第7話
SSR確定演出から、URが出ることはある。
それは、とても幸運なことなんだろう。
しかし、URと呼ばれる最上級のレアリティを持つ武器の中でも、微妙〜〜〜な武器というのは稀にある。
そんな微妙なUR武器の最たるものが、この『アネモネ』だった。
小さな板を繋ぎ合わせた、蛇腹状に揺れる短冊。それが幾つも束ねられたような形は、チアリーディングに使われるポンポンによく似ている。
ロボワユーザーには初期からずっとポンポンと呼ばれていた武器だ。
武器というカテゴリではあるが、これはランダムバフアイテムでポンポンを振ると機体のHP、攻撃力、防御力、命中、機動力のうち2つがランダムで上がる。
上がる量は1〜10%、これもまたランダムで、効果時間は30秒と短い。
その上10%は滅多に出ない。5%でも出れば良い方だと言われている。
ロボワユーザー100人に「一番ほしくないUR武器は」と尋ねれば、間違いなくこいつがトップだろう。
……そんなゴミURアイテムが、まさか、俺の元にきてしまうとは……。
「はぁ……」
俺は大きくため息をついた。
まあ、まだ俺の武器スロットには空きがある状態だしな。
こんなのでも無いよりはマシだろう。とりあえず50まで強化して装備だけはしておくか。
それにしても、攻撃力も防御力もそこらのSSR武器よりずっと低いな……。
HPと耐久だけはかろうじてURと呼べなくはない数値だが、なんでこの性能でURなんだろうな。
俺は、自分の自制心の無さをそっと棚に上げると、気を取り直してレベル上げのためのステージに向かった。
***
「先輩めっちゃレベルあがってるっス!」
金曜の夜ログインしてきたゼンは、俺とアサギのPTに入ってすぐそう言った。
「お前達の足を引っ張るのはごめんだからな」
とはいえ、この一週間でようやくゼンに追いついたというところではある。
大学生のアサギはゼンよりプレイ時間も長く、まだ俺より4レベル上だ。
この時期で既にレベル34のアサギは、プレイヤーの技術も考慮すると上位10%に入るほどの実力じゃないだろうか。
「来月からPvPもあるし、オレも素材集めてもうちょい機体強化したいっスねー……」
……ん? なんか、ゼン疲れてそうだな。
そういやゼンは今入ってきたが、もう時刻は22時半を回っている。
「ゼンは今週はずっと作業だったのか?」
「んー……、もう先週からずーっとメンテと修理っスね。ほんの70日の行程だったピアオデの劣化が想定以上なんスよ。俺よりもクマ先輩の方が分かるんじゃないスか?」
ピアオデってなんだ。ピア・オデッセイ号の略か。
そりゃそうだろうな。実際あの船は4年の間、休まず航行を続けたんだ。
「そうだな。お前らには世話をかけるな」
「俺らより、先輩がガチで大変だったんじゃないスか? なんか他の奴らは先輩みたいな特別有給出てないって聞いたっスよ、80日なんて……」
「あーまあ、その話はまた今度な。つーかゼンは今週ずっと帰り遅かったろ、今日はもう寝た方がいいんじゃないか?」
「うー……。そうなんスけど、日曜も出勤なんスよ……」
「何でそんな余裕ないんだ」
「ピアオデ、もう次の出航決まってるスから……」
そうか。何事もなく帰ってくれば、メンテナンスには十分な時間があっただろうが、あの船は予定を遥かに超える航行期間をこなしてきたからな……。
だとしても、事故の連絡があった時点で次の出航を延期するなり何なりしてくれりゃいいのにな。
こんな事なら俺も有給に入る前にもうしばらく仕事すりゃよかったな。
せめて日曜は手貸すか? 別にタイムカード押さなきゃ手出したっていいよな。
「あっ、先輩もしかして仕事しにくる気じゃないスか!?」
こいつ、変なとこだけ鋭いな……。
「いや、別に……、タイムカード押さなきゃいいだろ」
「やっぱり! そんなのタダ働きじゃないっスか! ダメっスよ!」
「有給貰いまくってるし、ちょっとくらいいいだろ」
「ダメっス! 先輩はそんだけ大変な目に遭ったって事じゃないスか!」
「いやそんな大変って事は……」
「先輩はお人よしすぎるんス!」
「いやいや、んなことはないだろ」
自分がそんな親切な人間だなんて、一度も思ったことはないぞ?
ゼンは俺を過大評価しすぎじゃないか……?
