一幕・九月の九日 そのに
――時は遡って数十分前。
僕、三木颯太は学校からの帰り道を歩いていた。
日曜日だし部活もやってないけど、模試があって結構時間がかかったので辺りはもう暗く、夜の気配に満ちている。
そのせいか、一緒に帰っていた友達との話題は最近騒ぎになっている切り裂き魔の話になった。
「そういや、まだ犯人捕まってないんだよな?最近話題の切り裂き魔。こえーよなー。どんどん被害者も、行動範囲も増えてるらしいぜ?」
「あぁ…そうらしいね。まだ警察は手がかりも見つけられない上、そのあたりでの行方不明者もいるから、まだ見つかってない被害者がいるんじゃないかって話もあるんだよね?」
「発覚してるだけで、もう五人も殺されてるのに、けーさつはむのーだよなー。早く犯人見つけて住民を安心させてくれよーってな。」
噂の切り裂き魔は、一部では切り裂きジャック二世とも言われていて、最初の被害者は猿轡をされた上で背中からめった刺しだったというのに、どんどん殺し方が上手くなっているらしい。
ここ最近の犯行は、首を一瞬でかき切ってから切り裂かれているとのことで被害者は悲鳴すらあげることも出来ない、だとか。
そんなことを他人事のように笑いながら話す。
『噂をすれば影』
この時にはもう決まっていたのかもしれない。
僕と…あの殺人鬼との邂逅は――
からん……
「……ん…?」
友達と別れてすぐ、夜の明かりのともる繁華街を歩いていた時だった。
脇の路地裏の奥から、何か音が聞こえた気がした。
ともすれば気にしなかったような、微かな音と少しの違和感。
まるで、そこが日常とは切り離された空間であるかのような感覚。
僕は首をかしげて、真っ暗な路地裏のその奥を見透かそうと目を凝らす。
でも光眩しいこちらから、その様子を見ることはできなくて…。
僕は恐怖を感じながらも、ほんの少しの好奇心に背中を押されてその底なしの暗闇に足を踏み入れた。
そして……。
――あの惨状に出会ったんだ。