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東方現葉幻詩  作者: 風三租
第四部 セールスお断り
44/44

西施捧心、引っ越しした。

前々回のあらすじ

変態覗き魔に会ったら八雲家が全焼した。


前回のあらすじ

八雲家を再建するついでにもみじをゆうかりん仕様にした。




 無事に建った水の社に、龍神様龍神様と崇める天狗。裏で龍神では無い龍巳神だと喚く水。名前が妖怪の種類を表すなら私は葉っぱの妖怪だが、そんなことはどうでもいい。


 私と水はこっそり住居を移した。ヤマメとパルスィは別に崇められてはいないので旅館に残り、とりあえず各自の生活することにはなった。ちなみに、接待の質は少しだけ落ちたらしい。

 そして、私の引っ越しを済ませて落ち着いた頃。私は八雲家復興作業に戻らせてもらい、基本的にそっちで生活する日々であった。妖怪らしく能力をふんだんに使ったら、工事は一ヶ月で終わった。僅か三人のチカラであっという間に木造二階建ての住宅が、森林のど真ん中に建てられてしまった。この機会にと、ちゃっかり前の家よりもグレードアップされていたし。


 家が完成する前から、紫さんは毎日欠かさず例の屋敷に顔を出していた。家が完成してからも通い続けて、何食わぬ顔で帰ってくる。

 一度屋敷に行ってしまった私は、この問題の先っぽに触れてしまっているのだ。

 変態覗き魔の出現。紫さんらしくない特定個人への執着。能力を持った人間。

 昔から人間と妖怪のバトルを見てきた私は、今回の件もどうしても気になり、八雲家に勝手に滞在させてもらうことにした。




・・・・・・・・・・・




 新築の香りが漂う住居の一階、冬に備えてハゲつつある木々に感化されて、八雲家も模様替えとシャレ込む。居間にある念願だったらしい掘り炬燵に、炬燵布団をかけたり。紫さんは夏仕様の薄いドレスから、フリルのつい真っ白でた温かそうなドレスに衣替えしたり。藍先生も同じようなものを着て、違いは紫色と藍色の、色違いの長い前掛けだ。どっちがどっちなのかは名前の通り。まるで姉妹みたいだね。


 対抗して私も緑色の何かを着た方がいいのかな。とは思っても現実は上手くいかない。ドレスなんて着たら「女装」だの「不審者」だの言われるに違いない。もう諦めているんだよ。

 ヤケになって、着ている甚兵衛に布切れをつぎはぎ。風を通さないまでの防寒性をエンチャントできたけど、なんか伝統工芸品みたいな柄になった。これでいいや。


 そんなこんなで冬を迎える準備はバッチシ。怠惰な生活に戻っていった。


「ただいまー」


 日課の家庭訪問から帰ってきた紫さんは、真っ直ぐコタツへ突入。

 残念! いま空気入れ替えてるから温まってないよ!


「お努めご苦労様っす」

「はいはい」


 暖をとれない紫さんは私のねぎらいを適当にかわし、手に向かってハァハァと興奮している。

 藍先生がすかさずお茶を淹れ、バケツリレーのように紫さんは一気に喉へ放り込む。


「ぬるい。苦い。渋い。茶色い」

「すみませんでした!」


 私達が飲む用に、さっき淹れたお茶だ。魔法瓶なんてまだない時代、繊細なお茶っ葉は冬の寒さにすぐやられてしまう。その場しのぎに出しちゃ文句を言われるでしょう。嫁・姑問題だ。

 藍先生は言われる前から火を起こしていて、沸くまで平謝り。慣れたものである。

 何も出さなかったら出さないで文句を言われ、出しても文句を言われる。帰ってくる時間なんて予想できないから、必ずお小言を賜るのだ。流れをしっかりパターン化させた藍先生は、ストレスを機械的動作に変えて超人となった。

 丁度いいタイミングで「すぐに淹れ直してきます」と捨て台詞を残し、温まったお湯を急須に注ぐ。そしてリリース。


「どうぞ!」

「あら、早いわね」


 機嫌が直る紫さんに、ひと仕事終えた達成感を見せる藍先生。でもすぐに家事をし始めた。

 式神にしたばかりのときは微笑ましい雰囲気だったのに。使う方も使われる方も慣れてしまっている。動物とか飼った方がいいんじゃない?


