えた。


「……理由は?」


理由まで聞くのかよ。

「メカニックなら、リボルバーのシンプルで壊れにくく信頼性が高い仕様に好感を持たないやつはいないだろ」


「ほう、お前はメカニックなのか。ククク……よく分かってるじゃないか」


「ちょっと夏鈴、いきなり失礼な態度取らないでくれよ。クマさんすみません、後でよく言っておきますから……」

「夏鈴じゃない! 我が名はリボルバーだ!」


リボルバー……?

俺は彼女さんのプレイヤーネームを確認する。

そこには確かに『リボルバー』と書かれていた。

ロボワのプレイヤーネームには重複チェックがあり、ダブりはない。


ってことは……。


「我が! 我こそが! リボルバーそのものなのだ!」

「ああ分かった分かった! 呼び間違えた僕が悪かったよ!」

アサギが慌てて宥めようとしている。


じゃあ、このなんだかヤバそうな子が、本当にあのPvP不動の一位を誇る圧倒的早撃ちの強者、リボルバーなのか……!?


「分かってない! この男はともかく、お前は全然分かってないぞ! まず、シリンダーのロックアップ精度、この精密なる嵌合こそ、発射ガスの漏洩を最小限に抑え、バレルとシリンダーのアライメントを完璧に成す。これぞ、機構美の極致。シリンダーギャップの最適化、ラッチの確実なる噛み合わせ、これらが一体となり、撃発の瞬間に絶対の信頼性をもたらすのだ! さらにシングルアクションとダブルアクション、そのトリガープルの差異を知る者のみが、真の操作性を語る資格を持つ。ハンマースパーの形状ひとつで、撃ち手の意志は鋭く銃へと伝わる。センターピン、エジェクターロッドの滑らかなる動作、スピードローダーを用いた迅速なる再装填、これぞ様式美の極み! さらにはオープントップフレームとクローズドフレーム、その剛性の違いを――」

「わああああ分かった! その話は後で僕がたっぷり聞くから! まずはクマさんにちゃんと紹介させてくれよ!」


まだいくらでも話し続けそうな彼女さん……リボルバーを、アサギが何とか抑える。

あー……なんか分かってきたぞ。

アサギが初対面から高笑いを上げるゼンにドン引きする事なく話を続けてきたのは、慣れてたからか。こういうテンションの奴に。


「すみません、クマさん。改めまして、こちらは僕の彼女のリボルバーです……」

疲れの滲んだアサギの声に合わせて、リボルバーの機体が小さく頭を下げる。

「リボルバー、こちらはクマさん。俺たちのためにわざわざ時間を作ってくれたんだから、失礼のないようにしてくれよ……?」

「……善処する」

リボルバーの答えに、アサギの機体が頭を抱える。

俺は、バクバクうるさい心臓に気づかれないように笑って答えた。

「ハハ、よろしく頼むよ」


リボルバーのPvP動画は、船の中で何度も繰り返し見た。

100発100中と言っていいほどの、ものすごい精度の射撃。

あんなの、憧れるなという方が無理だ。

リボルバーがPvP一位の座を不動の物としたのはいつ頃からだっただろうか。


確かリボルバー武器がロボワに初めて実装されたタイミング……だから0.5周年からか。

やっぱこだわりの武器なだけあって、リボルバーが扱う武器はリボルバー一択だったからな。


そんなリボルバーだが、ある時突然ランキングから姿を消してしまうんだよな。

徐々に順位が落ちたとかじゃなく、突然。

そういうところもまた、伝説的でかっこいいんだよ。


そんな憧れの凄腕プレイヤーのプレイを、こんな間近でみられるなんて、夢みたいだ!



***


…………そんな俺の浮かれた気持ちを、しっかり沈めてくれるほどには、下水ステージは狭くて暗くて果てしなく広かった。


狭い通路を延々歩いて、もう2時間は過ぎただろうか。

「夏……リボルバー、一回休憩にしようか?」

アサギの提案に、リボルバーは答えない。

ガリガリガリガリと聞こえ続けている音は、先頭をいくリボルバーが片手で壁を削っている音だ。


2人は金曜にこの迷宮を外壁に沿って一周してきたらしいが、3時間以上かけてようやく辿り着いたのはスタート地点だったそうだ。

となると、この迷宮は内側に外周とは分離した壁があるんだろうな。

ゴールがあるとすればそこだ。


キキィッと金属の擦れるような音を立ててネズミロボが飛び出してくるが、次の瞬間にはリボルバーに撃ち落とされて爆散した。


うーん……、早すぎる。

通路が狭くて3人が一列になってるせいで、先頭のリボルバーの射撃が、最後尾の俺からはまるで見えないんだよな……。

リボルバーの早撃ちが見たかったのに、何度ネズミが出てきても音しか聞こえないんじゃ、そりゃテンションも下がるってもんだ。

そういや動画でも、リボルバーの攻撃モーションが早すぎて、しょっちゅうスローモーションで解説入れてあったもんな。


狭かった通路が終わり、若干開けた場所に出る。

あ……ここは見覚えがあるぞ。

ガリガリと続いていた音が、ピタリと止む。

「繋がった」

リボルバーの呟き。

繋がったのは、彼女が引いていた線の始点と終点が、だな。

……つまり、俺たちがぐるぐると周囲を歩いていたこの壁は、ゴールに続いてはいなかったってことか。


「そうだね……。残念だけど、ひとまずここで休憩にしよう。ずっと歩き通しだったからね。クマさんもいいですか?」

リボルバーが頷いたのを見て、アサギが俺に確認する。

「ああ、助かるよ」

斜め向かいに座った俺とアサギに対して、リボルバーはアサギの背に隠れる位置に座った。


ん? なんか肩パーツがグラグラしてないか?

