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38-3 ゴッドハンドでねつ造しよう! ドロポーン!

「どうでしょうか先生。我ながらかなりの穴場を見つけたつもりなんですけど」

「あらぁぁ~~あらまぁ、素敵……!」


 ねつ造名所その1、わりと絶景でダイナミックな大滝。

 水しぶきがドバババババっと飛び散って、ここ滝壺周辺をいい感じの涼み場所にしてくれています。

 その絶えぬ轟音と、飛沫となって空気中に浮遊する水、さらにはここを住処にしている藍色の蝶が光景の神秘性に拍車をかけています。


「宿から少しだけ遠いのが難ですが、無理して来るだけの価値はあるんじゃないでしょうか」

「うんうんいいわぁ~、お姉ちゃんここ好きよ~、マナがたくさんあふれてるような、気持ちぃ~感覚……。それにどことなく、聖地にも空気が似てるわ」


 好評でした。相手は宗教家、神秘的な場所に慣れっこでしょう。

 そのマナ先生が言うんだから、ここにはきっと人を惹き付けるなにかがある。と思おう。


「マナですかなるほど……。なら、ここにこんなの(・・・・)仕込んだらどうでしょう」


 俺は借り物のショルダーバックから、ひとつまみサイズの四角い箱を取り出しました。

 それは小さいですが鉛……いえそれ以上の黄金並みにクソ重い金属なのです。


「あらなにかしらそれ~」

「ええまあ見てて下さい先生、きっとお気に召しますよ。……せいっ!」


 それをオーバースローで滝壺に力いっぱいぶん投げました。

 ドボンッッとか見た目に似つかわしくない重たい物音を立てて、摩訶不思議の金属が滝壺水底に沈みます。


「ねえどうなるのっどうなるのっ早く教えてアレッきゅんっ♪ お姉ちゃん気になっちゃう……あ、アレッきゅんの……ろ、ローブのひらひらの次くらいにぃーっ!」

「なら滝壺の方をもっとよく観察しておいた方がいいですよ。あと落ち着いて下さい、真面目にアレ(・・)の売り文句を考えて下さいね」


 彼女相手に取り乱したら負けです。

 俺は冷静に付け入る隙を封じつつ、アレをもっとよく見ろと指さしました。


「あら……あらぁぁ~~、まあ不思議、すごーい……」

「実はぶっつけ本番だったんだけど……これ、わりといい感じに名所っぽくなってません?」


 いくつもの青い燐光が絶えず滝壺より天へと立ち上っていました。

 次第にそれは近辺一帯にも広がって、元から神秘的だった原生林をファンタジックな秘境に飾りたてていったのです。

 アレは精霊の輝きか、それとも青き蝶かその鱗粉なのか、とにかく女子供が喜びそうなやつに仕上がりました。


「どうですかマナ先生、あとはコレに都合の良い――ってっ!! ってっちょっ、なっなんっ、なにやってんすか現役教師ぃぃーっ?!!」

「あ、アレッきゅんの……。アレッきゅんのぱんちゅと一緒にこれ見たらもっと素敵じゃないかしらっ!?」


 そしたら先生……背後にちょっと後退したかと思ったらしゃがみ込んで、ローブをこっそりまくり上げようとされておりました……。

 予測がつかないよこの人……理性が致命的に足りない……。


「いいえ最低です、いいからさっさと考えて下さいってばっ?! ほら伝説とか神話にコレをこじつけて下さい!」

「あ。ああ~~、そういえばそのために来たのよね私~、ウフフフフフ……♪」


 マナ先生は本題忘れるプロです。天才です。

 それでもどうにか我に返って下さり、彼女は滝の方を熱心に見つめ始めました。


「うーん……そうねぇ~。その昔……ここア・ポロン公国には~、精霊崇拝が残っていたの~」

「土着の精霊崇拝ですか、そりゃなかなか良いネタですね」


 今は全然それっぽい話聞きませんし、上手いことz方向にねじ曲げやすい素材です。


「ここ近辺の人々は~、魔物の支配するこの地を~、あえて聖地と定めて……水の精霊ウンディーネを奉っていた。だからここのお水を飲むとー……、ウンディーネの加護が身体から汚れと毒を清めて、元気にしてくれるの~。……なーんてどうかしら~? 実は8割くらいが先生の脚色よ~♪」