「ねえ」


 落ち着いた紫さんが私に目を向けた。藍先生では飽き足らず、私までも使おうとしているのか。できれば嫁・姑問題では最強ポジションである、娘役をもらいたい。


「私のお手伝いしたいんでしょう? 頼みがあるんだけど」

「できれば掃除洗濯料理介護以外でお願いしたいんですけども……」

「なんのためにいるのよ」


 一緒に家建てたんだからから許してー。子供の仕事はお勉強です。たくましい八雲家をよく観察して、脳内で絵日記でも書いていれば許される立場です。


「……まあいいわ。家事以外のことだから」


 紫さんが静かに湯のみを置く。


「藍と人里に引っ越しして」


 出て行けって言われたよ。

 私だけに向けられると思っていたばかりに、藍先生は突然の名指しに凍りついてしまった。投げられた一言はあまりにも残酷で、藍先生を地獄に突き落とすのに十分であった。


「え、紫様、私、あの、なにか……ご不満でも……?」


 事実上の解雇通知を受け、藍先生はどうしてそうなったか分からない様子でソワソワする。私からしてみれば心当たりが結構あるのだが。

 陰口言ったり。

 家燃やしたり。

 共犯だから私もクビなのか。


「違う違う。アレよアレ。私一人じゃ動き辛いからね」

「ああなんだ。アレですか……。驚きましたよ。ハハハ」


 なんだアレか。アレの話なら安心だ。つまり紫さんが日々通っている、除き魔が出没した屋敷に関係すること。作戦名「アレ」。


「貴方は人里にいても大丈夫でしょうし、藍は適当に幻術使ってごまかせるでしょ」


 妖怪には人間に紛れて生活しなきゃならないときもあるので、擬態する術を持つのも多い。化け狐の最終進化系みたいな藍先生は、幻術を使ってもっふもふな尻尾を隠すのだ。

 見かけのチカラが弱く最初から擬態する必要のない私やヤマメ、遠目でも恐ろしく人間と接する必要がない幽香さんや天狗など、いろんな種類がある。


「人里の動きも知っておきたいの。やってくれる?」

「モチロンですとも紫様!」


 今までの汚名を返上するチャンスだからか、意識の高い新入社員のごとく張り切る藍先生。職場が思っていたのと違ってやる気がなくなるパターンに陥らないように注意だ。


「貴方は?」

「うん行くよ」


 私はこの件の結末が知りたくてここにいるので、そっちの手伝いなら文句はない。

 でも、今回もできることは何もないんだろうな。




 スキマで送り届けられた先の人里は、色がうるさい平安京とは百八十度違う、静かな田舎の村だった。藍先生は無精髭を生やした渋いおっさんに化け、私はその後ろについて行く。女二人の旅はおかしいから、男二人でフラフラとやってきた設定だ。

 私は化けなくても男に見えるらしい。妖怪にも見えないし女にも見えないって便利だねこんちくしょう!


「木葉、まずは村長の所に行くぜェ」

「分かったぜェ」


 藍先生のご指導のもと、この村では語尾に「ぜェ」をつける縛りをする。こういう喋り方をすればより漢らしくなるらしい。

 現に低い声で吹きかけるようにくる藍先生の言葉にはドキッときた。今の藍先生がそこら辺の女に笑いかけたりなでたりすれば、あっという間に囲まれるかもしれない。


「先生、村長の家知ってるんだぜェ?」

「高い所か大きい家だぜェ」


 エラい人と何とかほど高い所が好き。みたいな発想だ。

 右を見れば広大な畑、左を見れば森の中。民家はポツポツと建っていて、どれも同じような大きさで、シロウトにはどれがエラそうなのか見分けがつかない。

 第一民家に接近すると、丁度中から女の人が出てきた。手にはおにぎりを持っていて、そういえばもうお昼なんだと気付く。


「嬢さん……」


 藍先生が呼び止める。私と藍先生は師匠と弟子という設定にしているので、基本私は出しゃばらない。


「長の家はどこなんだぜェ」

「まあ……」


 声をかけられた女の人は、恋をする人の目だった。藍先生の視線は女性の心をつかんで離さない。あまりのイケメンさに、もはや笑いかける必要もなでる必要もなくなっているのだ。

