53-15 夏島開拓5日目 グミとイカの眠る島 - イカナッツの木 -
この日、錬金術による一通りの持ち回りが終わりました。
後はスタミナポーションを増産して、労働者の体力をドーピングしたり、どうでもいい指示を出すだけの、これといったイベントに欠ける日々の始まりです。
もちろんグミの木の植林も順調でした。
まだ実を付けていませんが、腹ぺこエルフたちにより蹂躙された森に、グミの木と強化ココナッツという緑が生まれていました。
ただ問題は、ダリルお気に入りのイカナッツの木です。
今朝育ったそれが、ちょっとした騒ぎを引き起こしました。
なんと高さ2mほどの若木から、イカの足が生えてきたのです。
それがウネウネとうごめいて気持ち悪いので、というか超怖いので、やっぱり切り倒そうかと、物議を醸し出すことになりました。
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「あんな邪悪な木は、地上から抹消するべきよっ!」
「はい、リィンベルに同意です……。兄様の作品の一つとはいえ、あんなもの、この地上に……存在する価値があるでしょうか……。いいえ、断じてありません」
「あの、ご主人様、あれは見た目が少し、悪いのではないかと」
「たーおーせ! たーおーせ! たーーおーーせーー!」
イカナッツの伐採賛成派、リィンベルおよびエルフ衆、あとアインスさんにアクアトゥスさん。
木の実は甘いべきだと、断じて譲らない方々でした。
「何言ってんの美味しいじゃん! 一日の労働の後に、イカナッツとお酒でキュゥゥ~、ってやるのがいいんじゃん!」
「いよっ、よく言ったぜ鍛冶師のねーちゃん! ただ甘いだけのグミとかと違ってよ、イカナッツは食材なんだよ食材! 細く切って油で揚げるとな、これがまた美味いんだぞ!」
「そうだそうだ! ボスの言うとおりだ!」
「やはりイカこそ至高だ!」
伐採反対派、ダリル及びヴァルド街のシウムと、その配下のヤクザども。今や元ヤクザと呼んだ方がいいのかもしれん。
イカナッツには食材として、おつまみとして、無限の可能性があると譲りませんでした。
「アホな言い争いしてないで仕事しろよ、お前ら……」
そんで、どうでもいい派が、俺。
木からイカ足くらい生えてもいいじゃん。
「アレクはどっちの味方なのよっ!?」
「ムダムダッ、アレックスの好みはどっちかというと、ダリルちゃん側だよね!」
「兄様、味はともかく、アトゥは見た目が禍々しいのも大きな問題だと思いますっ!」
「おいおいお嬢ちゃん、あれはイカの木なんだからよ、足の数本くらい生えるだろっ!」
なんで俺巻き込まれてんだろ……。
けどこのままじゃ仕事が進みません。
朝っぱらから伐る伐らないだの、一触即発の緊張に夏島が支配されていました。
「なら食ってみればいいんじゃね……」
そこで木から生えるウネウネした足を、ウィンドカッターで切り落としました。
さらにそれを下級の炎魔法であぶり、俺は毒味なんてしたくないので、ダリルの口に押し付けました。
「わっ、あちち……はぐはぐ……。あっ……これっ、うんまぁぁぁぁーっっ♪♪」
「おいずるいぜ、こっちにも分けろや!」
なら勝手に焼けと、俺はイカナッツの木からさらに足を切り落としました。
お嬢たち甘味組みは信じられないという顔で、こっちに目を見開いています。
「騙されたと思って食べてみなよ! イカなのに磯の香りがないのが軽い違和感だけど、コリコリしてて、甘みが普通のより強くて、超美味い!」
しかしダリル(大胆水着)が本当に美味しそうに食べるものだから、エルフたちの顔色が少し変わりました。
甘み、という部分に反応したらしいです。
そこで新たにイカナッツの木からイカ足を刈って、再び魔法でジュワーッと炙ります。
それを軽く俺もかじってから、アクアトゥスさんに差し出します。
「はい、アクアトゥスさんも食べてみなよ」
「ぁ……兄様の、食べかけ……いいえっ、唾液付き!」
「はいはい、思っててもそういうのは隠しておこうねー」
「わかりました兄様! アトゥの主義には反しますが、イカナッツの足ではなく、兄様を食べるつもりでいただきます!」
「うん、人前でそういう言い方止めよう。変な誤解されるじゃん……」
アクアトゥスさんがイカ足に小さくかじり付いて、モゴモゴとほおばりました。
すると笑顔があふれます。
さらに口へと運んで、もう顔だけでこれ超美味しいって言っていました。
「美味しいって、本当?」
「甘い? イカナッツは、甘い?」
「イカ臭くない?」
するとエルフたちもそわそわと食欲に負け始めて、自分たちで木からイカ足を魔法で落として、ちょうどあった流木を火種に炙りだしました。
「あ。意外……イカナッツ、美味しい……」
「甘い、甘い。グミとは少し、違うけど、ああっ、甘くて美味しい……」
「イカ臭くない!」
手のひらくるりんってやつです。
こうして伐採派は、イカナッツが意外と美味しくてほんのり甘いとわかるなり、その矛をいとも簡単に収めてしまったのでした。
「驚きました。これが、イカの力……」
「あたしたちが望んでる甘さと少し違うけど、確かに美味しくて、食べごたえがあるわね……」
というより、目の色変えたエルフちゃんたちの胃袋が、このままじゃイカナッツを食欲のままに滅ぼしかねないので、急遽保護することになったとも言う。
イカナッツの密漁する者、お菓子食うべからず。
島のあちこちに、そんなおかしな看板が立つ日もそう遠くなかったのでした。
書籍の続巻が決まりました。2巻出します。
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