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53-7 はじまりにエルフはこう言われた 乳よあれ

 ああ、気乗りしねぇ……。

 なんで貴重な素材とzを消費してまで、アインスさんはともかくグリムニールさんからちっぱいという個性を消さなきゃならないんでしょうか。


 わかってない、この人たちわかってないよ、自分の魅力をさ!


「エルフといえばちっぱいじゃん……。なのに巨乳って、間違ってるよ絶対、間違ってるよ……」


 ちなみにアインスさんはさすがに店に戻りました。

 しかしその代わりに、お嬢が営業から帰ってきてしまったことで、DNAの螺旋構造より話がこじれることになったのです……。


「生命のリンゴね。わかったわ、すぐに買ってくる」

「そんなコンビニ行ってくるみたいな感覚で言われても……。前は入手に苦労したやつだよ、簡単に手にはいるわけがないでしょ」


「あたしのコネを舐めないことね。この劣等感をもう一度覆せるなら、あたしは神だろうと悪魔だろうとアレクにだろうと魂を売るわ! 待っててアインス、グリムニール様!」

「ちょ、ちょっと待ったお嬢っ、もう少し自分の胸元を見て、冷静に……」


 そう言われてお嬢は自分の胸を見下ろしました。

 ほらそこに現れるぷりちーなお洋服、そして大草原のようになだらかな地平線をごらん。


「決意が固まったようじゃな……」

「えっ、そんなバカなっ!?」


 なぜ己の持ち味を生かさない。

 人の資質というのは、望んだ方向にばかり開花するとは限らんのだよ君たち!


 つまり何が言いたいかというと、お嬢はちっちゃい方がかわいいからそのままの君でいて欲しい!


「ええ、こんなこともあろうかと、店の売り上げをプールしておいたの。それでどうにかしてみせるわ」

「イヤイヤイヤイヤイヤッ、色々聞き捨てならないんだけど、色々!」


 信じて任せた帳簿に、ロリエルフの裏金が隠れてました。

 それがおっぱいなんかに消えるのか……。無情だわ……。


「アレクの浪費癖が酷いから隠しておいたお金があるのっ、それを使うだけよっ!」

「それこそ浪費じゃん! 止めてお嬢止めてっ、その慎ましげなサイズじゃないとやっぱりお嬢はお嬢じゃ……あっ待ってっ待ってお嬢っ、お嬢は貧乳が一番、貧乳第一、貧乳じゃないお嬢はお嬢じゃないよ!」


「ヘラヘラ笑いながら、いつもダリルのおっぱい見てるあんたが悪いのよぉっ! これ以上にみんなが納得するお金の使い方も、ないわよっ!」


 そう言ってお嬢が店を出て行っちゃいました。

 ちゃっかり白いレウラを一匹連れてな……。



 ・



 でまあ、しょうがないからグリムニールさんとダリルとお茶すすってました。

 欲しいと思ったところで簡単に手に入る物ではありません。


 なのでまったりと、ゆっくりと、他愛のない世間話に花を咲かせたのです。

 ところがお嬢が一時間もしないうちに帰ってきました。


 よりにもよって、材料である生命のリンゴを右手にな……。


「ねぇ、恐いからあんまり聞きたくないんだけど……でもやっぱ聞かなきゃな。それさ、いくらしたの……」

「安心しなさいよ、思ってたより安く手に入ったわ」


「それは良かった……。えと、ちなみに、お値段はいくらですか……?」

「ほんの120000zだったわ」


 え……それ桁間違ってない?

 ていうか、そんなに店の売り上げ隠し込んでたの……? お、お嬢……。


「なにやっとるぎゃぁおみゃぁっっ?!」

「何語よそれ……」


 でっかい買い物過ぎる。なのにやつらには迷い一つない。

 乳こそが富なのだと勘違いをしている。だがしかしそれは間違いだよ、なぜそこまで乳を求めるのだ乙女たちよ……!?


「うむ、見事だ。我の知る相場より4割近くも安い。さあ材料はそろったのだろう、作ってもらおうか、我らの明日をな……」

「あ、えと、ああでも、前はアクアトゥスさんの薬の効果を強化して作ったんだよね……。そのレシピを、知らなかったり……」


 ところが店の入り口がチリンと鳴り響きました。

 どういうことなんです……。俺をハメようとしているのですか?

