↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/16

わたし、きれい?!


 人生で一度くらい、誰かに囲まれてみたかった。


「ねえねえ、陰野(いんの)さん今日の実験どうだった?」


「一緒にご飯食べに行かない?」


「ひかり先輩、この論文について教えてください!」


 そんな青春を、私は一度も経験したことがない。


 (私、一応、女子なんだけど?!)


 大学では、いつも一人。


 大学院に進んでからは、さらに一人。


 別に友達がいなかったわけではない。


 ・・・


 (嘘です、友達いないです)


 でも、必要最低限の会話はしますから!!


 研究室で、


「おはようございます」


「お疲れ様です」


「このデータ、共有フォルダに入れておきました」


 これくらいは言える。


 (てか、誰でも言えるだろ!)


 問題は、その先だった。


「今度、みんなで飲みに行くんだけど――」


「……あ、はい」


「来る?」


「……」


 行きたい。


 ものすごく行きたい。


 でも。


「……ちょっと予定が」


 嘘だった。


 予定なんてない。


 家に帰って、コンビニ弁当を食べながら動画を見るだけだ。


 それが私の人生だった。


 私は、根暗な理系大学院生だった。


 研究テーマは、魔法――ではなく、もちろん現実の科学。


 朝から晩まで実験して、論文を書いて、学会に行って、帰宅する。


 そんな毎日。


 そして私は、ひそかに思っていた。


「……異世界に行きたい」


 疲れていたのだと思う。


 魔法が使えて。


 魔物がいて。


 エルフがいて。


 ドラゴンがいて。


 そして何より――


 私でも、何者かになれる世界。


 ・・・


 (なれなかったらどうしようね!!)


 そんな世界に行けたら。


 今度こそ。


 人生が変わるかもしれない。


 ひとりでボケて。


 (心の中でツッコんでさ・・・)


 こんな人生、変えたいよ。


 そう思っていた。


 だから、その日。


 研究室からの帰り道。


 信号が赤に変わった瞬間。


 私は空を見上げた。


「……異世界転生とか、しないかな」


 そして――


 世界が暗転した。


     ◆


「……ん?」


 目を開ける。


 知らない天井だった。


 いや。


 天井というより、石造りの洞窟だった。


「……?」


 起き上がる。


 身体が軽い。


 そして、何かがおかしい。


 長い髪が肩から流れ落ちた。


「……髪?」


 私は髪をつまんだ。


 銀色だった。


「…………」


 おかしい。


 私の髪は黒だった。


 しかも。


 視界の端に手が見えた。


 細い。


 白い。


 そして――綺麗だった。


「…………?」


 慌てて立ち上がる。


 目の前に水たまりがあった。


 そこに映った自分の顔を見て――


「…………」


 絶句した。


「誰?」


 銀色の髪。


 透き通るような肌。


 整った鼻。


 大きな瞳。


 どう見ても美人。


 いや。


 美人なんて言葉では足りない。


 **超美人だった。**


 (まさか・・・!)


「…………」


 私は水面を覗き込んだ。


 右に動く。


 顔も右に動く。


 (まさかまさか!!)


 左に動く。


 顔も左に動く。


 頬をつねる。


「痛い」


 夢じゃない。


「…………」


 心臓が跳ねた。


 もしかして。


「私……」


 異世界転生した?!


     ◆


 そこからの記憶は、ほとんどない。


 洞窟を出る。


 知らない森。


 知らない動物。


 そして、空を飛ぶ巨大な生物。


「……ドラゴン?」


 私は木の陰に隠れた。


 ドラゴンが遠ざかるまで待つ。


 そして、震えながら呟いた。


「……本当に異世界だ」


 どうやら私は、異世界に転生したらしい。


 (死後の世界かも・・・!?)


 しかも。


「魔力……ある」


 手を伸ばす。


 すると、指先に小さな光が灯った。


「……」


 消える。


 もう一度。


 光る。


「……」


 思わず笑った。


 (E・◯じゃん!! ひとり◯・Tじゃん!!)


 初めてだった。


 自分が特別な存在になった気がした。


 科学しか知らなかった私が。


 魔法を使える。


 そして、この顔。


 この容姿。


「……もしかして」


 私は期待した。


 もしかすると。


 今度の人生は――


 人気者になれるんじゃないか?


 街に行けば、みんなが振り返る。


 男の人から声をかけられる。


 友達ができる。


 女の子たちからも憧れられる。


 そして、気づけば私は――


「……」


 想像した。


 大勢の人間に囲まれている自分。


「…………」


 無理だ。


 想像しただけで胃が痛くなってきた。


 知らない人に囲まれて。


「お名前は?」


「どこから来たの?」


「魔法、見せて!」


「一緒にご飯食べませんか?」


「…………」


 無理。


 絶対に無理。


 私は木の陰から出られなくなった。


「……」


 超美人。


 圧倒的な魔力。


 異世界で希少な存在。


 これだけ条件が揃っているのに。


「……人と話すの、怖い」


 前世から何も変わっていなかった。


     ◆


 数時間後。


 私は森の奥に、小さな小屋を見つけた。


「……誰もいない?」


 (こんなの、絶対なにか起きるじゃん!!)


 慎重に中へ入る。


 机。


 本棚。


 薬品。


 そして――


 大量の古い魔導書。


「……」


 私は本を一冊手に取った。


 文字が読める。


 どうやら転生時に、この世界の言語は理解できるらしい。


 (出たよ、異世界特有の御都合主義!!)


 (私が何百時間かけて英語マスターしたと思ってんだ!!!)


 (まぁ、それはさておき・・・)


 ページをめくる。


「魔女について……?」


 そこには、こう書かれていた。


 (めっっっちゃ、嫌な予感するんだけどっ!!)


 ――魔女。


 かつて世界に存在した、強大な魔法使いたち。


 しかし、数百年前。


 最後の魔女が姿を消した。


 以来、この世界に魔女は存在しない。


「……」


 私はページをめくった。


 さらに、こう書かれていた。


 ――ただし、一部の者は今も信じている。


 魔女は滅びていない。


 どこかに生き残っている。


 人知れず、この世界を見ている。


「……」


 私は黙った。


 そして、自分の手を見る。


 銀色の髪。


 異常な魔力。


 見たことのない魔法。


「…………」


 まさか。


 私は立ち上がった。


「……私」


 この世界では――


 **異端児なのでは?**


 その瞬間。


 小屋の外から声がした。


「――誰かいるのか?」


「!」


 人。


 私は反射的に本棚の裏へ隠れた。


 (ベタすぎる!展開がベタすぎるぞ!!)


「……」


 足音が近づいてくる。


「誰だ?」


 ドアが開く。


 男の姿が見えた。


 私は息を殺す。


 男は小屋を見回した。


「……誰もいないか」


 そして、机の上に置かれた本を見つける。


「魔女の書……?」


 男の顔が青ざめた。


「まさか……」


 私は本棚の裏で震えていた。


 男が呟く。


「魔女が……まだ生きている?」


 その言葉を聞いた瞬間。


 私は思った。


「……」


 やっぱり。


 この世界で私は――


 とんでもない存在になってしまったらしい。


 そして。


 人見知りの私の異世界生活は。


 誰にも見つからないように、ひっそりと始まった。


 ――本人だけは、そのつもりだった。


 (本人だけはってなに!?本人だけは!って!)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。