「まあまあ、お二人とも。せっかくの時間を有効に使いませんか?」
アサギに止められて、ゼンが我に返る。
「あ……、ごめんっス。PT会話だったのに……」
ゼンはいつも皆が楽しめるように、さりげなく気を遣ってくれる奴だもんな。
随分疲れが溜まってんだろうな……。
「気にすんな」と俺が言うと、アサギも「そうですよ」と明るく言う。
アサギは優雅に両手を広げると、俺たちに言った。
「それじゃあ今日は、僕が新しく開けた、素材を集めにピッタリのステージに行きませんか?」
「行くっス!」と元気にゼンが応える。
ん? 新しく開けた、素材集めステージ……ってまさか……。
***
俺達は3人は、グングンと大空を進む戦艦の、船首にほど近い甲板にいた。
「うひゃーっ。強制スクロールステージってオレ初めてっス!」
そうだろうな。ロボワではそもそも強制スクロールステージ自体が少ない。
4年後でも18種くらいだったからな。
今実装されているのはおそらく3種、ジャングルの中を濁流に乗って川下りするステージと、貨物列車に乗って山岳地帯を走り抜けるステージ、それに今俺達が入っている大型戦艦のデッキが舞台の空中戦ステージだろう。
ただなぁ、このステージ……。
「この艦が向こうの空中都市に着艦すればステージはクリアです」
アサギの言葉に、ゼンがはしゃぐ。
「乗ってるだけでクリアなんスか? 楽勝じゃないスか!!」
「敵の中に、艦を狙ってくる敵がいますので、それは優先的に倒してください」
「了解っス!」
ディスプレイに敵機との遭遇を示す『接敵』の警告が出る。
それと同時に、遥か向こうに敵影が見え始める。
銀の翼を持つ怪鳥シルビルと、それぞれの強化素材に合わせた属性カラーの怪鳥達だ。
「来ました!」
「ああ」「うぃっス!」
高速で空を進む空中戦艦。周囲を流れる雲の速さも半端ない。
だから当然、接近して来る敵の速度も今までの比じゃなくて……。
「いくっスよー!」
と元気に撃ち始めたゼンが、敵のHPを30%も削れないうちに敵機を見失った。
「ぅえっ!?」
そーなんだよ。目の前に来た敵を叩くようじゃ遅いんだよな。
近づきつつある敵機に向けて銃を構えようとするゼンに俺は叫ぶ。
「ゼン! 右奥狙え!!」
このステージは、目視できるギリギリくらいの距離から構えて、照準を合わせて、通り過ぎるまでに撃ち落とせる火力がなきゃ、ただただ通過する敵影を見送るだけで終わっちまうんだよな……。
この艦を狙ってくる敵は7機くらいだったか?
そいつらはちゃんと俺達のいる甲板に降りてきてくれるから十分倒せるが、肝心の強化素材を落とすのは全部素通りする方の敵だ。
ゼンがまたも半分ほど削った敵に逃げられる。
「む、難しいっスね!?」
「無駄なく撃てば何とかなりますよ」
答えるアサギはライフルを3発ずつでコンスタントに撃ち落としている。
ライフルだとリロードが長いから一発でも外すとアウトだが、そこは流石のコントロールだな。
俺もそろそろ始めるか。
やっと強化が半分まで進んだ中長距離用大型レーザーを右肩に構える。
これで遠くから狙って、手前に来たら実弾だな。
左手にはサブマシンガンを構える。
一番遠くにいる敵に照準を合わせて、最速リロードでレーザー!
くっそ、まだ強化が足りない、この速度じゃ2発が限度か!
敵機がレーザーの攻撃可能範囲から出るあたりから、サブマシンガンで追撃する。
敵の残りHPは、6%、4%、2%……っ!
俺はぐいと機体を逸らして通り過ぎるギリギリまでダメージを入れる。
0%!
俺の後ろで敵機が爆散する。
はー……。俺の今の火力じゃ、これでギリッギリだな……。
「あああーっ、待ってくださいっス!!」
ゼンはまたも撃ち残した敵機に逃げられている。
その様子を見て、アサギが謝った。
「……すみません。まだお二人にはちょっと難しかったようですね……。僕の判断ミスです。一度戻りますか?」
こういうミスを素直に認めて謝れるってのは、アサギのすごいとこだよな。
「いや、俺とゼンで一緒に叩けば倒せるだろう。アサギの取り分は減るけどな。ダメ元でランダムバフをかけてみるよ」
「分かりました」と答えたアサギが、より集中力を増して確実に敵機を撃墜してゆく。
真面目ないいやつだよな。
俺がポンポンを取り出すと、ゼンが叫んだ。
「うおーっ、攻撃力と機動力が欲しいっス!」
そう都合よく出るといいんだがな……。
「出るように祈っててくれ」
月曜に出たポンポンで、2人には既に何度かポンポンのバフをかけている。
が、まだ一度も5%のバフすら成功したことがない。
大抵1〜3%なんだよな……。4%が出たのだって3度きりだ。
俺はポンポンを振るために左手に装備したマシンガンをおろそうとしてから、ふとカニバサミが暇そうなことに気づく。
投石は流石にこの速度で動く敵には当たりそうにないからな、今日はカニバサミにはポンポンでも振らせとくか。
カニバサミでポンポンを掴むと、突然目の前にウィンドウが開いた。
!?
【装備条件達成】
[カニバサミに装着されている間、アネモネは刺胞弾を発射できます]
[カニバサミに装着されている間、アネモネの特性《応援》のランクが2段階上がります]
は……?