ああ、あの形だと壁にちょいちょい当たってたんだろうな。


サイドウィンドウからパーティーメンバーであるリボルバー機の詳細を見ると、リボルバーの左肩パーツは損傷値が0.5%になっている。


「リボルバー、肩パーツ緩んでるぞ」

リボルバーの機体が俺を見て小さく首を傾げる。

「外れてしまう前に締め直しといた方がいい。スパナ持ってるか?」

リボルバー機は器用に首を振った。

アサギが驚いた声を上げる。

「えっ、ステージ内で修理ができるんですか!?」

何で驚くんだ?

「チュートリアルでスパナもらっただろ?」

「あれは……記念品のようなものかと思っていました……」

恥ずかしそうに答えるアサギ。

この時期、ステージ内換装ってあんま知られてなかったんだっけな?

「補修だけじゃなく、パーツの交換もできるから、覚えておくといい」

アサギが「はい」と素直に返事をする。

リボルバーも「ほう、ステージの中で換装できるとは、面白いな」と呟いた。

「リボルバー、機体触ってもいいか?」

「仕方ないな、特別に許可しよう」

「そいつは光栄だ」

許可をもらって、俺はリボルバーの傍に膝をつく。

肩パーツのボルトを締めると、損傷値は0%に戻った。

そんで、と。俺はリボルバーの左腕部の詳細を開く。0.7%か、やっぱ左手首のとこも傷んでるな。そりゃ2時間近く左手に握ったナイフで壁を削ってたんだ。ああいう振動は緩みに直結する。

「左手はグラつかないか?」

俺の言葉にリボルバーは左手を握って開いた。

「そうだな、手首関節が少し揺れる」

おいおい、パネルから数字を見るんじゃなくて動作を眺めて判断すんのかよ。

やっぱり天才ってのは違うんだな。

「締めとくか?」

「任せた」

ほんのメンテナンス程度の作業でも、天才パイロットに任されるってのは、悪い気がしないな。


リボルバー機の手を取って、手早く、かつ慎重にボルトとナットを締め直していると、背中にぞくりと寒気を感じた。

…………アサギ機からの視線が痛いな……。

アサギは、もしかしなくても妬くタイプか。

まあ、そうでもなきゃいちいち彼女だ彼女だとアピールはしないか……。


理解した途端、あの頃の様々なトラブルが蘇って、胃がキリキリと痛む。

またなのかよ! もう女絡みのトラブルは勘弁してくれよ!!


俺は思わず迷宮の奥へと視線を逸らす。

屈んだままの俺の視界に、今まで見えていなかった物が映った。


「終わったぞ」

と、リボルバー機から手を離す。

リボルバーは左手を動かして「ふむ、元より良いくらいだ」と呟く。

そりゃよかった。


んじゃ、あとは……。

俺はため息を吐きながら立ち上がると、殺気に近い気配を漂わせているアサギ機に向かって、無駄かも知れないが言葉にしておく。

「アサギ。警戒しなくても、俺にその気は無いからな?」


アサギがハッと青ざめたのが、機体越しにも分かった。

「……ぁ……。す、すみません。失礼しました……」

なんだ? こいつ無意識だったのか。

それは……何つーか……、俺のほうこそ、悪い事したな。


「あー……、実はな、俺は女性に触れると蕁麻疹が出るほどの女性アレルギーだ。ゲーム内の、ロボットの手で精一杯ってとこだよ」

「クマさん……」

アサギが驚きの声を漏らす。

「クマさんが人混みを避けるのはそのためですか」

「そうだな」

元々このゲームの男女比は圧倒的に男性が多いが、それでも人が集まれば女性が混ざることもあるからな。

しかし、ほんのこれだけのゲーム内の付き合いで、よくアサギはそこまで気づいたな。

ゼンはまだ全然気付いてないと思うぞ。

うちの社の整備系部署は男ばっかりだしな。


「少しは安心できたか?」

「はい。……ありがとうございます」

アサギの声に安堵が滲んだ。

俺の情けない体質も、それでこいつが少しでも安心するなら役に立ったと思おう。


「我を女だと思う必要はない! 我が名はリボルバー! 拳銃の王だ!」


おいリボルバー、話をややこしくするな。


「アサギ、お前の彼女は性別を超越しようとしてるが、大丈夫なのか?」

俺が声をかけると、アサギはクスクス笑って答えた。

「それは困りますね。後でよく話しておきます」


もう大丈夫そうだな。

まったく。普段冷静なアサギをこんだけ狂わせるなんて、お前の彼女は大したやつだよ。


そろそろ、そんなリボルバーの神技を拝ませてもらわなきゃな。


俺は奥の壁を指差す。

「屈んだ時に気づいたんだが、そこの壁、下に隙間があるぞ。動くんじゃないか?」


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