34-6 エルフ耳とショタが水しぶきに輝く誰得展開 2/2
まあ悲しい虚栄は生暖かく見守るとして。
気になるのはマハくんのことでした。最近彼について少し思うところや、違和感があったのです。
正確に言えばその容姿、この顔がやっぱりおかしい。
男だ女だとかそういうのじゃなくて、絶対おかしいんです。なぜなら。
彼は――彼はあまりに、オールオールムの知る英雄、マハカーラ・アバロンにうり二つでした。
これってどういうことなんでしょうか。ただの先祖帰り……?
「ぁ、ぁぅ……せんせい……なんですか……?」
「…………」
ポロン公国は500年前に東の連邦から独立しました。
その建国者マハカーラは女性で、男性のマハくんがここまで似た容姿に育つだなんて絶対変です。
経緯はどうあれ過去を見た者として、そこに何か理由を求めずにはいられません。
500年後の末裔が先祖と同じ顔になるなんてあり得るんでしょうか。
血の混じり合いで面影なんて普通は残るはずないのに……一体どうして……。
まさか大公家って、アクアトゥスさんとこのヨトゥンガンド家みたいに近親婚を繰り返して来たとか……?
「だーかーらーっっ、何でそっちばっか見つめるのよもうーっ!! 暑さで頭やられたんじゃないのアレクッ!」
「せ……せんせい……ボクのことをそんなに……。リィンベルさんよりいっぱいボクを……ぁぁ……申し訳ないけどうれしい……」
ってあれ、何を言ってるんだコイツら。
「いや違う違う、マハくんにさ、よく似た人がいたなぁーって昔のこと思い出してただけ。……お嬢もかわいいよ、エルフ最高だ……エルフは胸が無い方が良いね」
「せ、先生……それはフォローになっていないような……」
「アレク……。そこの川に、沈めるわよ……心中覚悟で……。二度と上がってこれないようにしてあげてもいいんだからねもぅーっ!」
胸の大きいエルフは苦手です。
特にキエ様なんて超トラウマです。あの底知れなさ、ナチュラルビッチ、世界を競馬と勘違いしてる子孫作りマニア。怖いです。視点が人間ごときと別次元過ぎる。
「でもボクに似てる人ですか……? そういうことあんまり言われたことないんですけど……それってどなたでしょうか」
「うん、マハカーラ・アバロンって知ってる?」
あ、本人に聞くのも手ですね。
俺の出した人名に彼は不思議そうに首をかしげました。
いやだからさ、大の男の子が首とかかしげると、それだけで君はかわいいから止めなさいっ。
「アバロンっていうと大公家の人かしら。……え。それって確か……なによ建国の英雄じゃない!!」
「そうそう、それにすごく似てる。もう本人に似過ぎてて困って――あ」
そこで気づきましたよ俺。
これって喋っちゃいけないやつじゃんって。
その結果、当然ながらお嬢の疑いの目がこう言っていました。
何でお前は、そんな古代の英雄の容姿を詳しく知ってるんだ? まるで知り合いみたいなことを言うんだな。って。
「……公城で似顔絵を見たのさ。さて、じゃあ泳ぎの練習に戻ろうか」
「ちょっと待ちなさいよアレク!」
「完全にごまかすつもりみたいですね……先生なりに何か都合が悪くなったんじゃないでしょうか……あっ」
彼女らを置いて1人川辺に逃げ込みました。
するとつられて2人も後ろを追いかけて来ます。そこでその小柄な水着姿に振り返ってごまかしの微笑みを浮かべておきました。
「さっきのもう一度やろう。せめて最低限の動きだけでも覚えて帰ってもらうよ」
「やっぱりごまかしたいのね……」
「ごまかしたいみたいですね……。先生がそう言われるなら、ボクはそれで良いですけど」
マハくんは素直で良いですね。
川に向かって彼が一歩を踏み込みます。
「あっ……?!」
「えっちょっ――!?」
しかし足を滑らせろとは言っていない。
水着の彼は足下の石にまんまとつまづいて、とっさに俺がそれを抱き支えることになったのでした。
素肌と素肌が密着し、不可抗力の包容ががっちりと公子を包み込むという……黙示録。
マハ公子のか細くやわらかな身体付きがけしからん。
本当に、本当に男なんだろうかと殿下の顔を二度見してしまいます。
「は……はうぁぁぁぁぁぁ……」
赤面症なもんでもう真っ赤っかのお猿さんです。
いやいや恥じらう要素ないでしょこれー? いいや俺が有るとは認めさせない!
「あのさ、マハくんって……本当に男?」
「え……男、ですよ……?」
「うーん……本当に? そういえば確認したこと無いなー……?」
「か、確認っ?! あ、あの……あのせんせいっ、わあああーっ?!」
違うそれは俺じゃないです。
なぜかそこでさらなる不足事態が起きました。
「あらごめんなさい、あたしまでつまづいちゃったみたい」
「ちょっとお嬢、絶対これわざとでしょっ、なんでこんなタイミングで……わっ、お、おお押すなっ押すな押すなよなぁーっ?!」
お嬢がつまづいたふりして体当たりしてきたんです。
そしたら大変、3対の足と足、手と手が複雑に絡まって大パニックになりました。
「せ、せんせいっ、せんせいダメっ、そんなところ触っちゃ……うわぁぁーっ?!」
「違う俺じゃないそれ俺じゃないからーっ! って、あっ……オボボボボボボッッ?!!」
破綻はすぐに訪れました。
誰が犯人やらわかりませんけど、誰かが俺を後ろ向きに吹っ飛ばしたんです。
水中に背中からぶっ倒れて、当然ながら深いところまで沈んで、川の水が喉へと不法侵入というわけでした。
「せんせ……だいじょうぶ、ですかっ」
「ごめん……アレクッ……」
水面の上から心配とか謝罪が聞こえた気がします。
でも詳しくはよく聞き取れませんでした。
ただとある感情が先行するあまり、水中からなかなか地上に上がる気にならなかったのです。
何やってるんだろうな俺……。
こんな青春ごっこみたいなことしちゃって……ああ、大人げない……。
うーん……でも、でもマハ公子……やっぱりあの人に似過ぎている気が……お。
「大丈夫アレクッ?!」
「ごめんなさいせんせいっ、ああ良かったご無事で……」
そしたら2人の手がクレーンみたいに俺を地上に引き上げてくれました。
もう少し水中を堪能するのも良かったんですけど、小柄な2人が一生懸命がんばってくれたんです。
「って、あれ、ロドニーさんにランド監査官殿」
「心配させないでくれよアレックスくん……キミが死んだら誰が僕の厄介事を取り除いてくれるんだい」
「無事で何よりだ。……全く、報告出来ない話ばかり増えてゆくな」
ロドニーさんはおろか、休暇中の監査官殿にまで醜態を見られていたらしいです。
マハくんへの疑問は消えぬままでしたが、その後みっちりと2人にばた足のバの字を教え込んで、騒がしくて少年時代のようにみずみずしい昼を過ごし終えるのでした。
そうだ、それにすっかり忘れていた。
彼女はなぜ……。
マハカーラ・アバロンはなぜ、祖国を裏切ってまで独立戦争を起こしたのだろう……。




