53-1 夏島を探しに行きたい……けど仕方ないから後始末します
前章のあらすじ
全てが終わったかと思われた。しかしウルカの口より、公都の陥落という急報が告げられる。
ウルカの正体は、かつて遅れてこの世界に逃げてきた地球の一派、その末裔。ウルカは自らの正体を明かし、無線技術を用いて仲間から情報を得たと保証する。
母国を救うためにレウラの飛竜艇が大海を越える。
そこでアレクサントらのチームは公国ではなく、フレス・ベル州に向かい表方の仲間たちと別行動を取った。
迷宮管理者と接触し、再び公都異界化を引き起こして都を奪還する作戦だった。しかしその決断は思わぬ結果を招く。
迷宮を下ると通路がねじれくねり、他の迷宮との混線を引き起こしていた。
そこで最後の古なる者ロゴスに支配された冒険者とダークエルフに遭遇する。
そこから導き出された結論は、ロゴスの狙いは迷宮そのもの。眠れる者との接触だった。
その後アレクサントは疲弊した仲間と別れて先行して、ついに最下層550層に到着した。
奥では古なる者ロゴスの軍勢と、迷宮管理者率いる迷宮のボスクラスたちが死闘を繰り広げている。
アレクはスタッフオブドロポンの超魔力と、教頭のヒステリーパワーでまとめて全てを吹っ飛ばした。
侵略側が一網打尽にされたことにより、危機を脱したように思われたがしかし、操られたポロン公国大公が現れ、眠れる者へと通じる扉を開いてしまった。
その後を追い、2人が禁忌の寝所に入り込むことになる。
アレクがあと一歩のところで大公様を止めると、彼の背後にロゴスのクイーンが現れた。
ロゴスのクイーンはリィンベルの母親だった。
その母の身体を借りて、自我を持った古なる者がアレクに問いかける。自分たちは必要か?
欠陥があるのは人間。生物であるがゆえに他者を欺き利用する。それが彼の選んだ返答だった。
最後の古なる者、アレクサントの宿敵は、地上最高の錬金術師に願った。
ならば自分を、完璧な生命の輪に作り替えてくれ。そうすればリィンベルの母親を返す。
アレクは復讐と和解の間で葛藤するも、最後には応じる。交換条件として、ロゴスが気づいてしまった世界の秘密を自分に明かすことを条件に。
この世界の秘密、それは、眠れる者に願い事をした愚か者がいたということ。その男の名はアレクサント、彼こそが眠れる者に偽りの物語をささやいた詐欺師だった。
・
これはもう1つの世界で起きたこと。
本当の正史では、ヒルデガルド連邦の侵攻でアルフレッドとアシュリー、ダンプが戦死していた。
マハ公子は存在せず、代わりに別の公子が世継ぎ候補になっていた。
仲間の喪失に嘆くアレクにさらなる不幸が訪れる。
大切な家族を死に追いやったことをアインスが深く気に病み、彼女は錬金釜の中に身を投げてしまった。
追いすがったアレクサントの右腕と共に。
そんな最悪の結末に絶望した彼は、2人目のアインスをホムンクルスとして生み出すと、禁忌を侵すことに決めた。
全てを裏切って眠れる者の寝所に忍び込み、失意のアレクサントはこう願った。
こうしていつまでも、いつまでも、幸せに暮らしましたと。
・
物語の語り部、もう一人のアインス・ガフの真実。
彼女は枝分かれしたもう1つの世界の存在。自らが生み出した水鏡を用いて、分岐したもう別の世界を見つめている。
アレクサントが娘として彼女を受け入れ、古なる者に偽りの夢を願わなかった世界から。
彼女は全てを知っている。アレクサントの右腕とアインス・ガフの全てから生まれた彼女は、全ての真実を知っていた。
・
リィンベルは死んだはずの実の母親と再会した。
アレクサントは己が古なる者の夢に介入し、果てのない日常の続く世界を望んだことを思い出し、今の形を受け入れて都合の悪い記憶を消し飛ばすことに決めた。
彼らはもう1人のアインス・ガフに見守られながら、いつまでも、いつまでも、幸せに暮らしていったのだった。
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すげぇ今さら本題思い出した そうだ夏島に行こう!