 でも藍先生がやっている幻術は映像を身にまとうような手法だから、見た目はおっさんでも手触りはお姉さんだよ。抱きついたりしたら胸当ててくるよ。

 光学迷彩よろしく見えなくなっている藍先生の尻尾も、手を伸ばせば触れられてしまうので、私は藍先生の後ろに立って見張り役もこなしている。


「長はあちらの家におります……」

「感謝するぜェ」


 女の人は藍先生に熱い視線を送りつつ、畑の方に去って行った。遠くで作業をする男の人におにぎりを持って行くのだろうが、こっちを向いたままだ。

 流し目なんてしたら悪質な広範囲攻撃だなあ。村中の恋愛問題をリセットできるだろう。

 藍先生は気にせず示された方向に歩き出す。通り過ぎる家の中からはにぎやかな話し声が聞こえ、村にはそれなりの活気があった。


「たのもォー」


 気持ち高めの土地にある、村長の家の門戸を叩く。藍先生の低い声は、まるで道場破りをしに来たようである。もしくは借金取り。

 治安維持の感覚が薄いこの世の中では、このくらいの威圧感を発していなければ山賊盗賊一般人にからまれ放題だ。

 逆に旅人がコワいのが普通だから、村人に恐れられることはない。村長も動じずゆっくり出てきた。


「あ……」


 背筋がしっかりした初老の男が、藍先生を見た瞬間に目をうるうるさせ、頬を紅く染上げた。

 さすが藍先生。前代未聞のイケメンさは男も女も関係無しにオトしまくっていく。


「弟子が奇怪な行動をする病に蝕まれているのだ。治るまでここに滞在させて欲しいぜェ」

「それは大変。でも……」


 奇怪な行動ってなんだよ。

 村長の表情は、恋人の行く末を案じる哀愁が漂ったものだった。いい年したオジサンがするには、思わず吐き気を覚えてしまうような表情だ。藍先生の見えなくなっている尻尾がわさわさ揺れている。


「村外れの屋敷に妖怪が現れるという噂があって」

「問題ないな。村を守れる程の腕は持ってるつもりだぜェ……?」


 見えない尻尾に手を入れ、毛を一本引き抜いてみると。私の方を全く見ずに、藍先生は見えない尻尾をふるって私を払い飛ばしてきた。

 不可視の攻撃に声を出す間もなく無音で倒れる私。


「ほら、奇怪な行動だぜェ。一刻の猶予も許されないんだぜェ」

「ああ……お気の毒に……」


 村長の残念そうな目は事情を勝手に察したことを物語っていた。




・・・・・・・・・・・




 妖怪騒ぎで村人が引っ越してしまい、空き家になったところを貸してくれた。村はずれにはこの前行った妖怪屋敷があり、そこに一番近い家がここだ。とはいっても十分離れているので屋敷は見えない。

 妖怪から村人を守ることをウリにした以上、危険な土地に送られるのは当然。家を用意してくれたこと自体、ありがたいと思わなければならない。


 でもここが危険なのは人間の立場で見たときだ。

 私達からしてみればなんの問題もない。村人に正体がバレる確率が下がったし、むしろいいコトづくしな気がする。


「妖怪のウワサ、結構広まってるようだな」


 屋内に入って藍先生はおっさん形態を解いている。


「まあ、まだウワサだよね」


 実話に昇格したとき、妖怪は本当に妖怪となって現れるだろう。だからまだ大丈夫だ。

 ここで私達がウワサを消せば屋敷の主は安心して暮らせるけど。突然やってきたヨソモノが無理に刺激すると、逆効果になりそうだ。

 私達を妖怪の手下とみなし、屋敷のひとを親玉認定する。敵が分かればあとは倒すだけで、村民は恐怖じゃなくて怒りで動くようになってしまう。

 村民の誰かが真実を知って広めても、今度はその人が妖怪の手下になって終わるだろう。

 村人は村人の役を演じるのではなく、勇者の役を演じることで繁栄するのだ。


 屋敷の主が妖怪になってからすぐに幻想郷に移住させて、これからの妖怪生活を思いっきり楽しんでもらうのが一番の解決法である。

 タイミングが重要。

 今すぐ移住するともれなく妖怪のエサに。移住が遅れると人間達の絆のエサに。

 どっちがつらい?