 アクアトゥスさんがエンカウントされました……。


「その薬とは、これのことですか兄様?」

「ああそうそうこれこれ、出てくると困るヤツ――って何でいるしっ?!」


「レシピは把握しておる。我がレウラに命じて呼んだのだ、ククク」

「くっっ……こんなはずでは……」


 妹さんとお婆ちゃん(オリジナルのお嫁)に左右をがっちり拘束されて、ここはロズウェル? いいえ錬金釜の前に連行されました。


 リィンベルに杖を持たされて、錬金釜の底に杖先を突きました現在進行形。

 俺の意志に反して、彼女らの手により薬剤が次々と投入されてゆく……。


 これによりアクアトゥスさん、グリムニールさん、俺のトリプル錬金によるスーパーサ○ヤ人2的な増強剤が完成しました。


 で、それを使ってアクアトゥスさん懐かしの効果が薄くて悲しい増強剤の効能を、スーパーに強化させられたのです……。


 上達を感じたよ……あっさり完成しちゃってました……。


「うふふっ、やったわ、ついにやったわみんな!」

「長かった、本当に、今日という日まで、長かったです……」

「私たちの勝利ですお婆様。私たちはついに、あの摩天楼を取り戻したのですね……!」

「クククッ、成功したら、一度キエの前に顔を出さねばならぬな」


 彼女たちははしゃいでおられました。

 けど急にシラフに戻ってなんか怖い。俺を取り囲んで、無言の注目を向けてきたのです。


「兄様は確かに天才です。ですが、アトゥは別に、信じていないわけでは、ないのですが……」

「うむ、自分の身体で実験するのは、いささかの躊躇があるな……」

「はい、では私が、実験台に、なります」


 薬が完成するなり、アインスさんがちゃっかり店の方から戻ってきていました。

 けどね、アインスさんで人体実験はできないな。


「困ったわね、どこかに都合の良い事件台はいないものかしら……」

「作った自分で言うのもなんだけど、いるわけねーだろ……」


 ちなみにダリルはあまり興味がないようで、今はドロポンと睨めっこしていました。

 で、ちょっとなんか横を見たら、グリムニールさんがレウラを抱いています。


「キ、キェ……ッ!?」


 レウラもドロポンも言葉がわかります。

 レウラは悲鳴を、ドロポンは震えて警戒しました。


 それはちょっと勘弁して欲しいそうです。


「ダメよ、人間やエルフじゃないと実験台にならないわ」

「でしたらダリルが飲むというのはどうでしょうか」

「ちょーっ、ダリルちゃんをおっぱいお化けに改造する気かーっ、そんなのお断りだよ!」


 できたは良いが、誰も試したがらない。

 うっかりミスで性転換したり、ムキムキになったり、大変なことになるのがいつものパターンだしね。


「すみません。あれ……誰もいないんですか……?」


 そこに間の悪い来店客です。アインスさんがやむなく応対に出ると、なんか戻ってきて、ここにあのマハ公子を連れてきちゃいました。


「あっ、アレクサント先生、すみませんつい目の前を通ったので、つい遊びに来ちゃいました……。あの、もしかして、今はご迷惑でしたか……?」


 おお、神よ……なぜこのタイミングでマハくんまでエンカウントされますか?

 ダメだ、マハくんにだけはこの薬の存在を隠さなければならない……。


 何か、大いなる勘違いに発展する可能性が、エスプレッソより濃厚に香っている俺は断言する!


「あのねー公子様、今おっぱい大きくする薬ができたとこなんだよーっ、すごいっしょ!」

「ダリルッおまっ、バラすなよっ!?」


 彼の反響を述べよう。男の娘はまず黙り込みました。

 それからなぜか、アレクサント先生を凝視しつつ、そこにある薬瓶を交互に見つめるのです。


「あのねマハくん、まだこれ実験段階だから効果がわから――」

「飲みます」


 なぜその結論に至ったのか、それがわからない。

 つまり俺は海よりも深く困惑し、マハくんに秘められた、けして気づいちゃいけない心変わりを察しました……。


「ま、マハくん……? え、飲むって、男なのに飲むの? なんでそんな、迷い無き目で俺を見つめられますか? これおっぱい膨らむ薬だよっ!?」

「うむ……さすがに次期大公で実験するわけにはいかんだろうな……」

「そうですね……。渡りに船ではありますが、そのくらいならば、共同制作者である私たちが……」


「うんうん、そういうわけだからこの話は無しで」


 ダリル以外は信用しちゃいけない、みんな正気を失っています。

 だけどマハくんが乳を求める理由がわからないし、理解しちゃいけない気がするし、気づいたら取り返しの付かないフラグが立ちそう!


「いいえ、次期大公命令です。魔侯アレクサントよ、ううん、先生……どうか、ボクで実験してください……」


 実験。その単語にはそこはかとなくアブノーマルな響きと、情熱が入り交じっていました……。


 次期大公で実験するバカがどこにいるよっ! マハくん、よくわかんないけどそれだけは絶対ダメだってば!


ごめんなさい。平行連載の方に、また誤投稿していました!

書籍化作業順調です。読みがいのある仕上がりですので、発売したらぜひ買って下さいませ。

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