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34-4 監査官から領地の秘密を絶対に守り通るクエスト――が成功するとは限らない 1/2 (挿絵あり

「アレクサント殿。あれは魔物、しかも飛竜のようだが……?」


 前回のおさらい。

 せっかく監査が上手く行きかけてたのに脱走レウラ登場、監査官殿に発見される。

 レウラのバカー、駄竜ー!


「……そうですね、竜ですね」


 杖を握り締めて天へと掲げました。

 迷いはありません。


「ちょっとドカーンッッて撃ち落としておきましょうか、死なない程度に」

「……いや止めてくれ。見たところまだ子竜だ。討ち漏らせば人類に要らぬ憎しみを抱こう」


 いいえむしろ人類ヤツに舐められてるかもしれませんよ?

 こっちはレウラ撃ち落とすのに何の迷いもないんですが無念、監査官殿には逆らえない。

 妬ましい白くて綺麗な竜に心で舌打ち飛ばしました。


「それもそうですね。……えっと、それで。ちなみにですが。……このことは報告とかされるんでしょうか?」


 ランド監査官の返答は無言の思慮でした。

 別にここは公国、モンスターの1匹くらい飛んでても冒険者ギルドとか軍に責任おっかぶせれるんですけど。


「ああいったものは、書類にするのが面倒だ。……止めておこう」

「確かに余計な仕事は増やさないに限ります。そうしておきましょう、ぜひそうしましょう。また迷い込んできたら私が代わりにお仕置き、しておきますので」


 ああ良かった……どうにかなりそうです。

 レウラの翼は超便利ですけど、市民生活をする上で問題の多過ぎる雑食性ペットなのですよ……。

 だって薬草はおろか宝石まで食いますからーアイツー。食われた金額はもう計算を止めました。


「む……。しかしアレクサント殿」

「え、今度はなんです?」


 空をキョロキョロ見回しました。

 レウラはもういません。どこに消えたのやら不安ですけど、どこぞの辺境までモンスター食べに行ったと信じましょう……。


「白い小竜は珍しい物を見れたと喜ぶとして。……アレク殿、アレは……アレは何だろうか?」


 監査官の指先が今度は領館側の道奥を指さしました。

 しかしもうレウラ以上に驚くものなんてありません。

 レウラは報告書的にスルー、その事実が俺の心を晴れやかにしてくれていました。


「あの生物は何だ? どうやら女性が上に、乗っているように見えるのだが……」

「…………」


挿絵(By みてみん)


 でもそれは勘違い、心は曇り、絶句のあまり俺は返答をすぐに返せない状況に追い込まれます。

 なぜなら道の奥に、合体したジェリー・ドロポンがいらっしゃってリィンベル嬢を頭に乗せていたんですから……。


 今何時だ?

 もう帰って来てたのかお嬢?

 いやしかしお嬢は何をしてるんだ……? まさか、ドロポンの散歩なのか……?


「上の少女はエルフか。あれは大丈夫なのだろうか……」


 そこで悟りました。

 忙しいアルフレッド、いい加減な俺、忙しいお嬢。

 この3つが折り重なりしとき……連絡事項の不備が発生するということを……。


 ザックリ言っちゃうと、伝え忘れていたぁぁ……。


「あっアレク! こっちこっち、こっちよ!」

「うっ……」


 監査官殿が興味を持ってしまった以上、この遭遇を回避することなんてできません。

 じゃあどうすりゃいいんだよっ?! って考えあぐねいていたらお嬢に気づかれました……。

 半透明で桃色のドロポンと一緒に、俺たちの前にノソノソとスローペースでやって来ちゃったのです……。


 まさかこんなタイミングで、屋敷からドロポンが連れ出されるだなんて……監査官殿になんて言い訳しよう……。

 はぁ……ここまで来たら嘘は通用しないと考えるべきか……。


「監査官殿。あれは、ええ、あれはどっちもうちのアトリエの者なのでご安心下さい……。私の本業は錬金術師でして、今は一時的に友人のアルフレッドに力を貸しているのです。……ご安心下さい」

「ふむ。しかしこれは、領地で魔物を飼っているということか?」


 ダメ、そのフレーズで報告されるとまずい。

 報告:アルブネア男爵は領地で魔物を飼っているようです。

 なんて報告が議会に上がったらさすがにまずい、かなりまずい、ヤツに恨まれます!