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53-1 夏島を探しに行きたい……けど仕方ないから後始末します
人生ってそれそのものが蛇足みたいなもんです。
お話の中みたいに、現実では都合良く時間がポンッと飛んだりしないのです。
ハッピーエンドを迎えたかと思ったらその後に新たな試練が待ちかまえている。
これが現実、俺は後始末に奔走するはめになりました。
まず何よりも先にやらなければならないことがあります。
最後の古なる者、人類意思統合システムを壊したと言いましたがあれは言葉のあやです。
「はぁ……やっと見つけた。居場所くらい把握してしときなよ、せんせ……」
「その件については言い訳しないよ。だってコイツはチェックメイトを済ませた後の最後の最後に、チェス板をひっくり返す作業みたいなもんだから」
「とか言いながら言い訳してんじゃん……」
「まあそうとも言うな」
最後の個体、俺のオリジナルを群れの長にしようとした個体、ソイツの居場所を特定しました。大魔境と呼ばれる公国領の南側です。
いくつもの未攻略エリアを飛び越えた遙か南の果て、そこにある迷宮の入り口で、そいつは一身上の都合により動けなくなっていました。
「それより付き合ってくれてありがとな、ウルカ。さあやってくれ」
「いいの? 今のせんせーってさ、その気になれば世界征服だってできちゃうよ? 現に大公様とか――」
「いや世界征服なんてしても楽しくもなんともないでしょ」
「まーそうだけどさ、統一政府が生まれたら今より世の中良く……なんて考える頭、せんせーにはないか……」
情報源はリィンベルのお母さん、正式名称ナザレア・カーネリアンさんです。
目の前の壊れかけ、スクラップ同然の最後の標的を見れば、もう想像力なんて要りません。
「そうやって欲張ったこと考えるから世界が荒れるんだよ」
「よく言うよ、せんせーの業突く張りがさ~」
俺のオリジナル、オールオールムをシステムの中枢に選んだこの個体は、俺たちの時代ではもはや哀れな敗北者だったのです。
眷属のほぼ全てを奪われ、最果てに追われ、身動きが取れなくまで破壊されていました。
古なる者はただのシステム、眷属無しで己を修復することはできません。
「いいから早く壊せよ、これで真のハッピーエンドなんから」
「ま……これでボクの古巣も納得するかな。そのためにボクを選んだんでしょ?」
「違う違う、対物ライフルが一番似合うような気がしただけ」
「ホント失礼な人だよね……じゃ、耳塞いで、撃つよ」
轟音で鼓膜が破れたら大変です。
言われた通りに俺は耳を塞ぐ。それからついでに言っといた。
「やさしくなったもんだなウルカも」
「あんま調子乗ってるとマジで刺すよ」
手製の耳栓を用意しておいたようです。
それを耳に詰め込むと、ウルカは古代人キルケゴール・アダムの遺産を使って、最初にしてトドメの一撃を放ちました。
こうして金属と電気回線で作られたドクロの怪物、つまり最後の古なる者は銃弾から放たれる電撃に内部回線を焼かれました。
それでもしばらくは眼孔から赤い光を点らせては途切れさせていましたが、どうやら完全に壊れたようです。
「ボクらのご先祖様たち、今ごろ喜んでるかな……」
「わかるわけないことを俺に聞くなよ」
「せんせーこそ少しくらい感傷に浸りなよ。その返し超つまんない」
つまんなくて結構、これで俺たちの残業は終わり。
古なる者の呪いと特別な力を受けながら、その支配を脱した例外な存在、魔王という存在はこれで世界から消えてなくなりました。
しかし、あれ……体が……。
ところで急なめまいを覚えました。視界がノイズいっぱいになって前が見えなくなった俺は、地へとうずくまる。
いや、ある程度これも予想していたことだったんでした……。
「せんせ、どうしたか知らないけど、いま隙だらけだね……今なら殺せそう、せんせーを」
ただこっちの方は予想外。
乱れる視界に苦しみながら顔を上げると、ウルカのやつが黒塗りのナイフをこっちに突き付けています。
「いつものたちの悪いご挨拶かよ……そもそも、もう俺を殺す理由がないだろ……」
「じゃあ聞くけど、ロゴスをどこにやったのさ? てか大丈夫~?」
それ質問の順番おかしくね?
俺をいたわってからそれとなく聞けよ。って、んなことウルカするわけないよな。
「ウルカが俺の心配するなんて珍しいこともあるもんだね」
「ごまかしはいいから早くボクの質問に答えなよ」
「じゃぶっちゃけちゃうけど。俺、パワーダウンしたみたいだ」
「へー……」
めまいと視界の乱れが収まりました。
おぼつかない足取りで立ち上がりウルカの顔を見ると、そんなことは聞いてないと冷たい態度で腰に手を置いています。
「へー、じゃねーよ、もっと言葉とかあるじゃん。ご愁傷様でした、とか」
わかっていたのです。こうやって魔王化という恩恵を捨てれば、魔力を落とすことになると。
ですがこれは想定外です。力の喪失は鉛のおもりとなって、俺に重くしがみ付いていました。
大げさ? ごもっとも。
「今なら余裕で殺せるってことでしょ」
「どうかな、そこはやってみなきゃわからないな」
ウルカはいじめっ子です。
こういうタイプに気後れした姿や、背中を向けてはいけません。いつも通りの自然体で返しました。
「で、ロゴスはどこにやったのさ?」
「うん、あの後探し出して。溶かしたよ」
「ちょっ、はぁぁっ!? 何やってのさ!?」
「錬金釜に溶かしちゃったからもうこの世界にはいない。俺の貴重な研究素材になってもらった」
釜に溶かしたのは本当、動機は隠蔽と約束の遵守だけどね。
けどわざわざこれを誰かに言う理由はないな。
「業突く張りにもほどがあるでしょ……」
「それも今さらだろ」
「じゃあ……もうこれで、本当に終わりなんだ……」
もうこれで、ウルカの仲間たちが隠れて生きる理由もなくなります。
それがどんな結果を引き起こすやら、とか細かいことは考えないことにしましょう。俺には関係ないし。
「ってことで帰ろうよ、外でレウラが待ってるし。それにアクアトゥスさんと一緒に、夏島に行くんでしょ?」
「ちょっとせんせ、戦後処理はどうするのさ? 公都またメチャクチャにされちゃったじゃん……」
「え。それ俺がやらなきゃダメかな……」
「ダメに決まってるでしょ……ほら行くよ! 早く帰って温泉に浸りたいし!」
やっぱ何だかんだやさしくなったんだと思います。
ウルカは俺に肩を貸してくれました。せっかくなのでズッシリとそれに甘えて、俺は迷宮入り口から外のレウラの背に乗ったのでした。
完結しましたが、これからも毎週金曜日に投稿致します。
どうか応援よろしくお願いいたします。