「緑、ちょっと屋敷に行って紫様との連絡方法を聞いてきてくれないか」

「決めてないの……?」

「紫様は肝心なところ以外は抜けてるからなあ」


 いいコンビですね。

 仕事をもらっても説明が不十分だと、動くに動けないのに。とりあえず始めてみようって姿勢は優秀な社員のカガミだ。


「こっちに来るんじゃないの」


 紫さんの家は今、誰もいない状態だ。家で一人なのに気付き、寂しくなって来るんじゃないか。今や紫さんの生活能力は皆無なのだ。


「来ないかもしれないぞ」


 屋敷に泊まりっ放し?

 いつの日か出現した変態覗き魔のコトを思い出す。真っ暗な闇の中、高い塀から目だけ出して「かわゆいのう」と漏らしていた光景が再生される。

 かわゆいイコール子供。

 さらに今までの経験より、子供イコール幼女。


 あ、危険だ。

 紫さんが付きっきりになるのも想像できる。変態覗き魔を野放しにしてはいけませんね。


 敵意を持った村人や変態や、幼女を取り巻く環境は最悪だ。

 私が元気づけてあげなければ。




・・・・・・・・・・・




 屋敷周辺にまた変態が出た。

 誰にも見られないように村を出るのは簡単だった。ご近所さんは歩いて十五分くらい掛かりそうな距離だったし。

 開けた土地から林に入り、コソコソしなくて済むようになって油断していたら出た。

 バッタリだ。道なき道から現れた老人と従者にぶつかって、目が合った瞬間に固まる。


「キ、キサマは、あの時の妖怪……!」


 従者に顔を覚えられていたようである。私も変態覗き魔達のことはよく覚えているよ。従者はまだお若いのに髪が真っ白で、覗き魔の本体にずいぶんと苦労されているようである。

 なんにせよ退治されたくないので言い訳タイムの開始。


「あの、私は妖怪に遭遇しただけっていうか、つかまっていたっていうか」

「黙れ! 斬れば分かる!」


 斬られたら死んでしまいます。

 従者は真っ赤になって刀を抜いて構えるが、こちらに向けられた刃はプルプル震えている。

 鬼と戦ったり、サディスティックなお姉さんとお茶会をしたり、私はもっと恐ろしい経験を積んできたのだ。一杯一杯の状態で分かりやすい攻撃をしてきそうな従者はあまりコワくない。