 領地を任せた大公様に迷惑がかかる、これもよろしくないに決まってました。


「いえあれは魔物ではございません。私は公都でも評判の錬金術師、自力であの生物を作り出したのです。……つまり、あれは私に使役されているのですよ」

「私も公国をあちこちと回ったが……確かに見たこともない姿だ。スライムとも似て異なる不思議な見てくれだな。……かわいげもある」


 アルフレッドが飼っているんではなく、俺という錬金術師が使役しているならまだマシでしょう。

 ああ何で元から開き直ればいいじゃん派の俺が、こんな妙な苦労を負わなきゃならんのです……。


「あら、そちらの紳士はどちら様かしら?」

「お嬢って人前だとお嬢様だよね。でも聞いたら驚くよ、こちらは――」


 お嬢に教えてあげましょう。

 ドロポンにのっかってご機嫌でお散歩中に運良く俺を発見してはしゃいでるみたいですけど、これがかなーりまずい状況だってことに。


 ところがどっこい、査察官殿の手のひらが俺の口元に伸ばされました。

 そのことは喋るなってことらしい。


「私はただの釣りをこよなく愛する男ランドだ。この開拓地の水辺に惹かれてな、ついついこんなところまでやって来てしまった」


 たぶん半分は本音なんでしょうね。

 ランド査察官の瞳は川や泉を見たときに輝くのです。


「あらそう。あたしはリィンベルよ、ここの開拓を手伝ってるの。よろしくねランドさん」

「何や何や散歩はもう終わりかいな、何なら自分が代わりにドロポン様様の面倒見てやってもええでー?」


 げ……そこにモショポーさんまで現れました……。

 人に紹介したくない知り合い最高峰は誰ですか、はい、モショポーさんです。

 人間がちっちゃい上にガメつくてセコいとか、付き合いがあるだけで恥です。


 いまやムキムキの超マッチョ女、しかもエセ貴族服装着。

 その欲の皮なみにでかい布袋にルビーウンコを詰め込んで、今日もうんこに目がくらんだ薄笑いを浮かべていましたとさ。


「アレク殿。あのたくましい女性と、袋に詰まった綺麗なものは何だろうか?」

「あーはい、あれはですね、大公閣下より恩赦された元詐欺師、今は開拓民のモショポー女史です。はっきり言っちゃえば、お付き合いをオススメ出来ない種類の方です」


 なんで次から次から見せちゃならねぇもんが現れるんですか……。

 モショポーさんとドロポンウンコだって説明するのがめんどくさいってのに……。


「何やそれケンカ売っとるんかーっ! ああーっ?!! ゆーとくけんどこのお宝は絶対ッッ渡さへんでぇぇーっ!!」

「誰もそんなウンコいらないってば……。好きなだけ集めていいからさ、今だけはあっち行っててよ……」


 あろうことか、そこでモショポーさんと監査官殿の目が合いました。

 監査官殿は相変わらずの無愛想、それがモショポーさんの猜疑心を刺激したらしい。


「何やこのおっさん! おうおっさん! これはなぁ、たーだーのー、このドロポン様のウンコやでぇーっ! 価値なんかあらへんでぇーッッ、わかったかボケェーッ!!」


 ああ……頭痛ぇ……。

 このクソ領民オブザイヤーめ……監査官殿を挑発すんじゃねぇよ……。

 どうもモショポーさん、ランドさんを商売人と勘違いしてるらしいです……。

 つまりこれ、一応牽制のつもりなんでしょうね……。


「ほんとプライド無いわねこの人……逆に凄いわ、執念っていうのかしら……」

「いやいや、お嬢はあんなふうになっちゃダメだからね、絶対、見習うの禁止」


 そんなことより監査官殿をどうにかしないといけません。

 モショポーさんのことは謝って、ああいうたち悪い下民もいますけど気にしないで下さい、ってフォローしておきましょう。