 さすが宗教家、まかりなりにも教師、詳しいです。

 ウンディーネの加護とか良いですね、こんだけ青くキラキラしてたら心のどこかで信じちゃう。

 なにせここ、建国以来ずっと解放されることのなかった未開の土地ですし。それだけで謎とミステリーが約束されています。


「おお、それかなりいいですね。じゃああとはここまでの道を整備して、先生のそのねつ造伝説を無責任に幅広く流布するだけです。もちこのへんに看板とかも立てて」

「あらやだぁ~、お姉ちゃんねつ造の片棒かついじゃったー♪ でもいいの……お姉ちゃん、アレッきゅんのためなら……神をも拝み倒してみせるわ! 許してー、って言ったら許してくれるのが神様なのよ~♪」


 ふとレウラの姿を探したところ少し離れた川辺で水をがぶ飲みしてました。

 お前そんなに飲んで飛べるのかってくらい、バカ飲み。その飛竜レウラの隣に寄りそい、馬より大きな首筋をやさしく撫でてやると、瞳を細めて喜びの声を上げます。


「ま、ケチ臭かったり、犠牲や生け贄求めたり、やたら厳しい神様よりはいいかもしれませんね。……じゃ次のポイントにいきましょうか」

「まだ2つもあるのよね~、うふふっ次も楽しみだわ~♪」


 健康スポットの肩書きはこれで良し、次は金運仕事運です。



 ・



「あらまぁ~、ふふふっここも素敵ね~♪」


 温泉宿の裏山にそこそこ大きめの洞窟がありました。

 ここは俺じゃなくてウルカとアトゥが遊び感覚で見つけた場所です。

 なんとその中に入ってみれば鍾乳洞が……! あったら良かったんですけどさすがに無かったそうな。


 ただ結構穴が幅広く深いんで、なかなかのアドベンチャーごっこを楽しめます。

 ならその最深部に何があるかと言えば、ただのどんづまりと水たまりがあるだけでした。

 いいやこれは地底湖だ、うん、そういうことにしておこう。ってことになってます今。


「どうですか?」

「ドロポンちゃんがいるわっ! あれってそうでしょ~、こんなところでも会えるなんて~まあ素敵♪」


 その湖のど真ん中に新しいドロポン像を立てました。

 ただの像じゃありません、ケイ素――つまりガラスや水晶の成分を土より抽出してドロポン型に整形したものです。

 盗難されたくないのでバカでっかく作ってやりました。これ盗めたらすごいよ、バカだよ。


「作るのも運ぶのも厄介でしたよ。ちょうど周遊道が近くにあったのが救いですね」


 俺はまたショルダーバッグを漁りました。

 そこからまた立方体型の金属を取り出し、ドロポン像の裏側へと投げ込みます。


「ここにもそれを使うのね、それお姉ちゃんも好きよ~、すごく綺麗だもの♪」

「ねつ造するにもそれっぽく演出する道具が要りますでしょ、じゃないと俺働いたことになりませんし。ただし、今度のはさっきのと少し違いますよ」


 やがて燐光が地底湖より浮かび上がってきました。

 ホタルのような緑の輝きがドロポン像よりふわふわと立ち上り、洞窟内をキラキラ幻想的に照らすのです。


「ど、ドロポンくんが輝いてるわっ?! あらやだ神々しいっ、お姉ちゃん祈りたくなってきちゃった……っ! ドロポンちゃんってすごいのねっ?!」

「大げさですよ、ただ光が水晶に反射してるだけです。では、これに伝説を付け足すとすればどういたしましょうか」


 マナ先生もドロポンがお気に召したようです。

 キラキラのクリスタルドロポンが輝くさまを見つめながら、彼女は瞳を閉ざして真剣に思慮されています。これは期待できそう。


「いにしえより公国を見守ってきた、土の大精霊ドロポーンね♪」

「うわ……やらせておいてなんだけどメッチャクチャねつ造だこれ……。それ神話とか伝説じゃなくて、オリジナル設定って呼ぶやつじゃん……」


 こんなの崇めさせてどうするし……。

 大精霊ドロポーン(土)は悪意無き瞳で俺たちを見下ろしていました。

 名物化させたいがあまりに、ちょっとこれでかく作りすぎたかもしれない……。


「ドロポーンは実在するわ、私とアレッきゅんの心の中にねっ、それにほら見て! こんなに神々しいわっ!」

「うーん……どうだろ? 先生がそう思うのならそうなんじゃないですか」


 まあいいや、ドロポンは開拓地じゃ既に神同然の存在です。

 さあラストいってみよー!


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