一幕・九月の九日 そのさん
誰かに手を引かれて無我夢中で走った。
路地裏に転がったゴミに足を取られながら、どこに向かっているのかも分からないまま走った。
つまずいて、壁に手や足を擦って、後ろから追って来るかもしれない足音に怯えながら…。
そして…そして……。
「……ぇ……ねぇっ!君!!大丈夫っ!?」
「……ぁ…。」
気付くとそこは光あふれる繁華街の真ん中で…。
眼鏡をかけた長い髪の…綺麗な大人の女の人が僕の肩を掴んで揺さぶっていた。
「……あ…だ…れ…?…僕…は…。」
「…っ…ショックなのはわかるけど、こんなところで座り込んでちゃダメ!早く警察に知らせないと…っ!!」
その言葉で僕は彼女がさっきの、僕を助けてくれた声の人なんだと理解した。
そしてさっきの光景を思い出し、酸っぱいものが喉元に込み上げてくる。
けど…
「早くっ!!ここでもたもたしてアイツが逃げちゃったら、次は私たちが狙われるかもしれない…。いえ、きっと狙われる!アイツの…切り裂きジャックの姿を、唯一見た目撃者なんだから!!」
その彼女の言葉に何とか吐き気を押しとどめて、震える体を叱咤しながら立ち上がり、僕は手を引かれながら近くの交番へとまた走った。
「……え…っ?」
数十分後、慌てて近くの交番に駆け込んで、事情を説明し、警官を連れてきた僕が見たものは…。
さっきまでの惨状などなかったかのように静まり返り、染みひとつ無い冷たいコンクリートの広がる暗い路地裏だった…。