 ドロポンのことはもうしょうがないです。

 いっそ道作りマシーンな便利性能を見せつけてやれば評価も変わるでしょうか……。


「なるほど。では、質問ばかりですまないアレク殿。そのドロポンの、上に乗っているものについて、説明していただけるか? それと、アレは何を食べているのだ?」

「え、ですからそれはリィンベル嬢――って、ゲェェェッレウラァァァーッッ?!!」


 き……貴様なぜ戻ってきたバカーバカー!!

 何ということでしょう、いつの間にか飛竜レウラがドロポンの頭上に止まっていました。ドロポンは俺の席、そう言わんばかりに当然のふてぶてしさで。

 一方のお嬢は礼儀正しい淑女なので、もう監査官殿に気づくなり下馬ならぬ下ドロポンしていたのです……。


 ああ、もしかしたらレウラなりに監査官殿を警戒していたんでしょうか……。


「クルルル……ガツガツッ」


 いいややっぱ無しです。

 何を食べてるのだと監査官殿が聞いてきましたけど、よりにもよってソレってアレです。隠さなきゃいけないはずのグミの実でした……。


 全て収穫したはずなのに……取り漏らしがあったのか……?

 ていうかさ、なんでわざわざこんなところに持ってきて自慢食い始めんのさバカ! 駄竜! ホント駄竜!!


「ふふっ、あれはグミの実よ。じきに公都でも流通するようになると思うわ。実はあたし、あちこちにあれを紹介して回ってるのよ」


 彼が監査官とも知らずにお嬢が自慢を始めちゃいました。

 ありがとう超ありがとう助かってるよお嬢。

 でも……でも今はちょっと止めて……。

 これだけ変な物を山ほど見せてしまうと、議会への報告がまずいものに変質しかねないんです!


 ああ悔しいけど、今回だけはアルフレッドが正しかったかもしれない!


「そうだったか。……ではこの竜はリィンベルさんの物か?」

「いいえ違うわ、ドロポンもレウラもその男が飼い主よ」


 立て続けにレウラについての嘘がバレました……。

 このままではアルフレッドの代理が嘘を吐いた。という報告になってしまいます。ぐぬぬ……。


「そうですか」


 最悪のケースを想定するとこうです。

 悪の魔導師が若き領主アルフレッドに取り入って、その地で日夜妖しげな実験にいそしんでいる……危険だ!

 といった形になるでしょうかね……まずい。

 まあ俺、魔王化フラグ立ってるんでそのルートでも十分やってけそうな気もしますけど。

 ……ていうか客観的に現状を見てみると間違ってもいない。


「よっし、お前らもうあっち行け。散歩中だろ散歩、散歩行って。俺とランドさんはこれから大事な大事な話があるんだ」

「何よそれ、アンタまたおかしなこと始めるんじゃないでしょうね? ……まあいいわ、行きましょドロポン、レウラ」

「うちは散歩続けて貰えんなら文句ないでーっ! ほななー、薄らトンカチのアホマヌケー!」


 ランドさんを積極的に誘導して屋敷の方角に進みました。

 お嬢らもそれに合わせて散歩を再開してくれて俺としては一安心です。


「あ、でもアレク、今戻ると……ううん、何でもないわ。…………あの方も困ったものね」


 なぜかレウラだけはお嬢に付いて行かず、俺たちの上空を居場所に選んだようですけど。

 まあコイツは喋れないしいいです。余所者をやっぱり警戒はしているんでしょうかね。


ご指摘を受けて抜け落ちていた34-3話を追加しました。

その都合で本日更新した1話分を引っ込めました。申し訳ございません、手違いでござる……orz

ご指摘まことに感謝!!

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