13.
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大樹の洞へ戻っていくスガソを見送ったカナギは、境界を越えるのをやめた。
「やはり理想を膨らませてしまっていたか?」
興味深そうにウキヨトが問う。
「そうじゃない。きっと、あの参拝者たちもそうじゃない。俺わかったんだ。あの人たちがどうしてあんな顔をしていたか」
あれはある意味『失望』だった。
だがウキヨトが言うようなものではない。
「そっちに行けないのと同じ理由だよ。……つまり俺は、この世界で、こっち側でスガソとずっと一緒にいたかったんだ。女森に行きコトノハを摘んで帰ってくるスガソを見ていたかった。ウルハシの村で参拝者や村の人たちの相手をするスガソと一緒にいたかった」
カナギはスガソが消えていった大樹の幹を見つめた。確かにあれはスガソだった。だけどここにしかいられないのなら、それは、カナギが求めるスガソではないのだ。
きっとあの参拝者たちもそうだったのだろう。御事参りというものは愛する者に再会するためのものでなく、愛する者は『こちら』にはもういないのだと自分に言い聞かせるための儀式だったのだ。
言ってみれば『諦める』ためのものだったのだ。
「ウルハシの民は昔からそれをあの墓地でやっていたからな。遺灰を森に撒くこともその一環だと誰かが言っていたような」
「何だよ、知ってたのかよ」
カナギは口を尖らせた。しかしすぐに笑って大樹を見上げる。
「そういうわけだから、ウキヨトになんて言われようと、俺はこっちで生き続けるよ。それでスガソがいないのが苦しくて辛くてどうしようもなくなったらそのときは、『あいつの分まで』とか『あいつに代わって』とか言って踏ん張ってみる」
きっとスガソもそれを望むだろうからと言いかけてカナギは飲み込んだ。これもまたウキヨトから言わせると死者を出しに使っているということになるのだろう。
「それじゃあ、俺は村に戻るよ」
「そうか。二度と来るなよ」
ウキヨトは意地悪に笑う。
同じような笑みを浮かべてカナギは言った。
「何言ってんだよ。たまに会いに来るよ。ウキヨトにも、姿の見えないスガソにも。こっちだろうがそっちだろうが、二人とも俺にとっては大切なんだから」
カナギは大樹を見上げた。
枝葉の隙間から差し込んだ陽の光がカナギの足もとに及ぶ。その温もりを感じながらカナギは顔いっぱいに笑った。