 今まで培ってきた女子力がなす、ある種の悟りだね。

 ともかく、言い訳は従者の耳には届かないようなので、逃げる用意をしておく。


「馬鹿者が。相手は良く見定めてから斬れ」

「ごめんなさい!」


 震える従者に膝カックンして、覗き魔は暴走しそうなのを止めた。変態除き魔の本体は話が通じるようである。そして従者はそれに従順だ。変態のくせに人望があるなんて。


「娘、妖怪の類でないのならなぜ生きている」


 妖怪に会ったら死ぬなんて考えダメ。案外生き残れるものだよ。

 人の形をしているのは意思疎通をする気がある証拠。無差別に生き物を襲う妖怪は、誰が見ても「これは敵ですわー」って形をしている。

 進んで意思疎通しようと考える人間なんていないから残念だ。


「あなた方がお逃げになってから……、そう! お師匠様に助けて頂いたのです!」


 演技じみた大げさな口調で弁解する。説得力を持たせるためには表現豊かに、愛想良く。商人の基本であり、通販ではコレだけを武器にして立ち向かうことができるのだ。


「ほう。あのような妖怪を退けるなら、よっぽど腕の立つ剣士なのだろうな」

「それはもう! あのお方にかかればなんと! どんなに濃い妖気でも簡単に斬ってしまうのです!」


 ちょっとふざけ始めた。私、助かる気ないのかなあ。


「ならばそのお師匠とやらはどこに?」

「この近くの村に半年も滞在する予定でして、さらに妖怪退治も請け負っているのです!」


 利便性とおトク感を最大限に表現できれば、あとは自分の望む方向へ誘導するだけだ。私って意外と商売に向いているかもしれない。


「お師匠にご用がある方はあちらの村へ! いまから一刻以内にお訪ねいただければ対応ができますのでお早めに!」

「なるほど! それは行く必要がありそうですね!」


 従者がまんまと引っ掛かった。目がキラキラしてる。

 この人たちを藍先生の所に送って大丈夫かな。変態は変態ゆえにムダな鋭さを持っていそう。覗き魔の観察眼は計り知れないのだ。

 でもまあいいや。藍先生ならきっとなんとかしてくれる。


「では私はお屋敷のお手伝いに参りますので!」


 これ以上引き止められてボロが出たらオシマイだ。追っかけられるにしても味方がいる場所まで逃げれば安心だ。

 心が傾いた従者に手を振って、小走りで駆け出す。小走りは仕事してる感を引き立たせてくれ、客の信頼を得やすくなる。もう私の社会人度は最大だ。

 後ろから聞こえる「あっおい待て」という変態の苦情には、笑顔だけで対応する。ケチをつけようとする人には、いくら言葉を重ねたって進展はしないのです。




 着いた屋敷は村の外れの外れ。どうしてこんな所に建てたのだろうと思うほど離れていた。

 村でさえ家の間隔が大きかったから、貴族と村人はそれよりも離れなきゃならなかったのかも。我々の村での決まりですみたいな感覚で。

 木々に囲まれてひっそりとしている割に、ここまでの道だけはしっかり作られていたから、一人で生きたいけど他人の存在は知っておきたいと言わんばかり。ツンデレ屋敷だ。


 そのおかげで、誰にも見られずに静かな暮らしができそうないい場所だった。前回は夜だし怒られるしでよく観察できなかったけど、今回は違う。

 正門から謙虚に入ると、白石が敷き詰められた眩しい庭と直面する。所々に石が薄くて地面が露出しているのを見ると、それほど手入れがされていないようだ。

 庭真ん中に立っているでっかい枯れ木が、寒々しさを倍増させている。

 敷地に入ってから気温が五度下がったような気がする。


 エル字型になっている建物を見渡してみるが、人気が全く感じられない。紫さんはいるのかな?

 飛び石を渡って玄関の戸を叩くと、予想外の大きな音に身が縮こまった。いつもなら大したことないんだろうけど、ここの空気がちょっとねえ。

 いわゆる、出そう。


「なんか用でございますか」

「うわっ!」


 扉から出てくると思ったら後ろから! 誰もいなかったのに!

 なんて普通の驚き方をしてしまったのだろう。恥ずかしくなってきた。


「ああ、あなたか」


 振り返って声の主を確認するが、期待した顔ではなかった。紫さんじゃない。

 向こうは私を知っているような素振りだから、紫さんのお友達? この人が屋敷の幼女?

 でもどう見たって幼女じゃない。顔のシワに年季が入った、立派なオバサンだ。女の行く末って雰囲気がジワジワ漏れている。


「誰ですか?」


 私の問い掛けは、訪ねてきた人の言葉としてはおかしい。立場が逆だ。

 なのにオバサンは大らかな笑い声をあげて、私の肩を叩きまくってきた。どうして年取るとやたら触ってきたり、笑い方が「あっあっあっあっあ」になるんだろう。


「まあまあ、中にはいんなさいな。知らん仲じゃないんだし」

「え。ちょっと」


 叩かれて何ミリか沈んでそうな私の肩を、今度は両手で鷲掴み。そのまま建物の中に連行だ。

 年取るとなんでこんなに強引になるんだろう。


 っていうか誰なの!





☆秋姉妹的いけめん

「静葉です!」

「穣子です!」

「穣子、男をオトすいけめんの似顔絵よ!」

「この世のものじゃない!」

「コレを東風谷さんに渡せば完璧よ!」

「東風谷さんなんて、なんで他人行儀なの!」

「女の人間関係は複雑なの」

「やめてよ! そんな現実見たくない!」

「だからこそ! このいけめんを渡して! 幻想に身を任すのよ!」

「そんな生命体じゃむりだよ!」

「あっ」

「……」

「……」

「……」

「破いたわね」

「お姉ちゃん、隠し持ってるのも渡してね」


あとがき

これ以上間が空かないように頑張ります。


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