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53-15 夏島開拓5日目 グミとイカの眠る島 - 二郎系 -

 それから日が高く昇って昼過ぎ、みんなで炊き出しをわいわいと食べていると、ヘキサーさんがただならぬオーラを放ちつつやってきました。


「えっ、急に何っ、ひぃごめんなさいっ、どうしてもドロポンが一緒にお風呂入りたいって言うから、ついつぶらな瞳に負けて、勝手に入浴しました!!」

「……はい? それは一体なんの話ですか、オーナー?」


「あれ、違ったー? あーよかったー……いやさ、温泉行こうぜ! ってこの前ドロポンを誘ったら、なんか100匹くらい付いてきちゃってさ……」

「ああ、やけに湯の水かさが減っている日がありましたが、オーナーたちの仕業でしたか」


 良かったです。どうも怒ってるわけじゃなかったらしいです。

 ヘキサーさんって、デフォでただならぬ気配を放つので、怒ってるときとそうでないときの区別が付かないから、つい……。


「それにドロポン様は、アルブネア領の神も同然の方です。いつでもお越し下さいとドロポン様にお伝え下さい、オーナー」

「わかった、ドロポンは温泉が好きだからきっと喜ぶよ。で、結局なんの話だったの?」


「は! まずはこちらをご覧下さい、オーナー!」


 ヘキサーさんが敬礼と共にかしこまって、続いて何かを取り出しました。

 それは笹の葉です。それを開くと、中からよく見知った物が現れていました。


「こ、これはっっ、食い尽くしたはずの酢蛸さん次郎!? いや、これは違う、この色つやと、香りは……」

「はい、これは私が酢蛸さん次郎を参考に再現した、名付けて、酢蛸さん三郎です」


「いや三郎(サブロー)って、そこはもうちょっと名前ひねった方がよくねー? じゃなくて、凄い、なんて再現力だ!」

「恐縮です。では、オーナー、早速試食を……」


「それはいいけど、なんで俺?」

「はっ、オーナーはこういった物の第一人者と聞きましたので、是非にご意見を」


 ヘキサーさんが劇画調の凄みを放ち始めました。

 ちょっと怖いので、ただちに笹の葉から酢蛸さん三郎をつまんで、一口かじります。


「おお……これは……」

「どうですか、オーナー!」


 美人で厳しい鬼軍曹エルフの眼孔が俺を睨みつけます。

 怖い。怖いけど美味しい。人工甘味料のない世界で、見事にもあの味わいを再現し切っていました。


「嘘、どうやったのこれ……? 美味しい。というより、そのまま過ぎてビックリだ……」

「はい、イカナッツの実と、グミの実を使わせていただきました」


「ああなるほど、その手が――ってうわっ!?」


 ところがそこに、いつもの腹ぺこエルフたちが10名ほどが大集合していました。

 さっきからチラチラチラチラチラッと、彼女たちがこっちに目を向けていたかと思えば、完全包囲。完全包囲!


 獲物を見つけたハイエナより物欲しそうに、俺の手元を見つめています。わぁ、グルグルと俺の周囲を回り始めた……。


「ソワソワ……」

「ワクワク……」

「なにそれ、なにそれ……」

「甘い? それ、それも甘い?」


 食べかけの酢蛸さん三郎を笹の葉に戻しました。


「あの、ヘキサーさん……俺もういいんで、ご同胞に、分けてあげて下さい。俺の味覚が正しいとは限らないし?」

「はっ、オーナーたっての願いならば喜んで」

「わぁぁ~!!」


 ヘキサーさんはもう三枚ほど持ってきていました。

 それらを人数分に分割して、一人一人に手渡すと、エルフちゃんたちは堪え性なくも一斉にがっつきました。


「美味しい美味しい!」

「酸っぱくて甘い!」

「好き! 温泉街の、銘菓になる。これは保証する!」


 同胞からの絶賛に、滅茶苦茶厳しい人ヘキサーさんの口元が小さく緩みました。

 鬼曹長にも人の顔、みたいな? 微笑みを見せるヘキサーさんは、少しだけかわいくさえ見えました。


「よかったね、ヘキサーさん。少し個性の強い食べ物だから、最初は宿の食事で提供してジワジワ広げればいいんじゃない」

「はっ! どうやらがんばったかいがあったようです! しかしこのイカナッツの木、温泉街でも栽培できないものでしょうか」


「それは止めとこうよ。だってイカ足生えた木とか、見た目不気味過ぎで客が逃げるって」

「それはそうなのですが……。残念です……」


 イカナッツの問題は、樹木から生えるその触手であり足です。

 うにょうにょとゆっくり蠢くそれは、味を知らない者からすれば、魔界に生える悪魔の木そのものでした。


 じゃあこうしましょう。

 木を隠すなら木の中。せっかくイカナッツの実が好評なことですし、新種の合成樹木を作ってしまえば、その分だけイカがかすむはずです。


 というか、具体的にやることもうなくて、すっかり暇だし?

 今度暇そうなやつらを捕まえて、新種の変な樹木を増やすことにしよう。


 その中からまともに食えるものが生まれるかもしれない。

 そう心に決める俺だったのでした。


 んーー……しかしイカの次となると、タコかな?

 いや何考えてんだ俺。魚介から離れないと、どんどん島がカオスになってくじゃん……。

 イカとタコが木から生える不思議の国(ワンダーランド)とか、ちょっと面白いけど時代を先取りし過ぎだっての!



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